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発明と恐怖

マーギンは遺跡漁りの村を後にして辺境伯領に向かう。その移動方法は走るのではなくなっていた。


ヒュゴーッ


「こりゃ発明だな」


砂漠で砂サーフィンをしていたが、スリップと風魔法を併用したらソリすらいらないんじゃないかと気付いたのだ。


少し浮いて風魔法でホバークラフトのように移動するマーギン。まるで紫色をしたモビルスーツのようだ。昼間にこれをすると怪しいので日中に眠り、夜間にマチョウの羽マントに身を包んで音もなく高スピードで移動していく。万が一誰かに見られても顔が分からないようにフードも作った。そして暗闇に黒い羽の塊が無音で移動していくのである。


「魔力値がエラーになるほど増えて良かったわ」


昔の魔力量ならこんな芸当は不可能だったけど、今なら空も飛べるかもしれん。怖いから止めとくけど。万が一落っこちたら痛いでは済まなそうだからな。


このことにより、格段に移動スピードが上がったマーギンは幾つもの村や町を素通りして城壁に囲まれた都市に到着した。


マチョウマントはものものしいので普通の服に着替えて、朝を待って門番のところへ。


「ここって、ゲオルク領?」


「そうだ。入るなら身分証を見せろ」


ハンター証を見せると無料で入れた。


「王都と変わらん規模だな」


北の領都も大きかったが、ゲオルク領都は1つの国と言ってもおかしくないと聞いていた通りだ。ここにたどり着くまでも村や街とかいくつもあったからな。


「さて、食料を買い込んでおくか」


通常の食料は遺跡漁りの村にほとんど置いてきたので、また買い込んでおかねばならない。カニやマグロ、マギュウはあげなかったけど。


数日、この街に滞在する予定なので大きめの宿をとり、その食堂で情報を仕入れることに。


「酒ってワイン以外に何がある?」


注文を取りに来てくれた女性に聞いてみる。どことなくリッカみたいな娘だ。


「何でもあるわよ」


「じゃあ、ウィスキーのお湯割りをもらおうかな」


「銘柄はどれにする?」


「銘柄はよく知らないからなぁ。じゃあ1番いいやつにするわ」


「はーい。後は?」


「ここのオススメって何?」


「人気があるのはキッシュかオイルフォンデュ、チーズフォンデュよ。お肉がいいなら、ラムステーキかローストラムかな」


「ここはラム肉が名産なのか?」


「ここに来るの初めて?」


「そう。ラム肉は苦手だからキッシュをもらおうかな。あと何かつまめるものを適当に」


「じゃあ、ラム肉が入ってないものを選んでおくわね。うちのラム料理美味しいのにもったいないことするわね」


と、言われたが、俺はあの風味が苦手なのだ。


キッシュはできるまで時間が掛かるそうなので、つまみとして持ってきてくれたソーセージとマッシュポテトを食べてウィスキーのお湯割りを飲む。


「このウィスキー、旨いね」


「そうよ。それで3000Gもするんだから。お客さん見かけの割にお金持ちなんだね」


げっ、これでそんなにするのか。宿の食堂だとなめてたわ。それより見かけの割にと言われたのが気になる。まぁ、ド庶民服を着ているから仕方がないけど。


つまみに持ってきたのはソーセージとマッシュポテトの付け合わせ。ソーセージはトナーレの方が旨いが、まずまずだ。マッシュポテトはどこで食べても似たようなものだけど、魚の餌みたいなんだよなぁ。ミスティにそう言ったらめっちゃ怒られたから言わないけど。


ウィスキーを飲みながらメニューをよく見ていくと、魚料理があまりない。あっても淡水系の魚だなこれ。


「はい、キッシュお待たせ。他に何か頼みたいものあるの?」


マーギンがメニューを見ているので、追加注文があるの? と聞かれる。


「魚料理は少ないんだな」


「海の魚は入ってこないわよ。美味しいのはマスくらいね」


「干し魚とかも入ってこないのか?」


「んー、入ってこないわね。なに? 魚が食べたいの?」


「いや、知り合いが商売を始めることにしててね、ソードフィッシュの干したやつとかここまで持ってきたら売れるのかなと思ったんだよ」


「ソードフィッシュ?」


「海にいる魔魚だよ」


「魔魚なんて食べるの?」


「塩漬けして干したやつを水で戻して料理にしたら結構旨いんだよ」


「へぇ、その魔魚はどこで捕れるの?」


「タイベで増えてるみたいなんだよね」


「タイベ? どこ」


「1番南の離れ領地だね」


「ゲッ、めっちゃ遠いじゃん。そんなの高くて仕入れるの無理だと思うわよ」


「だよねぇ」


まだ時間が早いので食堂は空いている。この娘も暇なのかここで喋ってても怒られないようだ。


「お、このキッシュ旨いね。というよりチーズが旨いのかこれ」


「そう。チーズも名産だからね。おつまみにチーズの盛り合わせ持ってこようか?」


「なら頼もうかな。それと赤ワインも追加で。銘柄は解らないからお任せで」


「ボトル? それともグラス?」


「じゃ、ボトルで」


今日はもう寝るだけだから飲もう。


キッシュを食べ終える頃に持ってきてくれた一口サイズに切られたチーズの盛り合わせをワインで楽しんだ。注文を取りに来てくれた娘が話し相手になってくれたのが良かったのか、久々に笑いながら飲んだマーギン。


「ご馳走様。いくら?」


「えーとっね、72000Gね」


と、ちょっと気まずそうに言う娘。


「じゃ、これで」


と、大金貨を出すマーギン。


「めっちゃ高いのに驚かないの?」


「ワインをボトルで飲んだからな。あれ、高いワインだろ?」


「うん、うちで1番高いワイン」


お任せにしたら1番高いものを持ってきたのだ。気さくに見えて商売熱心な娘だ。常連とかにはこんな売り方をしないだろうけど。


「怒んないの?」


「別に。もっと高い店とかで奢らされたこともあるからな」


「お客さんお金持ちなの?」


「ちょいと強い魔物を狩ると結構もらえるんだよ。泡銭ってやつだな」


お釣りを受け取って上の宿に上がろうとする。


「ここに泊まってるの?」


「そう。しばらく領都観光するから何日か泊まる予定にしてる」


「なら、明日案内してあげようか? 朝の営業が終わったらそのあと休みなんだ」


「観光って言っても、食料とかの買い物だぞ」


「なら、いい場所に連れてってあげる。朝食もここで食べるなら、その後に案内するよっ」


「そう? ならお願いしようかな」


と、約束をしたマーギンなのであった。



ーマーギンが出発した後の王都庶民街ー


「ダメだっ。親方ビクともしやせんぜっ」


「ったく、なにをやったらこんなことになりやがるんだっ」


庶民街にあるカタリーナの家を店舗に改装しようと大工達が苦戦している。マーギンが賊に襲撃されても問題ないようにガチガチに強化魔法を掛けてあるので、部分的に壊そうとしても歯が立たないのである。


「今日の工事は諦めて発注先に報告する。こんなんもん期日までに間に合うわけねぇ」


その後、隣の家々が買い取られ、大急ぎで新店舗が建てられていくのであった。



ー特務隊入隊テストー


ざわざわざわざわ。


騎士隊訓練所にて入隊希望者の選抜テストが行われている。希望者の大半は軍人だ。


「オルターネン、合格基準はなんだ?」


テスト内容を見ている大隊長とオルターネン。


「根性ですかね」


「技能ではなく、精神を見るのか」


「基本的な戦闘能力があるのは当然のことですからね。あとは特訓に耐えられる根性がないと無理でしょ」


「お前らがやらされた特訓をするのだな?」


「そうです。あとは魔力値の高いものは優先的に入隊させるつもりです。それでも根性がなければ落としますけどね」


テストはバトル形式。その対戦相手はサリドン達とロッカ達。1対1ではなく、全員入り乱れての戦闘だ。


「悪いな嬢ちゃん、とりあえず倒させてもらうわ」


1番弱そうなアイリスとハンナリーを狙う馬鹿者。


《スロウ!》


「ぐっ…… なんだこれは」


《ファイアバレット!》


飛びかかった馬鹿者はハンナリーにスロウを掛けられ、動きが鈍くなったところにアイリスから容赦なくファイアバレットを食らう。


「うきゃぁぁぁっ」


燃え盛る馬鹿者。


「おい、救急班。回収しろ」


オルターネンがヤバいと思ったものは即座に救急担当に回収され、治癒士に治療されていく。オルターネンはその後どうするのかを見ていた。今負けるのは分かりきったこと。重要なのはその後に心が折れずに再び戦闘に戻る根性があるかどうかなのだ。


「俺、いらねーじゃんかよ」


2人を守る出番がなかったタジキ。


「そない言いなや。あんたが前におってくれるから、こっちは安心して魔法を出せんねん」


「ならいいけどさ。アイリス、やり過ぎて即死させんなよ」


「カエンホウシャじゃないから大丈夫ですよ」


と答えるアイリスに、タジキは十分ヤバかったけどなと思っていた。



「トロすぎんぜお前らっ」


掛かってこないやつらの中に突っ込んでいって無双するバネッサ。それに対抗するようにカザフも同じように倒していく。


「くそっ、お前みたいなガキにやられるかっ」


ブンっ


振り下ろされた木剣をくるんと転がって躱すカザフ。


「死ねっ」


シパパパっ


「グハッ」


木で作った飛びクナイを投げて倒すカザフ。狙ったのは顔。木でできているクナイとはいえ、まともに顔面に食らったらひとたまりもない。


「おい、回収しろ」


次々に倒されては回収されていく入隊希望者達。治療が終わって再び戦場へと戻るものの大半は軍人だ。


「ホープ、お前の力を見せてみろっ」


バアム家3男、ノイエクスも入隊テストに参加していた。そして、自称ライバルのホープに対戦を挑む。


「ノクス、グチャグチャ喋ってないでさっさと掛かってこい。魔物は待ってはくれんのだぞ」


「同じ歳のクセに偉そうに言うなっ」


ゴンっ


ノイエクス瞬殺。


回収されて治療される。


「クソッ、ホープの野郎、めちゃくちゃ強くなってやがるじゃないかっ」


治療が終わるや否や即座に戦場へと戻っていくノイエクス。


「ほう、さすがはバアム家のものだな。一切躊躇することなく戻っていったな」


大隊長はノイエクスを見て感心していた。


「まぁ、一回で心が折れるようなら、騎士隊もクビにした方がいいぐらいです」


その後、何回もホープにやられては戻っていくノイエクスはテスト終了後、オルターネンから合格をもらったのだった。



「お前ら、なかなかやるな」


ロッカがそう言ったのは、以前マーギンにボロボロにされた隠密の里に捨てられたラリー達。


「お前もな。いくら強い剣士だとしてもあいつに比べたら弱いってんだ」


そう言って突っ込んできたラリー。


フンッ


ロッカが横に薙ぎ払った剣を軽く飛んで躱すラリー。


「甘いぜっ」


「甘いのはどっちだ」


飛んだところに斬りかかるロッカにラリーはニヤッと笑った。


ドゴンっ ドゴンっ バシュッ


「ぐはぁぁっ」


ラリーが目眩ましとなって左右に分かれて攻撃を仕掛けたサイマンとボンネル。ロッカはマーギンが教えてくれたラプトゥルの倒し方をずっと練習してきたのが今役に立ったのだ。


「くそっ、なんだあの技は……」


「魔物にもお前らのような動きをするやつがいるからな。それの応用だ。それより治療してもらって戻ってこい。もう一度やるぞ」


ロッカは練習の成果が出て、ニヤニヤと笑っていた。それを馬鹿にされたと受け取ったラリー達は治療もせずに何度もロッカに挑むのである。



「みんな、なんか楽しんでるよな」


「そうだねー」


トルクが見えない手で散らばっているものたちを掴み、そこにサリドンが威力をかなり落としたファイアバレットを食らわせていく。こちらは戦いとは呼べない作業と化している。


テストの現状を見ていた大隊長は、この1年、いや数ヶ月でマーギンはこんな部隊の礎を作ったのかと恐怖すら覚えるのであった。



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もう解体出来ないなら 事務所や多目的所にした方が 良いまである… 特務隊の合格者 1の位越えれるのか心配になってきた
私の住んでる地方は家庭の焼き肉と言えば丸いラム肉でしたわ。育っていくと全国的には普通じゃないと知りましたがw
武器やファイアバレットで負けるのはわかるけど 見えない手に拘束されるのは精神折れそう
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