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年末のそれぞれ

いつものごとくトナーレの街でソーセージを食べ、ケンパ爺さんの所で泊まり、村でネギを大量に買って王都に戻った。


王都に戻った翌日からカザフ達は北の街の魔狼討伐隊に参加することになり、星の導き、特務隊プラス特務隊入隊希望者、軍の特務隊予備軍と共に出発していった。ちなみにハンナリーは「嫌や、行きたくない」と騒いでいたがシスコに腰縄を付けられて引っ張っていかれたのであった。


マーギンはカザフ達にキルディアが出ると思うから気を付けろよと忠告だけして不参加。一度見て倒した魔物なら大丈夫だろうとの判断だ。


王都に残ったマーギンは昼間に職人街で小型船用の魔導コンテナやはるさめ的なものを作るもの、魚のすり身を作る魔道具を作ったり、自分のお楽しみ用のスモークサーモンとスモーク鴨やハム、ベーコンなどをもくもくと作っていた。そして12月も後半に差し掛かった頃、


「マーギン、お母様が返事はどうなってるのか心配してるって連絡がきたよ」


毎日やってくるカタリーナが王妃から返事の督促が来たと言う。


「返事? なんか約束してたっけ?」


「前に渡した手紙になんか書いてなかったの?」


「手紙? あっ……」


隠密が戻って来れない旨の手紙を渡した時に返信の手紙を受け取ったのをすっかり忘れてた。くそっ、マロ兄騒ぎのせいだ。


心の中で責任転嫁をするマーギン。


何が書かれているのだろうと、恐る恐る手紙の封を切る。


隠密の事は了承した旨と、相談事が書かれていた。


相談事の内容を要約すると、


《年明けの社交会にて魚料理とカニ料理を出す予定にしているので、材料の手配と調理の指南をして欲しい》


「王家主催の社交会っていつだ?」


「来年は1月1日よ」


ゲッ、もう一週間しかないじゃないか。


「明日に王妃様のところに行くと伝えてきてくれないか」


「何が書いてあったの?」


「社交会で魚料理とカニ料理を出すんだって。それの調理指南も依頼されてるわ」


「間に合うの?」


「うーん…… 材料はなんとかなる。カニも茹でるだけならなんとかなるかな」


「カニは茹でたり焼いたやつは美味しいけど、手掴みで食べるのは無理なんじゃないかなぁ? 女性はみんなドレス姿だし」


「ちなみにどんな料理が出るんだ?」


カタリーナに王家の社交会の料理を聞いてみると、今回は爵位を持つ全貴族が参加するため人数が多く、ビュッフェスタイルになるとのこと。小さめの料理で一口サイズのものを各自が取りに行くそうだ。


「魚料理って何を想定してるんだろうな?」


「お刺身だと思う」


「生魚食わない人の方が多いだろ?」


「だって美味しいじゃない」


あー、カタリーナが刺身やカニの事を王妃に話したからこうなってるのか。


カニは大量にあるから大丈夫だな。魚はマグロが2本ある。他の魚は社交会に出すほど数がない。くそっ、マーロックをライオネルに送る前に手紙を読んでおくんだった。


マーギンはカタリーナに明日に行くと伝言を頼んで王妃の元に向かうことになったのだった。



ー王妃の私室ー


「お返事を下さらないからヒヤヒヤしてましたのよ」


「申し訳ありません。バタバタしておりまして」


「カニは北の領地で捕れるものでしたわね」


「えぇ。カニを見慣れぬ人は見た目が気持ち悪いと忌避感があるようで、ライオネルに入港した北の漁船がカニの売れ行きが悪くて困ってたんですよ。なので全部購入しました。次回からはハンナリー商会に全部卸してもらって王都で販売していく予定です」


「試しに何か食べさせていただけません? カタリーナがあまりにも美味しそうに話すものでしてね」


「構いませんけど、ここで調理してもいいのですか?」


「構いませんわ」


王妃はカニを見たことがあるようだが食べた事はないようだ。


大きな皿を用意してもらってすでに茹でてあるカニを出す。


「これは茹でたものです。足のここを折ってやると、こうスポンと抜けますので、そのまま口へ」


執事やメイドが王妃になんて食べ方をさせるのだと慌てるが、マーギンが見せた手本の通りに食べる王妃。


「美味しいですわ」


「カニはとても美味しいのですよ。見た目の忌避感がなくなれば高級食材なんです。ただ、社交会で貴族の方々がこうやって食べるのはよろしくないのかとも思います」


「そうですわね。他にはどういった食べ方がありますの?」


「基本は焼く、蒸す、茹でるで同じ食べ方をします。料理は下ごしらえはしてありますので、ここで調理させてもらいますね」


今から作るのはカニクリームコロッケと茶碗蒸しだ。魔道具を出してここで作る。



「このカニクリームコロッケはよろしいですわね。こちらの御指南を頂いてもよろしくて?」


「あ、はい……」


よりによって1番面倒臭いカニクリームコロッケをチョイスされる。まぁ、作るのは城のシェフ達だ。頑張ってくれたまへ。


魚はマグロの刺身だけで良いとのことで、再びライオネルに行かなくてすんだのだった。


シェフに頑張りたまへと思っていたカニクリームコロッケは、シェフ達に今から新作料理をする時間はないと言われ、結局マーギンが年末ギリギリまで作り続けるしかなかったのだった。



ー同時期の北の領地ー


「魔狼ごときにモタモタするなっ」


オルターネンが特務隊候補の騎士と軍の特務隊候補者の指揮を取り魔狼討伐を行っていた。ホープは騎士、サリドンは軍の小隊長候補として魔狼討伐をしていた。



「おーっ、寒っ。うちらの出番はなさそうだよなぁ」


バネッサがマーギンからもらった耳当てを着けながら今の戦いを見ながら寒そうにしていた。星の導き達は今回は見ているだけだ。


「マーギンがキルディアが出るから気を付けろって言ってたんだけどなぁ」


と、カザフが呟く。今出ているのは今のところ魔狼だけだ。前回に比べて数も少ないので住民に避難もさせておらず、ここ以外も北のハンターや領軍で対応できていた。


「本当に出るのかよ?」


「ライオネルのずっと北の森に出たらしいんだよな。だからこっちも出る可能性が高いんだって」


そんな会話をしているうちに、この村を襲いに来た魔狼は半数ぐらいが討伐され、残りは逃げていったのだった。


夜の見張りは他のメンバーがしてくれる事になっているので、星の導きとカザフ達は焚き火を囲んで夕食をとることに。


「おっ、晩飯はラーメンか?」


「寒いからラーメンにした」


タジキが大鍋で全員分のラーメンを作り、それぞれが食べたいだけとって食べるスタイル。


「おっ、旨ぇ。タジキ、腕を上げたじゃねぇかよっ」


いつもはなんか違うと文句を言うバネッサがタジキの作ったラーメンを褒めた。


「適当に文句を言ってるんじゃないんだな……」


褒められたタジキは複雑な顔をする。


「なんだよ? 旨いって言ってるじゃんかよ」


バネッサはラーメンをズルズルと食べながら、褒めただろうがよ? と言いたげだ。


「これはマーギンが作ってくれたやつなんだよっ」


「マーギンが作ってくれた?」


「そう。スープの素も麺もな。俺は鍋でそれを煮ただけだ」


「ふーん、タジキが作るのと何が違ぇんだよ?」


「一緒だよっ」


そう答えた後にタジキはマーギン味のラーメンをもう一度よく確かめるように食べたのだった。



「デカいオーキャンが出たぞっ」


晩ごはんを食べ終え、一息付いた時に見張り番から報告が入ったようだ。


「おっ、出やがったみたいだぜ」


星の導き達とカザフ達は出撃の用意を整える。


「ロッカ、キルディアが出た。応援を頼む」


オルターネンが応援要請に呼びに来た。


「無論だ。皆にはやらせないのか?」


「今回は俺達とロッカ達で討伐する。他の奴らは初見だからな。倒し方を見せねばならん」


「了解だ。みんな行くぞ」


「気ぃつけてなぁ〜」


「あなたも行くのよ」


お留守番をしようとしたハンナリーはシスコにズルズルと引っ張られていく。



「前のやつよりいくぶん小型だな」


ロッカが近くまで来たキルディアを見てそう言った。


「それでもオーキャンではなくキルディアだ気を引き締めていくぞ」


オルターネンは他の皆に見学をさせて、特務隊と星の導き、カザフ達でキルディアの討伐を行うことに。  


「お前らっ、倒し方を覚えておけっ」


オルターネンが他の皆にそう言って討伐戦開始。


そしてキルディアが突進をしようとした瞬間に、


「スリップ!」


ドスンっ


アイリスのスリップでキルディアは前転するようにコケた。


「スロウやっ!」


次いでハンナリーのデバフ発動。それプラス上手く起き上がれないキルディアはトルクの見えざる手で抑え込まれていた。


トストスッ


そこへシスコが矢で両目を射抜き、


「やってやんぜっ」

「へへっ、早いもの勝ちっ」


バネッサとカザフが突っ込んでいって、身動きの取れなくなっているキルディアの腹を滅多斬りにしてその場を離れた。


そしてそのままキルディアは息絶えた。


「隊長…… 今のはどう参考にすれば良いのでしょうか」


「うむ、今のは忘れろ」


何が起こったのかさっぱり理解出来なかった特務隊志望の騎士と特務隊予備軍はざわざわするだけだったのであった。







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― 新着の感想 ―
星の導きのチートがすぎるw
なんか、マーギンから何かしらの出汁が出てるんじゃね?これ たぶん、マーギンから漏れてる魔力とかが味に関係してるとか??
王妃様がカニ脚をへし折る場面が目に浮かんで、思わず笑ってしまいました。執事やメイドが慌てるのも無理ないし、王妃様なら少し興奮気味に、かつ嬉々としているかもと、想像が膨らみます。
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