マーギンの強さを知る
翌日も同じように移動し、ポニーがテントに入って寝た後にロブスンと話をする。
「なぁ、ロブスン。俺はよそ者だし、お前らの習慣や文化を全部知っているわけじゃない。それを前提で話すけどいいか?」
「改まってなんだ?」
「ポニーの事だ。恐らくロブスン達の感覚からすると、もう大人のくせに役に立たないポニーにイラッとしていたというのは理解した。だが、ポニーはまだ子供だと理解したことでそのイラつきは少しマシになった。これは合ってるか?」
「そうだな」
「あと、混じりと呼んで蔑んでいることなんだけどな、俺はそれがあまり理解できないんだよ」
「どういう意味だ?」
「お前、獣だろ?」
「なんだとっ!」
いきなりマーギンが獣呼ばわりしたことに激怒するロブスン。真なる獣人を獣呼ばわりするのは1番のタブーなのだ。
「ムカついたろ? でもな、お前らはポニーに対して同じ事をしているんだ」
「混じりは混じりだろうが」
「そう。ポニーには獣人と人族の血が混じっている。その混じりという呼び方の是非は別として、そこに蔑むような意味合いを含んでいることに問題があるんだよ。獣人と人族の間に生まれたのがそんなに悪いことなのか? もしお前らの文化や習慣で悪い事だとしてもそれはポニーのせいか? 違うだろ。ポニー自身が悪いことをしたとかなら別だけど、獣人と人族の間に生まれたのはポニーのせいではない」
「そ、それはそうだが」
「俺は人種の違いはあるというのは理解している。でも大きな分け方するとどちらも人間だ。魔物や動物じゃない。獣人は狼系や犬、猫とかの系統があるだろ? 人族も肌の色の違いとか、俺みたいに髪の毛や目の色が違うという違いもある。それだけで蔑んだり、争ったりするのは違うと思うんだよね」
「何が言いたい?」
「まぁ、今の事だけで言うと、ポニーにもう少し優しくしてやれということだ。あいつの変化魔法はまだ成長途中だと思う。ちゃんと意識して魔法を使えるようになれば他の人にも変化できるんじゃないかな。それがどう役に立つのかはまだ分からんが」
「人族の世界とはそんなに子供に甘いのか?」
「全部がそうじゃないけどな。でもそうであって欲しいとは思う。厳しい事を教える必要もあるけど、甘えられる時も必要なんだよ」
そう言うとロブスンは黙る。
「まぁ、ワー族もミャウ族もポニーをいらない子だと言うなら俺が王都に連れて帰ってもいいんだけどな」
「連れて帰るだと? 王国で獣人は差別されているのだろ」
「確かにそういう感じもするな。だが俺達と一緒にいるものはそんな事はしない。前に連れてた獣人の娘がいたのを覚えてるか?」
「あぁ」
「あいつも肩身の狭い思いをしてきたみたいだが、今は王都で普通に暮らしている。周りも見慣れて何とも思ってない感じだな」
「見慣れた?」
「そう。人族は獣人のことが怖いんだよ。獣人には力では敵わない。特にお前らみたいに牙があったり、鋭い爪を持ってたりするとよけいにな。だから警戒して近付かないようにしたり、近付いてこられないようにする。獣人も人族にそんな扱いをされたらムカついて攻撃的になる。それが繰り返されて、お互いの差別に繋がっていくんだ」
「お前は初めからワー族の事を理解してたではないか」
「俺も初めて獣人に会った時は驚いたよ。そして獣呼ばわりしてめちゃくちゃ怒られた。俺の師匠が獣人のことを教えてくれて、自分が悪かったことを理解してそいつに謝った。それで今みたいにちゃんと話をしたんだ。お互いに思っていることを飯食って酒を飲みながら話したら仲良くなったよ。全ての原因はお互いをよく知らないことにある。こうして会話ができるならそれも解消できるかもしれないだろ?」
「会話か」
「そう。それには強者が先に折れる必要がある。初めての話し合いでは失礼なことを言われても怒らないことだ。相手は心の中では怖いと思っているからな」
「お前と揉めた獣人は先に折れたのか?」
「いや、牙を剥いて威嚇してきたよ。でも俺は強いから怖いとは思ってなかった。向こうは俺が強いとは知らなかったけど、威嚇するだけで攻撃はしてこなかった。そこで攻撃されてたら、こっちが悪くても分かり合えなかったな。攻撃されたら俺も反撃せざるを得ない。下手すりゃ殺し合いだろ?」
「そうだな」
「それに俺の師匠が間に入ってくれてたからな。上手くいったのは師匠のお陰だ。もしワー族が人族と手を取り合おうと思うなら俺が間に入ってやる。俺は人族が悪いと思ったら人族に注意するし、ワー族の方が悪いと思ったらワー族に注意する。お互いが揉めて攻撃し合うようになるなら、俺が両方を攻撃する」
「両方を攻撃するか」
と、ロブスンはフッと笑った。
「お前は何人相手でも勝てると思ってるのだな」
「そうだな。人間相手なら何人いても勝てる。信じられないなら試してみるか?」
「いや、やめておこう。ラプトゥルの時にお前には敵わんと本能的に悟ったからな。お前がワー族の敵にならなくて良かったと思ってる」
「そうか」
それから少し飲むかとなり、辺りを警戒しつつも少し飲んで話をしていると、見張りの交代のワー族も参加し、結局ワー族全員参加の飲み会が朝まで続いたのだった。
今日は徒歩で移動したのでポニーにも歩かせる。ロブスン達もマーギンの話を理解したのかポニーに冷たい態度を取らなくなっていた。ポニーが望むなら王都に連れて行こうかと思ったけど、この感じなら大丈夫そうだなとマーギンは1人でうんうんと頷いた。
高速移動をしていた時はスルーしていた魔物も討伐しがてら移動する。ワー族より先に魔物を見付けて、ストーンバレットで撃ち抜いて倒すマーギン。虫系の魔物はフリーズで凍らせて処理。飯の時の火も、寝る前には皆に身体洗浄魔法を掛ける。あらゆる魔法を無詠唱で生活の一部のように使うマーギンをワー族達は感心を通り越して、神を見るような目になっていった。それから高速移動を数日続けて、ワー族のテリトリーにようやく到着したのであった。
「ロブスン、ミャウ族の集落にいく前に、見知らぬ魔物に餌場にされた集落に連れて行ってくれないか」
「分かった」
餌場にされた集落はワーラビット族の集落。農作物や家畜を飼っている集落のようだ。
「完全に荒らされてるな」
「あぁ。家畜は連れていけなかったからな」
家畜がいたところはドス黒く乾いた血の跡が残っている。
「骨が見当たらないが、丸のみしたり連れ去ったりするのか?」
「殺した後に肉団子にして持ち帰る」
「何? 肉団子にするだと」
「そうだ」
マーギンは嫌な予感がする。スズメバチやアリが同じ事をするのだ
「まずいな」
「何がだ?」
ガザッ
マーギンが最悪の状況を想定している時にそいつが現れた。
「マーギン、こいつが黒い魔物だ」
マーギン達が目にしたものはロブスンの説明通りの魔物だった。
「完全に虫系だなこいつ。ロブスン、ポニーを連れて離れてくれ」
「マーギン1人でやるつもりか?」
「あぁ。倒し方のパターンを見付けるから、よく見ておいてくれ」
ロブスン達を下がらせてマーギンは黒い魔物と対峙する。
《ファイアバレット!》
シュバババババッ。
ノーマル温度のファイアバレットを複数撃ち込んでみた。
「避けようともしやがらんな。これは炎耐性有りで確定だ」
黒い魔物はまるで気にしない様子で近付いてくるのでマーギンは距離を取る。
《フリーズ!》
ピキッピキッピキッ。
足元から凍る魔物。
バリンっ。
凍った足を普通に動かす魔物。
「虫系のくせに低温も耐性有りか」
こいつは良くない情報だ。低温耐性があるということは王都近辺でも出現する可能性が出てきたのだ。
「ミャウ族が使えそうな魔法では倒せんということだな。ではこいつで試すか」
マーギンはロッカの親父さん、グラマンの鍛造剣を手にとった。
「食らえっ」
ガキンッ
ガガガがガガッ
「やべっ」
マーギンの一撃を爪で受け止めた魔物はすぐさま4本の腕を振って反撃してきた。マーギンはそれを剣で受けながらバックステップで一旦離れる。
「これ、剣で倒せるやついるのか?」
マーギンが構え直すと、魔物が大きなハサミのような牙をカチカチ鳴らせた後に口を開いて4本の牙を動かせて威嚇する。
「怖っ」
と言いつつ、
《ファイアバレット!》
口の中にファイアバレットを撃ち込んでやる。
「ギギギギギッ」
口の中は少し効いたみたいで、嫌な音を出してこっちに突進してきた。向こうも本気を出してきたようだ。
突進スピードは雪熊ぐらいある。マーギンはバックステップをしながら爪攻撃をいなしていく。
ガキンッ ガキンッ ガキンッ
突進しながらだと、初めのような連撃にはならない。こうしてマーギンは様子を見ながら戦い、魔物の癖や攻撃パターンを引き出していく。
「マーギンは押されているのか?」
その様子を見ているワー族達。ポニーはブルブルと震えながらロブスンにしがみついて見ている。
「いや、マーギンには余裕がある。しっかり見とけ。多分マーギンは俺達の為に色々とやってくれているのだ」
《スタンっ!》
マーギンは攻撃を掻い潜って電撃を食らわせる。
バチィィッ。
ビクンッ。
電撃を食らった魔物の動きが止まる。
「おっ、硬い外殻は通電するんだな」
マーギンは動きが止まった魔物に止めを刺さずに離れる。
「ギギギギギッ」
「おっ、動きだした。あの電撃の強さで動きが止まるのが2秒程度か。これならなんとかなるな」
マーギンは再び爪攻撃を掻い潜って、足の付け根目掛けて剣を振り上げる。
ズバッ。
ズンッ。
「グギギギギギッ、グギギギギギッ」
片足の付け根を斬られた魔物はバランスを崩して倒れ、めちゃくちゃ威嚇してくる。マーギンは魔物の後ろ側に回り、首の後ろを隠すように守っている外殻と頭の隙間に剣を滑らせるように差し込み、止めを差したのだった。
「討伐完了!」
そう宣言したマーギンをポニーは輝く瞳で見ていたのだった。