大変だなシスコ、アゲイン
マーギンがミャウタンから使徒様と呼ばれてざわつきが収まらないミャウ族達。
「マーギン、お前が使徒様って……」
ロブスン、毛のない顔は怖いから近づけないで欲しい。
「言い伝えと髪の毛の色が一緒なだけだ。ミャウタンも余計な事を言うな」
「も、申し訳ありません」
「今後、俺の事を使徒扱いするの禁止な」
「は、はい」
「チューマンの危機はしばらく大丈夫だと思う。俺は一度王都に戻る。次に来る時に仲間を連れてくるかもしれないけどいいか?」
「はい」
「マーギン、帰っちゃうの?」
「ちょっとの間だけな」
泣きそうな顔をするポニー。
「一緒に来るか?」
思わずそう言ってしまうマーギン。
「いいのっ? でも……」
ポニーはミャウタンの顔を見る。
「また帰って来るんだよね?」
「あぁ。調べたい事もでてきたしな」
「じゃあ待ってる」
「大丈夫か?」
「うん」
チラチラとミャウタンの顔を見ながらそう言ったポニー。
その夜、ミャウタンの家で食事をしながらチューマンの巣を潰した事を報告しておく。
「ここを餌場にしようとしていたチューマンの巣はもう大丈夫だと思う。が、他にも巣ができている可能性が捨てきれないんだよ。もし次にチューマンが出ても今ぐらいの数ならここの討伐隊だけで何とかなるだろう」
「ありがとうございます」
そして食事が終わった後にポニーとロブスンを残して人払いをするミャウタン。
「他に何か話があるのか?」
「ポニーを連れて行きなさいますか?」
「本人が望むならな」
「ポニー、お前はどうしたいんじゃ?」
「うん……ここに残る」
「お前の好きにしていいのじゃぞ」
「だって、ミャウタン様の星がもう1つしかないんだもん」
星?
「星ってなんだ?」
「ミャウタン様の右目の下にある星。本当は3つあるの。それが全部なくなったら倒れちゃうの」
マーギンはそう言われてミャウタンの顔をじっと見てみる。
あー、泣きぼくろみたいなシミがあるわ。
「マーギン様、これは私の魔力量を表しているのです」
どうやら、魔力満タンの時はシミが3つ。変化をしていると魔力を使い続けていることになるので、そのシミが減っていくらしい。
「でね、ミャウタン様がお休みになる時に私が変化してたの」
なるほどな。だからポニーは付いてくるのをためらったのか。
「そっか、ポニーは優しいな。なら留守番しとけ。王都で何かお土産を買ってきてやるから。それを楽しみにしておいてくれ」
「うんっ♪」
翌日、マーギンはミャウ族の集落を出た。時期はもう7月になりかけている。早く戻らねば。高速ホバー移動でナムの村に到着。1泊だけしてタイベ領都に向かった。
あ、貨物船の事を聞いておかねばと、エドモンドの屋敷を訪問した。
「そんな魔物が出ているのかね?」
先にミャウ族の集落にチューマンが出た事を報告する。
「魔物ならいいんですけど、魔物じゃないんですよ」
「どういう事だ?」
「魔核がなかったんです。ということは生物なんだと思います。もしかしたら虫から進化した種族なのかもしれません」
「なんだと……?」
「イメージとしては人族、獣人族、虫族みたいな感じですね。だけど、言葉は通じませんし、感情もなさそうです。こちらを餌としかみてませんので、共存は無理でしょう。まだ他にいるなら生存権を賭けた戦いになりますから、殲滅する必要があります」
「人類が負けたらどうなる?」
「チューマンが食物連鎖の頂点に立つ事になります。人類は餌ですよ」
そう答えるとエドモンドは黙ってしまった。
「自分からの報告は以上です。貨物船の事は何か進みましたか?」
「おぉ、そうだったそうだった。貨物船も客船もタイベ領のものとした。運営を頼みますぞ」
と、契約書類を見せられる。内容を確認すると破格の条件だ。タイベの港使用料免除、流通に関する売上の税免除。それに船の改装およびメンテナンス費用は領持ちだ。こちらの条件は冬季を除き、月間2往復の運航、船員や作業員はハンナリー商会の従業員とすること。
「かなり好条件ですね」
「うむ、その分、タイベとの流通と人の流れを増やして欲しいのだよ」
なるほど。人と物がより多く動くことを重要視したんだな。
「物流は何とかなるでしょうけど、人はどうしましょうね?」
「それも頼む」
インフラは整えるから企画はこっちでということか。大変だなシスコ。
「この契約書のサインは会頭にしてもらわないとダメですよね?」
「そうだ」
「分かりました。一度王都に戻ってなるべく早くタイベにきます」
「よろしく頼む」
と、エドモンドとの話が終わり、マーロック達の所に行く。
「やっと戻ってきたか」
「ちょっと色々あってね。悪いけど明日ライオネルまで送ってくんない?」
「いいぞ。アニカディア号で送らせてもらう」
マーロックに海の魔物はどうだと聞くと、まだ魔物は出ておらず、サメを仕留めてはナムの港に持っていっているとのこと。結構な量を狩っているらしい。
「で、頼みがあるんだがな」
「何?」
「魚をすり身にする魔道具を孤児院に置けないか? こいつらにはんぺんとか天ぷらを作らせて売ればいいんじゃないかと思ってよ」
「蚊取り線香だけじゃ売上もしれてるしな。いいぞ。2〜3台持ってくるわ」
天ぷらを商売に使うならフライヤーも必要だな。孤児院の仕事が増えたら自立もできるし、大きくなったら自分達で運営可能かもしれない。良い傾向だ。
そして翌日アニカディア号でライオネルに向かうとめっちゃ速い。朝出て夕方に着いてしまった。
「帰りはいつになる?」
「1週間もかからんと思うけど」
「なら、ここで待つか。地引き網の手伝いでもしてるわ」
と、話しながら地引き網漁の頭の元へいく。
「おぉ、来たか。貨物船のやつがマーギンを探しにきていたぞ」
と、聞かされたので、翌日、王都に向かう前に漁港へ行く。
「やっと来たか」
どこに行ってもやっと来たかと言われるマーギン。
「忙しいんだよ。で、俺を探してたんだって?」
「あぁ、タイベの領主に話を付けてくれたんだな。あっという間に決まって驚いたぞ」
「みたいだね。ハンナリー商会の担当者と話をしないとダメなんだけど、領主がかなり良い条件にしてくれたんだよ。これから忙しくなるぞ」
と、今後の展開を簡単に説明しておく。
「そうか。ま、こっちはやること変わらんからいいぞ。あと、北の領地の大型漁船もマーギンと話がしたいとずっと停泊してるぞ」
と言われてカニ漁船の所へ。
「おぉ、やっと来てくれたか」
まただ……
「なんの話?」
「いや、ニシンの卵はどうする? 塩漬けにしてあるけどよ」
「全部買う」
即答するマーギン。
「いいねぇ、やっぱりマーギンは話が早ぇ。カニも買ってくれるのか?」
「この時期でもカニ捕れるのか?」
「種類は違うけどな。デカいのと毛のあるやつだ。おい、持って来い」
と、運ばれてきたのはタラバガニと毛ガニ。
「全部買おう」
「いいねぇ。このエビはどうする?」
「このエビは何エビ?」
「他のエビより身が柔い。が、生で食うと甘ぇぞ」
と、剥いてくれたのを食べる。
「ボタンエビかな? めっちゃ旨いね」
「いいねぇ。やっぱマーギンだな」
「持ってきてくれたら全部買うけどさ、その度にずっと停泊してんのもダメだよね。俺もしょっちゅういるわけじゃないし」
「それが問題なんだ。他のやつらがたまに仕入れにくるがよ、値段がどうの、数がどうのと面倒臭ぇんだ。ちょっとしか買わねえクセに値段下げろとかな」
他の商人が買い付けにきた時の事を愚痴る船長。
「ならここにハンナリー商会の倉庫を作ろうか。カニとか数で値段決めるの面倒だから重さで取引する?」
「構わんぞ」
ということで、カニもエビも種類を問わずキロ2千G、魚卵系はキロ500G。豊漁でも不漁でも値段はそのまま。何か問題がおきた時は協議することに。
「取り敢えず今回の分は俺が全部仕入れるよ」
また大量にカニとエビと魚卵を手に入れたマーギン。お支払いもニコニコ現金払いだ。
「次からはここに倉庫を作るから、そこに納品して。担当にお金を持たせるからその場で支払うようにしてもらうよ」
「いいねぇ。なんか珍しいものがあったらまた相談するぜ」
「こっちこそ楽しみにしてるよ」
「おい、マーギン」
「あ、大型漁船の船長」
「北の街の漁船だけズルいんじゃねーか?」
「王都への流通はするけど、もう販路持ってるだろ?」
「そりゃそうだけどよ、まとめて倉庫に納品するだけなら楽じゃねーかよ」
「北の漁船はちゃんとした販路を持ってないから仕方がないだろ?」
「うちも大物は同じようにしてくれないか?」
「大物ってマグロとか?」
「そうだ。大物は丸で仕入れができるやつが限られてんだよ。そこを足元見て仕入れを叩いてきやがんだ」
「一定の買い取り金額でいいのか?」
「うちもその方が安定した売上になるから構わんぞ」
「不漁の時にも買い取り値段変えないよ?」
「その代わり豊漁の時も同じ値段で買ってくれんだろ?」
「大物はそれでもいいかな」
「よし、決まりだ」
本マグロはキロ500G、他のマグロは100Gとなる。可食外部位も含んだ重さだからこれでいいらしい。
「取り敢えず、デカいの5本あるけどどうする?」
「全部買う」
しかし、毎回全部仕入れて売らないとダメなんだな。大変だなシスコ。
商業組合に行って、港に倉庫を作って良いか確認をすることに。
「専用の倉庫ですか?」
「そう。流通を安定させたいんだよね」
「港は領主様の管轄なんですよ。勝手に施設を建てて良いかここでは判断ができません」
「なるほど。領主にアポイントってどうやったら取れるかな?」
「私ではちょっと……」
だよね。
「ありがとう。自分でなんとかするよ」
と、伝えて地引き網漁の所に戻ると、どっせーどっせーとマーロック達が手伝っていたので仕分けを手伝う。
小鰯が大漁だったのでオイルサーディンを作り、頭には生姜煮にしてやる。
「小さい鰯もこうして食うと旨いな」
「骨まで食えるからね」
「店でも出すか。こいつは売っても二束三文だからな」
「オイルサーディンも売れると思うぞ」
「生の玉ねぎと食うと旨いな。孤児院でも作らせるわ」
「なんでも売れるならやらしてやってくれ。そのうち名物になるかもな」
「おぉ、皆で頑張って稼がないとな」
マーギンもウィスキーの水割りを飲みながらオイルサーディンをウマウマと食ったのであった。