次回のパーティーはバアム家で
せっかくのカニパーティーなのに食おうとしない大将と女将さん。マーロックも肉組だ。海鮮系は日常飯だから肉の方がいいんだろうな。
シスコは一言も口をきかずにパキッと足を折ってはムグムグと食っている。よっぽどカニ好きだったんだな。それよりロッカよ、歯で殻を砕くな。シスコみたいに折れば簡単に食えるだろうが。バネッサは相変わらずカザフ達と取り合いしながら食ってやがる。山程あるだろ?
「マーギン、爪ちょうだいっ」
案の定、カタリーナは爪ポーションがお気に入りだ。
「ハンナ、カニはあまり好きじゃないのか?」
てっきり小躍りして食うと思ってたハンナリーの元気がない。
「めっちゃ美味しいで」
「その割には浮かない顔してんな」
「そやね。へへへへ」
と、苦笑いするハンナリー。
「子猫ちゃんは嫌な事があったのかしらぁ?」
シシリーは別にやってくれなくていいのに、ポキっと折って身を出しては俺に渡してくる。マーロックがチラ見してるからやめてくれ。
「シシリー、俺の事は構わなくていいからお前もちゃんと食え」
「食べてるわよぉ。はい、マーギン」
「あ、うん。ありがとう……」
「マーギンさん、ハンナはシスコさんにずーっと怒られてたんですよ」
シシリーにベタベタされている俺にアイリスがハンナリーの浮かない顔の原因を教えてくれる。だからシシリー、ローズも見てるんだからくっつくな。
「なんで怒られたんだ?」
「うちは商売人に向いてないて言われてん」
「まぁ、まだ商売人って感じじゃないな」
「うん、なんでもかんでもマーギンに任せすぎやて」
「お前はまだ何も知らないからな。前回と今回でなんとなく分かってきただろ? 俺も商売が専業じゃないから、俺のやり方が正しいかどうかは分からんけど、人と人との繋がりの大切さは学べたんじゃないのか?」
「うん」
ぷすっ。
「痛っ!」
後からそっと近付いてきたシスコがカニの足先でハンナリーの頬を刺した。
「何も知らない事より、知ろうとしない事を叱ったの。まだ理解できてないのかしら?」
「知ろうとしてる言うたやんっ」
「してません。あなたはマーギンが何かをしてくれている時にボーっと見てただけでしょ?」
「そ、そんな事あらへんっ」
「嘘おっしゃいっ! マーギンがマーロック達に1億G渡してあった事を知った時も、あなたはええなぁとか呑気に聞いてたじゃないっ」
「そ、そやかて、ええなぁ思うてんもん」
「いいかしら? あなたは何も考えてなかったでしょうけど、10万Gの給料を払う人を70人雇うということは月に700万Gは何もしなくても支払いが発生するのっ。物を仕入れて売ってお金が入ってくるのはいつになるのかしら?」
「も、もうちょっとしたら……」
「もうちょっとっていつよ?」
「は、春ぐらい」
「春っていつ?」
「4月……」
「いくら入ってくるのかしら?」
「わ、わからへん」
「当たり前でしょっ。いつ誰にどこで何をどうやって売るのよ。何も決まってないのよ。それを4月にはお金が入ってくるなんて気安く言わないでっ」
シスコがヒートアップ。討伐遠征中、ずっとこんな感じだったんだろうな。
「シスコ、こいつはまともに教育を受けてないんだ。そんなにきつく言ってやるな」
「マーギン、ハンナを甘やかさないで。この娘は来年19歳とかでしょ。今まで何をやってきたのよっ」
「シスコ、こいつの本当の年齢は今14歳だ」
「えっ?」
「なめられるんじゃないかと年齢を誤魔化してたんだよ。アイリスとフェアリーより1つ年下だ」
「あなた成人してなかったの?」
「えっ、いや、あはははは」
「獣人の血が出てるから身体の成長は早いみたいだけどな。だから人生の経験値がまったく足らん。親が商売人だったのもこいつが幼い頃の話だ。その後は親が逃げて1人で生きてきたんだから、商売の事を知らないのも無理ないんだよ」
「どうしてそれを先に言わないのよっ」
「ハンター見習いとかすんのにはよ大きならなあかんやん?」
「はぁぁぁぁぁ」
シスコは大きな溜息をつく。
「マーギン、見習いすらまともにしたことがない娘によくこんな大きな商売をさせようと思ったわね」
「なんか話がでかくなっただけだ。ま、商売の事はシスコに譲渡したろ? 後は任せた。俺ができる事はもうやったからな。残ってるのは魔蛾の養殖ぐらいだろ?」
「あなたねぇっ」
「俺も商売の細かなことは教えてやれないからな。これからの事はシスコの方が適任だ。服や化粧品の事は売り先もよく分からん」
「タイベの豚肉はいいとして、魚とカニを大量に仕入れたのはどこに売るつもりだったのよ?」
「さぁ?」
そう返事をするとキッとシスコに睨み付けられる。
「マーギン、昼のシャングリラで売ればいいんじゃないかしらぁ?」
「魔道具の店でか?」
「そう。奥様方がたくさん来てるから小売もできるし、商売人も来てるから卸もできると思うわよ」
「シシリー、それは本当かしら?」
「えぇ。小売はいいとして、卸をするより自分で売った方がいいとは思うけど」
「商売人相手なら買い叩かれるってことかしら?」
「いいえ。多分仕入れた商人は貴族に高くで売ると思うの。特にカニや大型の美味しい魚はね。1番利幅の大きいところを他の商人に譲ってあげる必要はあるのかしら?」
「貴族に販売ルートなんか持ってないわよ」
「そこに貴族がいるじゃない」
と、カタリーナとローズを見るシシリー。
「立ってるものは親でも使えって言うわよぉ。お仲間なんだからそれぐらい口利きしてもらってもいいんじゃないかしらぁ?」
シスコはしたたかではあるが、仲間を利用したくないのかもしれない。俺の事は利用するけれども。
「すまんが、私はあまり役に立てそうにない。そういう商売絡みの事はとんと疎いのだ」
ローズがとんと疎いのは商売だけではないかもしれない。オルターネンが世間知らずと言っていたのがよく分かるからな。それはそれで可愛いのだが……
「マーギン、なぜニヤけているのだ?」
「い、いや、別に」
「私がお父様かお母様に聞いといてあげる」
カタリーナ、それはやめろ。大事になりすぎる。
マーギンはカタリーナが王妃に貴族への販売ルートを相談した時の場合を想像する。
ほわんほわんほわん
王妃「これを買いなさい」
貴族「はい」
こんなの商売じゃねぇ……
「シスコ、俺が貴族街の商業組合に聞いといてやる」
「いいのかしら?」
「魔道具絡みで知り合いになったやつがいるからな。どこに話を持っていけばいいか聞いといてやるから、後は自分でやれよ」
「分かったわ。ハンナリー、あなたは商会長ではあるけど、まともに商売の事を覚えるまで丁稚ね」
「丁稚てなんなん?」
「見習いみたいなものよ」
マーギンはなぜ丁稚なんて言葉を知ってるのかは突っ込まずにおく。
「そうだ。成人の儀の場所はうちでやることで決まりでいいか?」
と、ローズが聞いてくる。
「シスコ、お前らの成人の儀のやり直しにフェアリーも参加したいと言いだしてな、それにローズも参加させたいようだ」
「わ、私は護衛としての参加を……」
「ローズの成人の儀の服がどんなのか楽しみねっ」
有無を言わせないカタリーナ。これが為政者の血と言うやつだろうか?
「えっ? 貴族の家でやるの?」
「もうどこか会場を押さえてたのか?」
「まだだけど……」
「ならいいんじゃないか? それにお前ら親を呼んだらいいんじゃないか? 本当はそうするんだろ?」
「それだとバネッサが……」
「バネッサの父親代わりは俺がしてやるよ。ハンナリーとセットだけどな」
「マーギンさん、私は?」
アイリスもマーギンに父親代わりをして欲しいと言う。
「お前も父親を呼べ。お前を疎ましく思ってたというのは誤解だったろ? ちゃんと成人の儀の姿を見てもらえ」
「えっ?」
「お墓で会った時はまだわだかまりがあっただろ? 和解したんだからいいじゃないか」
「そ、そうですね。来てくれるかどうか分かりませんけど、招待はしてみます」
「ねぇっ、成人の儀をやるってなんの話なの?」
リッカが話に割り込んできた。
「ロッカ達は成人の儀の時に親が来てなかったんだよ。アイリスもそうだしハンナもそうだ。だから正式なものじゃないけどやり直しをみんなでしようかとなったんだよ」
「オルターネン様の家でやるの?」
「皆がそれで良ければな」
「ロッカ、バネッサ、話は聞いてた? 会場の事甘えていいと思う?」
「ローズ、本当に良いのか? 我々は庶民だぞ」
「この事は次兄が言い出したことなのだ。そちらが良ければ気にすることはないぞ」
「なら、いいんじゃないか? 人目に付く会場だと恥ずかしいなと思っていたからな」
「確かにそうね。ローズ、お願いしていいかしら?」
「分かった。それでは伝えておこう」
「私も行くっ」
リッカも行きたいと言い出す。
「お前は大将も女将さんも一緒に参加してくれただろうが?」
「私も行きたいのっ」
「ならリッカちゃんも一緒に来ればいい。大将、いいですよね?」
「あ、うん」
貴族の家と聞いて子供みたいになる大将。本当にこういうのダメだな。
ということで、成人の儀はバアム家で行う事が決定したのだった。