客を呼び込む方法を考える。
無事にマルカ討伐を終えたマーロック。
「マーギンの取り分は半分の5千万Gでいいか?」
「俺の取り分はいらんよ。実際に討伐したのはお前らだ」
「何を言ってやがる。討伐方法の指示、武器、全てマーギンの力だろうが。報酬はちゃんと受け取ってくれ」
「俺は他でも金をもらってるからいらないんだよ。金が欲しけりゃ自分1人で討伐してるからな。それに今回の事でマーロック達の名前が売れた。パーティを決めといた方がいいぞ」
「本当に報酬はいいのか?」
「シシリーを迎えに行くんだろ? その資金にしろよ」
そう言われてハッとした顔をするマーロック。
「マーギン、まさかこういう事を見越してたのか?」
マーロックはシシリーの身受け金を聞いた時のマーギンも驚かず平然としていた。他人事だから無関心なのだろうなと思っていたが、こういう事を想定していたからなのかと今気付いた。
「大型クラーケンが出たら稼げるだろうなと思ってたが、先にマルカが出たのは想定外だったけどな。これから海の魔物討伐はマーロック達に依頼が集中するだろう。皆で報酬金を分けてもすぐに貯まるんじゃないか? ただこれからずっと高額依頼になるとは限らん。マルカやクラーケンが出るのが常態化していくだろうからな。さすがに領の資金でもしんどいだろ」
「本当にこの金は俺達だけで分けていいのか?」
「あぁ。武器は俺が提供したが、船はお前らが作ったんだ。もしかしたら1隻では足らなくなるかもしれん。ライオネル用とタイベ用が必要になるかもしれん。その資金にでも充ててくれ」
「分かった。マーギンの気持ちは受け取った。俺はこれから海の魔物にとっての海賊になる。魔物海賊マーロックだ」
もう好きにしてくれ。俺は知らん。
地引き網漁師の所に戻り、翌日タイベに向かう。
「マーロック、釣りしたい」
「嬢ちゃん、釣り好きだな。なら前使った仕掛けでなんか狙え。多分シイラとかが釣れるぞ」
「ワーイ」
沖に出て岩場を抜けながら仕掛けを流す。スピードも魚を釣るためのスピードに合わせて進む。
ドバッシャン。
「来たぞ」
「どっせー、どっせー」
カタリーナはいつの間にか覚えた掛け声で仕掛けを引っ張る。竿はないので革手袋をはめて仕掛けの紐を引っ張るのだ。
「きゃーーっ! ムリムリムリっ。マーギン助けてっ!」
結構大物のようでカタリーナが引きずり込まれそうになるので後からお腹に手を回して身体を支えてやる。
「腕が痛いっ!」
「ちょいと強化してやるから頑張れ」
マーギンはカタリーナに身体強化を流してやり、なんとか魚を釣り上げたのだった。
「ふぅ、疲れた」
上がってきたのは大きなシイラ。釣り上げた魚体はエメラルドグリーンに輝いてとても綺麗だ。
「シイラは食うか? それとも逃がすか?」
「食べる」
というので洗浄魔法と解体魔法ですぐに処理して冷やしておく。
「まだやるか?」
「ううん、もう満足」
ということで釣りは終わりになり、船はスピードを上げた。
「マーギン、気持ち悪ぃ」
バネッサの船酔いだ。
「ほら、こっちこい。スリープかけてやるから寝とけ」
バネッサを眠らせて床に転がしておくと、スピードの上がった船が海面を跳ねる。床で寝ているバネッサも跳ねて頭からゴンゴンという音が聞こえてくる。寝ているとはいえちょっと可哀想だなと、マーギンはバネッサをおんぶする。こいつをおんぶするのも久しぶりだな。
「きゃーっ、きゃーっ!」
船が大きく傾く度にきゃーっきゃーっと叫ぶカタリーナ。このままだと放り出されそうだ。
「俺に掴まっとけ。足腰の鍛錬が足りないから立ってられないんだぞ」
「わーい」
カタリーナはマーギンに抱きつく。
「掴まっとけと言ったんだ。抱きつくな」
「バネッサもおんぶしているからいいじゃない」
しょうがないやつだ。
マーギンは足を踏ん張り、船の動きに合わせてバランスを取り続け、夕方にタイベに到着した時にはさすがのマーギンの足もプルプルしそうな状態だった。
「バネッサ、起きろ。着いたぞ」
「まだ気持ち悪ぃ。このまま連れてってくれ」
こいつ……俺といると子供に戻りやがる。
今日は孤児院に泊まることにして、マーロック達と移動する。
「ほら降りろ。子供達が見てんぞ」
そう言うとヒョイっと降りたがすでに子供達に見られてしまった。なんか羨ましそうな顔をしている子供達。
「おぶって欲しいやつはいるか?」
「うんっ」
その後、子供達を順番におんぶした後にもみくちゃにされるマーギン。子供達も元気があってよろしい。
晩御飯にカタリーナが釣ったシイラを唐揚げにしてから甘辛にしてやる。バネッサ向けの味付けだから子供達も大喜びだ。
「この魚はねぇ、お姉ちゃんが釣ったんだよ」
「えーーっ、フェアリー姉ちゃんすげぇ! これめっちゃ旨いよ」
「お姉ちゃんすごーい」
子供達からお姉ちゃんと呼ばれてご満悦のカタリーナ。末っ子だからお姉ちゃんと呼ばれる事もなかっただろうしな。子供達にお姉ちゃんと呼ばれて悦に浸りたまへ。
マーギンはマーロック達と魚のすり身の魔導具とフライヤーを設置する場所を決めていく。ここで作られたはんぺんや天ぷらが売れるといいな。ま、残ってもここで食えばいいか。
その後は全員で蚊取り線香作りの手伝いをして就寝。カタリーナには女の子達が、バネッサには男の子達がくっついて寝る。子供でも選ぶ基準があるのだろう。カザフもそうだったけどな。と思うマーギンは男女関係なくワラワラと群がられていたのだった。
「マーギン、船で行かねぇのか?」
「イルサン経由でパンジャに向かうから大丈夫だ。今回は商売の事も兼ねてるからな。お前らはお前らの仕事をしてくれ」
「分かった。じゃ、帰りもここに寄ってくれ」
マーロックにだいたいの予定を伝えて領主邸に貨物船と客船の運営の契約書を届けてからイルサンに向かう。
「バネッサ、フェアリー、イルサンで何日か滞在する。飯は全て違う店で食うから感想をまとめてくれ」
「感想なんかまとめてどうすんだよ?」
「商売につながる話なんだよ。味、値段、店の雰囲気、店員の接客態度とか意識しておいてくれ」
イルサンで3日ほど滞在し、各自が別々に頼んだものをちょっとずつシェアして、食後に感想会。
「今のはどうだった?」
「辛ぇ」
バネッサのカレーの感想は辛い、めっちゃ辛い、めちゃくちゃ辛いのパターンしかなく、味がどうとかはない。ま、これも指標の1つか。マーギンはせっせと評価表に書き込んでいく。客を呼び込むものの1つとしてグルメカタログを作ろうと思っているのだ。やはり、王都にはないものをアピールしないとダメだ。もしくは王都でも人気があるものがご当地グルメだとかなり安いとかだ。
「この豚串旨いだろ?」
「塩だけでも旨ぇな」
「うん、おいひい」
やはりタイベの豚肉は旨い。王都への流通を増やすつもりだったけど、値段を上げてプレミア食材にするか。それがタイベに来たらめっちゃ安く食べられるのも売りになる。
イルサンでの調査を3日ほどかけて行い、日が暮れてから移動。イルサンからパンジャへ向かう道は王都ーライオネルより道がガタガタしているので板切れソリでホバー移動するのは難しい。岩とかあると大きく跳ねるからな。
「バネッサ、おんぶと抱っこどっちがいい?」
「は? 何する気だ」
「板切れで移動してもいいんだけどな、この道だと結構跳ねるんだよ。暴れ馬みたいになって落っこちるかもしれんだろ? だから板切れを使わずに移動する。だからおんぶか抱っこか選べ」
「じゃ、私抱っこ」
先にカタリーナが抱っこを選んだので、バネッサはおんぶ。
「バネッサ、お前のことは手で支えられんからしがみついててくれ」
バネッサにぎゅうっとしがみつかせて、カタリーナをお姫様抱っこ。
「すぐに着くからな」
マーギンが高速でホバー移動するとほんの数十分でパンジャに着いた。
「すぐに着いたーっ!」
「楽だなこれ」
「まだ他にもやることがたくさんあるからな。どこかで時間短縮をしないとダメなんだよ」
パンジャはリゾート地として人を呼び込むのがいいだろうなと思う。王都にはビーチで遊ぶという考えが浸透していないが、知れば来たがるかもしれん。
翌日、カタリーナにも水着を買ってやる。白と赤のボーダー柄のビキニを選びやがった。恥じらいはないのかね?
「バネッサ、水着は持って来たよな?」
「忘れた」
「ならお前も選べ。こぼれそうなのはやめとけよ」
「うるせえっ」
たがバネッサのスタイルが特殊なのでワンピースタイプは合うものがなく、ビキニになってしまったようだ。
ビーチに移動してテントで着替えさせる。
「マーギン、どうっ? ねぇどう?」
マーギンの前でくるくると回るカタリーナ。
「あぁ、可愛いぞ。1人だと声掛けられるだろうから離れんなよ」
「あっ、あんま見んなよ」
おぅ……やはりバネッサは破壊力抜群だ。オレンジ色のビキニでサイズを紐で調節するタイプ。
「おまえ、それ紐ほどけたりしないだろうな?」
「ちゃんと結んであるって。それよりあんまり見んなよ。恥ずかしいだろうが」
「こぼれ落ちそうで心配になるんだよ。そのままで人前をうろつくな。痴女と間違われんぞ」
「誰が痴女だっ!」
マーギンは目のやり場に困るので、自分のTシャツを出してバネッサに着せる。
「なんだよこれ?」
マーギンはデカい。バネッサは小柄。当然シャツはブカブカで、半袖なのに長袖だったかと思うような感じだ。
「ちょっと待て。裾をくくってやる」
腰が隠れるぐらいのところで裾を括り、袖もくくっていく。
ブッ。
「いきなりなんだよ?」
思わず吹き出したマーギン。襟ぐりが大きく、バネッサの胸元がそこから目に入るのだ。水着だけよりシャツの襟ぐりから見える方が破壊力があるのはなぜだろうか。
「い、いや。お前も俺から離れるなよ。絶対に他の男が寄ってくるからな」
そう言ったマーギンはバネッサの方をあまり見ないようにしたのだった。