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ナイスだカザフ!

「ったく、飲み過ぎなんだよ」


久しぶりの酒とマーギンにちゃんと褒めてもらったことでご機嫌に飲んだバネッサ。


「歩きたくねぇ……もうこのままここで寝る」


すっかりベロンベロンだ。うちの家ではこんな事になることあったけど、訓練所でなるなよな。


「宿舎まで連れてってやるから」


「イヤだ」


「ならおぶってやるから」


「それされたら吐くぞ……」


ちっ、しょうがないな。


「ならテントを出してやるから中で寝ろ」


マーギンは訓練所でテントを張り、バネッサに中に入らせるとすぐにスースーと寝息を立てた。


「このまま置いて帰るのものなぁ」


ここで何かあるとは思えないが、これだけ酔ってたら夜中に吐くんじゃなかろうか? しょうがないのでマーギンもテントで寝る事に。


初めはカブトムシの幼虫のように小さく丸まって寝ていたのにマーギンが隣に寝転ぶと大の字になるバネッサ。訓練で汗まみれになってたわりに汗臭いと思わないのが不思議だ。しかし、きちゃないことには変わりないので服ごと洗浄魔法をかけておく。


しばらくするとバネッサが足を乗せてこようとするのをペッと振り払って横を向く。


「足がだるいんだよ。乗せさせろよ」


「なんだよ、起きてんのか?」


「人の気配が隣にあったら目が覚めるだろうが」


「起きたなら宿舎に寝にいけ」


「面倒臭ぇ」


「俺に襲われてもしらないぞ」


「襲うなら襲えよ」


なんて事を言うのだお前は。そこはバッキャローと怒るところだ。


「なぁ、マーギン」


「なんだ?」


「お前、何を抱えてんだよ?」


「別に何も抱えてないぞ。商売の事もシスコに任せてあるしな」


「商売の事を聞いてんじゃねえよ。それならお前は何を目的としてんだよ?」


「目的?」


「そうだ。うちらを鍛え、獣人達を鍛え、そのおかげで今までとは考えられねぇぐらい強くなったと自分でも思う。カザフ達もそうだ。まだ成人もしてねぇのに、ここにいるやつらより全然強くなってやがる。なんのためにそれをしたんだよ?」


「ん? 前にこれから魔物が増えて強くなるからだと言ったろ?」


「なんでお前にはそんな事が分かってんだよ? それにこの武器だ。前に誰が使ってたか知ってんだろ?」


「まぁ、そうかも知れんな」


マーギンがそう答えると、バネッサはしばらく黙った後に、


「ミ、ミスティってやつかよ?」


マーギンはえっ? と驚いた顔をする。バネッサにはというより、ミスティの名前を出した事はなかったはずだ。


「お前、どうしてその名前を知ってる?」


今までお互い上を向きながら話していたが、マーギンがバネッサの方を向いた事でバネッサもマーギンの方を向いた。そしてお互いの顔を見つめ合う。


「知りてぇか?」


「あ、あぁ」


「一緒にタイベに行った時にライオネルの宿で泊まったろ? お前とカザフ達が戻ってこないから部屋で寝てんじゃねーかと見にいったんだよ」


「で?」


「お前を起こそうとしたら、いきなりうちを抱きしめたんだ」


「えっ? 嘘だろ? 全然記憶にないぞ」


「だろうな。お前は寝ぼけてうちと思ってなかったからな」


あの時、バネッサは自分が雪の中で白蛇にやられた夢を見ていると思ったのだが……


「うちを抱きしめながら他の女の名前を呼んだんだよ。それがミスティだ」


マジかよ……


「な、なんかすまん……」


「ミスティって、お前を振った女なのか?」


「違うわバカ」


俺を振ったとか言うな。石化されただけだ。それに付き合ってもない。


「なら、なんで泣きながら抱きしめたんだよ?」


「あー、その話が本当なら悪かった。多分寝ぼけてて、死んだと思ってたのが本当は生きてたんだと思ったんだろうな」


「死んだ?」


「多分な。ミスティってのは俺の仲間だったやつだ。もう随分と長い間会ってないから死んだと思ってんだよ」


「会ってないだけで勝手に殺してやんなよ。仲間だったんだろ?」


「そうだな。どこかで生きてるといいな」


「泣くほど会いたいなら、探しに行けよ。本当は惚れてたんだろ?」


「そんなんじゃねーよ。ただ一緒にいる時間が長かっただけだ」


「本当かよ?」


「本当だ」


そう答えるとバネッサはじーっとマーギンを見つめた。


「な、なんだよ?」


「お前はうちを……」


バサッ!


「マーギンっ! 探したぜっ」


バネッサが何かを言いかけた時にテントに飛び込んで来たカザフ達。


「あれ? おっぱいもここで寝てたのかよ?」


「こいつが酔っぱらって立てなくなったんだ。お前らは宿舎に戻ったんじゃなかったのか?」


「マーギンが家に帰ってくると思って待ってたのに帰ってこないから探しにきたんだよ」


「そうだったのか。そりゃ悪いことしたな」


「またすぐにタイベに行くんだろ? その前に俺達と勝負してくれよ」


カザフ達も腕試しをしたいのか。


「もう遅い時間なのに大丈夫か? 子供は早く寝ないと大きくならんぞ」


「大丈夫だって。ほら、早く早くっ!」


タジキとトルクがマーギンの手を引っ張る。


「おっぱいも起きてるなら来いよ」


「うちはもういい」


「いいから早く来いってば。4人でやれば勝てるかもしんねぇだろっ!」


「だからうちはもういいって言ってんだろうが」


カザフはバネッサの手を持って無理矢理引っ張り出そうとする。


「やっ、やめっ、今動いたらヤべぇんだよ」


「いいから、来いって」


カザフがテントから無理矢理バネッサを引っ張り出したところで、


「やめろって……うっぷ、オロロロロロ」


「うぎゃぁぁぁっ!」


バネッサから噴射されたサングリアをまともに浴びるカザフ。テントの中でバネッサがマーライオンにならなくて良かったと思ったマーギンは心の中で「ナイスだカザフ!」と親指を立てていた。


◆◆◆


「シスコ、調子は戻ったのか?」


ロッカはマーギンとバネッサが訓練所で飲んでいる頃、シスコとブリケと一緒に自宅に戻っていた。


「そうね。カニを食べてストレスが減ったというところかしら」


「それなら良かった。商売の事に関しては私はなんの役にも立たないからな」


「ねぇ、ロッカ」


「なんだ?」


「ロッカには人生の目標ってあるのかしら?」


「人生の目標か。私は強くなることだな」


「強くなった先のことよ」


「ん? 自分が強くなれば楽しいではないか。それではダメなのか?」


ロッカは今までの剣筋はこうだったが、今ではこうなって、こういう事ができるようになってだなと楽しそうに話す。シスコは嬉しそうに剣を振るような様子を見せるロッカに脳ミソも6パックなのかしら? と思っても口には出さない。


「どうしてそんな事を聞くのだ?」


「私はロッカ達と違って商売人の道を選んだでしょ? マーギンにどうして商売人になろうと思ったのかと聞かれたのよ」


「私たちの引退した後の居場所を作ってくれるためなのだろ?」


「それはそうなんだけど、商売人として何を成したいのかということなの」


「シスコは商売をしていても楽しくないのか?」


「まだ楽しいとは思えないぐらいプレッシャーがあるわよ。でもそれを乗り越えてもその先には何があるのかしら?」


「楽しければいいではないか。楽しいと思えなければやめればいい。もしくは楽しくなる方法を考えることだ」


「そうね……」


ロッカ理論は単純ではあるが、とても難しい生き方なのかもしれない。


「あなた達っていつもそんな難しい話をしているの?」


横で聞いていたブリケが目を丸くしている。


「あなたは何が目標なのかしら?」


「お金持ちになることよ!」


キッパリと言い切るブリケ。


「その後は?」


「えっ? なんでも好きなものが食べられて、欲しい服を買って、大きな家に住む。冬でも寒さに震える事もなく、お金の心配をしなくていい人生を送りたいわ」


「分かりやすいわね」


「そう。私もアージョンも貧しい村出身だからそういう生活に憧れてるの。でも……」


「でも?」


「現実には共働きをしてようやく食べていけるってぐらいかな。アージョンが特務隊に入れてもそんなにお給料もらえるわけじゃないみたいだし。でもたまに贅沢して一緒に焼き鳥を食べる生活も悪くないとも思うの」


「焼き鳥が贅沢なの?」


「そう。いつも行く焼き鳥は大将がおまけしたりしてくれるからよく行くけど、外食するとお金を使っちゃうからね。あーあー、アージョンもマーギンぐらい稼いでくれないかな。そうしたら食堂で1番高いワインをホイホイと頼めるのに」


と、不満気に言うブリケだが、幸せそうではある。


「シスコ、商売人のことで思い悩んでいるなら同じ商売人に聞いてみるのが1番良いのではないか?」


「商売人に? そんなに親しい商売人はいないわよ」


「1番身近なところにいるではないか」


「1番身近な商売人……」


ロッカにそう言われたシスコはその後、黙ってしまうのであった。


翌日


ブリケを魔道具ショップ昼のシャングリラへ連れていき皆に紹介しておく。


「私は出かけるから。今日は皆と一緒に店番をしておいてくれるかしら」


「わ、私は魔道具のことなんて何も知らないわよ」


領都にはない魔道具だらけの大きな店。客や商人達が入り乱れて来店しているのだ。


「初めての人に商品説明とか期待していないわよ。それとお昼ご飯はお好み焼き屋で好きなもの食べなさい。支払いはハンナリー商会にツケておいて」


「お昼ご飯まで商会が払ってくれるの?」


「あなた、食堂で働いてたんでしょ? いつもは賄いを出してもらってたんじゃないの?」


「そ、そうだけど」


「お好み焼き屋がハンナリー商会の食堂のようなものなのよ。安い店だから気兼ねしなくていいわ。その分後からきっちりと働いてもらうから」


そうシスコは言い残してフォートナム商会へと向かった。



「シスコムーン様、お帰りなさいませ」


「父はいるかしら?」


「お呼び致します」


「いるならいいわ。私が行くから」


シスコは店員達に貴族のお嬢様のように振る舞い、父であるフォートナムの部屋へと向かった。



「よく戻ってきたシスコムーンっ!」


ベチャッ。


「抱きつかないでちょうだい。暑苦しいわ」


シスコの顔を見たフォートナムは抱きしめようとしてヒョイと避けられていた。


「話があるの」


「なっ、なんだ。なんでも言ってみなさい」


「父さんはどうして商売人になろうとしたの?」


「そんな事を聞きに帰ってきたのか?」


「そうよ。悪い?」


父親にツンとするシスコ。


「確かにお前に話した事はなかったな」


フォートナムは真面目な顔をした。


「良かろう。場所を変えて話そうか」


商売人として大成したフォートナムはシスコの様子を見て何かを感じたのか、商売人の顔付きになり、シスコを外に連れ出した。



「マーギン、どこに行ったのかなぁ?」


その頃、朝早くに大隊長と2人でマギュウ狩りに出かけた事を知らないカタリーナは家や昼のシャングリラとかあちこちを探し回っていたのであった。



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― 新着の感想 ―
シスコの所も親子関係少しでも改善されれば良いね……
マーギンハーレムはよ!
いくらクリーンの魔法で綺麗にできるとはいえテント内でのマーライオンは簡便よなw しかし脳筋は本質を突くなぁ、確かに先人の話は為にはなりそうだ そして姫様立場が違いすぎるせいで結果ハブになっててかわいそ…
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