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ナムの村に3日間滞在したマーギンはミャウ族の集落に向かう。滞在は2日間のつもりだったが、ハナコの愛が止まらなかったのだ。


「バネッサ、この辺は虫系の魔物が出ると思うから頼んだぞ」


「分かってるよ」


デカくて黒い虫が出ても平気なバネッサ。実に頼りになる。伊達に貧民街で育った訳じゃない。カタリーナはヒィィっとデカい虫が出るたびにマーギンにしがみつく。こっちは邪魔で仕方がない。


「もうホバー移動にするわ。歩いたら時間が掛かり過ぎる」


そう言うとぴょんと抱きつき抱っこしてくるカタリーナ。やめなさい。


カタリーナはお姫様抱っこにしてバネッサはいつものごとくおんぶして移動する。


「もっと飛ばさねぇのかよ?」


「直線じゃないからな。この移動方法は曲がる・止まるのには向いてないんだよ」


途中でテントを張って野営しながら移動し、夜はちゃんと寝たいのでテント周りにプロテクションを張っておく。魔力をかなり使うよなこれ。


こうして順調に移動をしたマーギン達はミャウ族の集落まで辿りついた。


「こんな所に住んでやがんだな」


「ここは先住民の大元なのかもしれんな。ゴイル達と違って王国側の人間にはまだ不信感が残ってるし、真なる獣人達もいるから揉め事をおこすなよ」


「お前じゃねーんだから心配すんな」


バネッサにトラブルの元と認識されてるマーギン。


門番の所に歩いて向かう。


「よおっ、王国の人間も連れてきたけど、入れてくれるよな?」


「はっ、ただいまミャウタン様にお知らせいたしますので少々お待ち下さい」


マーギンに敬語を崩さない門番。使徒扱いされたままだなこれ。


すぐに使いの者が戻ってきて中に案内される。


「へぇ、こんな風になってるんだぁ」


観光気分のカタリーナ。バネッサは一応警戒をしているようだ。


「わぁ、すっごーい。本当にケモ……むぐっ」


真なる獣人を見て獣と言おうとしたカタリーナの口を押さえるマーギン。


「迂闊な事を言うなと言っただろうが。あれが真なる獣人のワー族だ」


「ご、ごめんなさい」


「おっ、マーギンが戻ってきたぜ、宴会の準備だっ。ウナギも捕って来い」


マーギンを見付けたワー族達が伝言ゲームのように皆に伝えていく。タレ中毒者達だ。ミャウ族の皆はマーギンに頭を下げて迎える。


「マーギン、ここの貴族になったの?」


「ここには貴族制度はないぞ。前に来た時にチューマンを倒す特訓をさせてたからじゃないかな」


と、もっともらしい説明をしておく。


「ふーん。王都でも特訓してたのに、こんな態度取る人達いないよね?」


「まだ王都の人達は魔物の脅威に晒されている実感がないからな。そのうち特務隊がこんな風になるかもしれんな」


「オルターネン達が敬われるの?」


「そう。英雄扱いされるんじゃないかな。王都隣の村で隊長達が特訓を兼ねてボア討伐していた時にそうなってたしな。バネッサもチヤホヤされるようになるぞ」


「うっ、うちはそんな事をしてもらわなくてもいい」


自分が英雄扱いされると聞かされて照れるバネッサ。


「北の街での魔狼討伐の時でも皆喜んでくれただろ? あれが毎日のようになる」


「あんときゃマーギンが主役だったろうが」


「そんな事ないぞ。討伐に参加した皆を称えてくれたんだ。それを目的に魔物討伐をするわけじゃないけど、やっぱり喜んでくれるってのは嬉しいよな」


「ま、まぁそうだけどよ」


「金も重要だけど、金だけが目的だと充実感ってのかな、それが薄いのかもしれん。バネッサが特務隊に入ったのは正解だったんじゃないか」


「マーギンはうちが特務隊でやっていけると思うか?」


「いまさらかよ。お前は個としての強さは十分だ。あとは他の奴らを率いていく力が必要かな。そのうち1人でなんとかできない時が必ず出てくる。ロッカ達との連携みたいなものだけじゃなく、リーダーとしての力ってやつが必要だ」


「うちがリーダー……」


「マーギンっ、お帰りっ!」


ミャウタンの屋敷に着く前にポニーが走ってきて飛びついてきた。抱きつき抱っこだ。


「おー、元気だったか。お土産も買って来たぞー」


「ありがとう。お土産も嬉しいけど、ちゃんと戻ってきてくれて嬉しいっ!」


ポニーは抱きついたままマーギンの首元に頭をスリスリさせるので、耳をふにふにしてやる。


「マーギン、それ誰?」


「ポニーだ。ワー族だけどミャウ族のところで暮らしているんだよ」


「どうして抱きつき抱っこしても嫌がらないの?」


カタリーナは不満そうだ。


「ポニーはまだ子供だからな」


「私は?」


「お前はもう成人しているだろうが。むやみに男に抱きつくんじゃない」


「ローズは抱きついて良かったの?」


「え?」


「この前マーギンの家にローズが行った時に抱きしめたんでしょ?」


「ローズが話したのか?」


「あー、やっぱり抱きしめたんだ」


カタリーナにカマをかけられて引っ掛かるマーギン。


「ちっ、違っ、あれはちょっと実験をだな……」


あわあわするマーギン。


「責任取るの?」


「だから違うって言ってんだろうが」


「マーギン、なんの話?」


「ポニーにはまだ早い話かな……」


マーギンはフクロウのように顔を180度回して背けたのであった。



ミャウタンの屋敷であれからチューマンが出なかった事を聞かされる。しかし、チューマン討伐隊は厳しい訓練を続けているとのこと。


「自衛できないとまずいからな。皆の意識がちゃんとそこに向いてて良かったわ」


「はい、マーギン様のお陰でございます」


「今回この2人を連れてきたんだけどな、バネッサはチューマンがまだ出るなら討伐経験を積ませるつもりなんだ。フェアリーの本名はカタリーナといって、王国の第3姫殿下だ」


「えっ? 姫様なのですか」


「そう。こいつは社会経験を積む為に庶民街で商会の仕事を手伝ったりしている。タイベでの仕事内容の説明がてら連れてきたのと、先住民達の架け橋になれるかもしれんと思ってな」


「我らとの架け橋ですか?」


「そう。王国側と交流を考えるならこいつを頼れ。タイベの領主とも面識もあるしな。何よりこいつはいい奴だ」


「いい奴とは?」


「選民意識がないということだ。頭も悪くないし、何にでも興味を示す。王位継承権は最下位だから王になることはないだろうが王族だからな。王と王妃にも可愛がられているから架け橋としては適任だ」


「マーギン、私のことをそんな風に思ってたの?」


「思ってたぞ。今日は宴会になるだろうから皆との交流を楽しめ」


「うんっ♪ ミャウタン、宜しくね」


「カタリーナ姫殿下、こちらこそ宜しくお願い申し上げます」


ミャウタンとの話が一通り終わるとポニーがやってきた。


「話は終わった?」


「終わったぞ」


「ロブスンが儀式会場に来てくれだって。訓練の成果を見せたいみたいだよ」


「分かった」


ポニーと手を繋いで儀式会場へと向かう。


「マーギン、よく戻ってきた」


「あれから強くなったか?」


「その成果を見せたいのだ。そっちの女は前にも一緒にいたやつだな?」


「そうだ。こいつはバネッサ。訓練の成果を見せてくれるならバネッサと戦ってみるのもいいかもな」


「なるほどな。あどけない顔をしているが、強者の雰囲気を纏っているのがよく分かる。豹みたいな雰囲気を持ってるな」


「バネッサ、こいつはロブスンだ。ラプトゥルの時に会ったのを覚えてるか?」


「もちろんだぜ。後でうちとやろうぜ」


「それは楽しみだ」


と、バネッサとロブスンは握手をした。


「そっちは誰だ?」


「フェアリーと呼んでいるが本名はカタリーナ。王国の姫だ」


「お前、姫なんて連れてきたのか?」


「あぁ、ミャウタンに会わせておこうと思ってな。そのうちこいつが王国とお前らとの架け橋になるかもしれん。姫といってもそんなに気を使う必要もないから、後で飯食うときにでも仲良くしてやってくれ」


「カタリーナ姫様、ロブスンといいます。宜しくお願いします」


「フェアリーって呼んでね。宜しくロブスン」


「おやびーん、お久しぶりでヤンス」


「お、ピアンか。あれからちゃんと特訓してたのか?」


「当然でヤンス。で、どっちがおやびんのいろでヤンスか? それともこっちの女はもう子供を産んだんでヤンスか?」


「マーギン、いろってなんだよ?」


「お、俺も知らんぞ」


「いろってのは男にとっちゃ女ってことでヤンス。髪の毛が短い方はおやびんの子供を産んだんでやんしょ? でなきゃそんな乳になるわけねぇでやんす。もう1人は自分好みに育ててる最中でヤンスかね?」


なんてことを言い出すのだお前は?


「誰がマーギンの子供を産んだってんだっ。うちは独身だっ!」


言われている意味が分かって怒るバネッサ。


「マジでヤンスか。ならその乳でおやびんをたぶらかそうとしてるんでヤンスか?」


「誰がたぶらかしてんだっ!」


「ピアン、やめろ。マーギンの連れに失礼だ」


調子乗りのピアンを止めるロブスン。


「そんなつもりじゃなかったでヤンスが気を悪くしたら謝るでヤンス。おっぱいさん」


「殺すっ!」


「殺す? あっしをナメてもらっちゃ困りヤンスね。おやびんに魔法を教えてもらったあっしは無敵でヤンスよ」


「おもしれぇ。その軽口をズタズタにしてやんよ」


あーあー、いきなりこれか。まぁ、バネッサとピアンは勝負してみてもいいかもな。あれから風魔法をどれぐらい使えるようになったか確認するのにも丁度いい。


こうしてバネッサvsピアンの勝負が始まる事になった。



「いつでもいいでヤンスよ」


そう言ったピアンにピュッと牽制のオスクリタを投げるバネッサ。


ヒョイ。


それを難なく躱すピアン。


「そんなトロい攻撃なんか当たんねぇッス……うわっ!」


避けたはずのオスクリタが背後から再び攻撃してきたのも避けたピアン。


「どこがトロいだって? 手加減してやったのに避けるのギリギリだったじゃねーかよ。うわ、だってよ。笑かしやがるぜ。ほらほら、もっと踊りやがれ」


バネッサはもう一本のオスクリタも投げ、自由自在に操る。見事なもんだ。


「これはちとヤバいでヤンス。ならこっちも本気を出しヤンスよ」


ヒョイヒョイと避けるだけでは無理と判断したピアンは風魔法を併用して高速移動を始めた。そしてそれに付いていくバネッサ。


「なかなかやるでヤンスね。ならこうでヤンス」


ピアンはその場で止まり、風魔法で自分を包むことでバリアを張るような状態を作った。バネッサがオスクリタを投げても風に防がれる。


「くっ、そんな防御の方法があんのかよ」


バネッサは悔しそうな顔をして、オスクリタを操るが全て風に阻まれる。


「どうでヤンスか? どうでヤンスか? あっしの完全防御魔法、風の監獄でヤンス」


ワードチョイスの悪いピアン。それ、閉じ込められてるんだぞ。


バネッサがいくら投げても風に阻まれるのを見たピアンが挑発をする。


「それで終わりでヤンスか? もっとどんどん撃って来たらいいでヤンスよおっぱいさん」


「てんめぇぇっ! うちをおっぱいと呼ぶなっ」


バネッサはオスクリタに加えて通常クナイも投げていく。


「なんて名前でヤンスか?」


「うちはバネッサだ」


「あっしはピアンでヤンス。ほら、もっと撃ってくるでヤンス。ほら、もっともっと」


ピアンは完全に攻撃を防げていることに悦に入っていく。


「もっと撃ってちょうだい」


ピアンの挑発にイラつきが募っていくバネッサ。


「ピアン撃ってちょーだぁい」


ブチン。


切れたバネッサは遥か上空にオスクリタを投げ、悦に入っているピアンの頭目掛けて加速させた。


《ソフトプロテクション!》


ゴスゴスッ。


風魔法は真上を防御できてないので、強烈な威力のオスクリタがピアンの頭を直撃した。


「キュゥ〜」


「ケッ、いい気味だ」


「死ぬでヤンス……」


「ピアン、風魔法の防御は見事だったが油断しすぎだ」


「その通りでやんす……」


マーギンに褒められつつも呆れられたピアンにバネッサはゲシゲシと蹴りを入れて、鬱憤を晴らすのであった。



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― 新着の感想 ―
自分の能力に得意になって痛い目に遭うピアン まるで昔のバネッサを見てるみたいだ
なんか不思議な展開になってるなと思いましたけど >「ピアン撃ってちょーだぁい」 それが言いたかっただけかい!!
タケモトピアノ… コレは結構若い人にも分かるネタですね
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