使徒違い
チューマン討伐を終えたマーギン達は集落に戻って飯を食いながら反省会。ポニーも横に座ってうまうまと食っている。今食ってるのはカニマヨをのせたピザのようなもの。トルティーヤをピザ生地に見立てて作ってやったのだ。
「包まなくても美味しいね」
マーギンを嬉しそうに見上げるポニー。
「だろ? まだ食べられるなら、チキン照り焼きも焼いてやるぞ」
「食べるーっ!」
皆でワイワイと食べながら、チーム内で訓練用丸太と動くチューマンとの違いを話し合っていく。
「マーギン、武器を使わない俺たちにも何かできることはないのか?」
ロブスンは弓使い達の護衛より、実戦に参加したいようだ。
「なら体術でも覚えるか?」
「体術?」
「あぁ。チューマン相手だと分が悪いかもしれんが、爪や牙に頼るよりいいかもしれん。次に出たら通用するかどうか試してみるわ」
「教えてくれ。俺達はきちんと学んだ事がない」
「だろうな。基本能力だけで通用するならそれが当然だと思う」
狩りのやり方とかは親や仲間から自然と学んでいくのだろうが、剣術や体術を自ら生み出す事ができる人は極稀だ。何かをベースに発展させていくのが普通だろう。
「俺も電撃矢を作り直すわ。今のやつはダメだな。成功率が低すぎる」
マーギンは飯を食った後に鍛冶師のところに行き、マーロック達に渡したクロスボウ作りに取り掛かる。矢の速度を上げるのと、振り払われても電撃を食らわせるように工夫をせねばならないのだ。
これはいずれ兵器につながるものになりかねないが、チューマンの脅威を考えると仕方がないと自分に言い聞かせた。
その後、ピアンに風魔法を使えるようにし、ロブスンに体術を叩き込んで行く。他のもの達にも厳しい課題を与え、さながらミャウ族の儀式会場がタイガーの穴のようになっていく。
「ロブスン、お前は身体強化の能力が開花しつつある。身体強化ってのは魔法の一種でな、下手に使うと魔力切れにもなるし、体力の前借りみたいなものだから、へばるのも早くなる。それを覚えておいてくれ」
「身体強化魔法?」
「そう。自然と使ってるとは思うんだけどな、意識してやるともっと強くなれる。だが、今言ったように体力の限界がいつもよりずっと早くにくるんだよ」
「意味が分からんぞ」
「じゃ、試そうか」
と、マーギンはローズにやったやり方をロブスンにさせる。つまり、その場でジャンプだ。
びょーーん。
自分の力で飛んでもかなりのジャンプ力を見せるロブスン。
「今のはお前の力だけだ。で、次は俺がロブスンに身体強化魔法を掛ける」
「マーギンが俺に魔法を掛けるのか?」
「そう。俺は元々そういう役目をしていたからな。さ、試すぞ」
ロブスンがジャンプする時に1.5倍の身体強化を掛ける。
しゅばっーーーーん。
「ぬおっ!」
めっちゃ高く飛んだロブスンは、くるくるっと回って地面に降りた。見事だ。
「なんだ今のはっ?」
「今のが身体強化魔法。俺が掛けたからロブスンの魔力は減ってないけど、体力は減ってるって感じだな。今からロブスンに直接身体強化魔法を掛けるから、それを感じとってくれ」
ロブスンの後ろに回って、背中に手を当てて身体強化魔法を流していく。
「何か感じるか?」
「あぁ、マーギンから力が入ってくるのが分かる」
「そこに自分の力を同調させろ」
ロブスンは言われた通りに集中していく。
「次はその力を足に流れるようにイメージ。それができたらジャンプしてみろ」
マーギンはロブスンから離れた。
バシュっ。
いきなり空に舞い上がり、めっちゃ飛ぶロブスン。
「さすがにこの高さはヤバいな」
空を見上げたマーギンは極軽いプロテクションを何枚も空中に張ってやる。
バリンっ、バリンっ、バリンっ。
プロテクションを砕きながら落ちてきたロブスン。
「た、立てん……」
「一気に強化したから体力切れだ。もう今日は足が使いものにならなくなったはずだ。そのまま寝てろ。明日からはどれぐらい強化するか魔力コントロールの修行だな」
こんな事をしているとまた儀式の日になる。今回はマーナナナナッのようだ。
マーギンはもうシスコを迎えに行っていないとダメな時期になっているので気が焦りはじめていた。が、くすぐったがるポニーの背中を親心で押すことによって心の平穏が保たれた。この儀式は良いものだ。
そしてまたチューマンが3匹現れた。
初回に倒してから次に来たのがだいたい1ヶ月後、今回も同じ間隔だ。巣はチューマンが歩くスピードで片道1週間ぐらいの場所にあるのかもしれない。往復で2週間と帰ってこない期間を待って次のやつが来るというところか? 他にも餌場がある可能性も高いけど。
「今回倒すのは2匹だけだ。まず俺が体術が通用するかどうか試してくる」
皆に攻撃させるの待たせてマーギンが突進。まずは攻撃パターンが前と同じか確認する。
右上腕、左上腕………
「同じだな」
他の者たちを隠れさせていたので、3匹共マーギンを襲ってくる。3匹それぞれ攻撃パターンを確認してみたが皆同じだった。
「はぁぁぁー、ふんっ!」
もう攻撃パターンの確認はいいと判断したマーギンは足から腰、そして上半身へと力が身体の中を連綿と流れる力を掌底に込めてチューマンの胸を攻撃した。
ドウンッ。
鈍い音がした時にはすでにマーギンはチューマンから離れていた。
攻撃を食らったチューマンの動きが止まる。そして……
ぶちゃっ。
硬い外殻と関節の間から液体を噴き出して倒れた。
それを遠目で見ていたロブスン。
「凄い……」
マーギンは体術が効くことを確認したので、1匹のチューマンに指を差した。
バシュっ、バシュっ、バシュっ。
続けざまにクロスボウから放たれた金属製の電撃矢がチューマンに当たる。通常の弓矢の攻撃とは比べものにならないスピードと威力の矢は振り払われずにチューマンに刺さった。
バジジジジジっ。
感電するチューマン。攻撃を食らってないチューマンは風魔法で吹き飛ばしておく。
何本も電撃矢が刺さった事で2秒以上動けなくなっているチューマンをマーギンが倒した。
「完了だ。全員退避」
1匹残してその場を離れて様子を見ていると、吹き飛ばしたチューマンが戻ってきた。そして倒れた仲間をしばらく見た後に去っていく。
「ロブスン、俺に付いてこい。他のものは集落へ戻れ。俺達はあいつの後を追う。しばらく戻れないと思うが心配は無用だ」
マーギンはロブスンだけを連れてチューマンの後を追う。
「巣はどこらへんだろうな?」
「しゃべるな。気付かれる」
2人は気配を消して後を追う。チューマンは早足程度のスピードで移動するが、ほとんど休憩することも寝る事もしない。それが3日ほど続いた時にロブスンの体力が尽きた。
「もう無理か?」
「すまん、ここに置いていってくれ」
「いや、今他のチューマンが出たらヤバいから連れていく。俺に乗れ」
「マーギンも相当疲れているだろうが」
「魔法で移動するからかまわん。さっさと乗れ」
マーギンはロブスンを背負いホバー移動をする。驚くロブスンは声を上げずに目を丸くしていた。
それから2日後に山に到着。隠れて見ていると、岩場の裂け目へとチューマンが消えていった。
「ここが巣か?」
「多分な。中に入るのはまずそうだから焼いておく」
「あいつに炎は効かなかっただろ?」
「チューマンには効かなくても岩には効くだろ?」
「は?」
「出でよ《フェニックスっ!》」
マーギンはフェニックスを出して岩場の裂け目にするりと突っ込ませた。
「ロブスン、全速力でこの場を離脱するぞ」
その場からばっと離れた2人。
その後、カッと眩い閃光が岩場の隙間から漏れる。
どぉーーーーんっ。
爆発にも似た衝撃が伝わった後に、岩の切れ目から炎が噴き出した。
「熱っつううっ。《プロテクションっ!》」
結構離れたのにここまで熱がきたので慌ててプロテクションで防ぐマーギン。
ドロッ。
裂け目のあった岩が熱で溶けて流れはじめ、その付近の山は少し形を変えた。
ガラ……ガラガラ、ズドドドドっ。
「げっ……」
そしてそれは土砂崩れを引き起こし、山全体の形を変えていく。
「なっ、なんだったんだ今のは?」
「き、禁忌魔法かな……」
マーギンは顔の毛が焼けてなくなったロブスンに目を合わさないようにそう答えたのであった。
「マーギン、無事で良かった」
集落に戻ったのは後を付けてから1週間後。戻ってきたマーギンに抱き着くポニーをよしよししてやる。
「巣だと思われる所を潰してきた。しばらくは大丈夫だと思うぞ」
「もうチューマンは出ないのか?」
「それは分からん。巣が1つとは限らんからな。だからこれからも警戒を続けてくれ。新しい武器と訓練をしていたお前らがいたら何とかなるだろ」
「マーギンはどこかに行くのか?」
「他にもやることがあるんだよ。予定より長くここにいたからナムの人達も心配してると思うんだよね。一度王都に戻ってからすぐにタイベにくるけどな」
「ここに戻ってくるのか?」
「部外者を連れて来ていいならな」
そう皆に説明すると、ミャウタンを呼んできてくれた。
「使徒様、貴方様の御心のままに」
皆が使徒様? と驚く。
「ミャウタン、俺は使徒じゃないと言っただろうが」
「いえ、貴方様はムーの使徒様に間違いございませぬ」
まぁ、そうなのかもしれんが……
「マーギンは使徒様なの?」
ポニーがきょとんとする。
「し、使徒違いじゃないかな……」
と、マーギンはフクロウのように顔を180度回して誤魔化したのであった。