カニパーティーの準備。
「マーギン、今日は職人街に来るのかしら?」
マーロックが自分を身請けするのは無理だと悟ったシシリーはいつもの感じに戻り、マーギンに予定を聞く。
「いや、今日は家でやることがあるから行かないな。そうだ明日晩飯を食いに来るか?」
「誘ってくれるの?」
「シシリーはカニって知ってるか?」
「こんなやつでしょ?」
シシリーは両手でチョキチョキする。
「そうそう。それを大量に仕入れたんだよ。星の導き達が討伐から帰ってきたらそれを食べる予定にしててね。多分明日には帰ってくるから」
「あんなの身なんてほとんど入ってないじゃない?」
「エル… シシリーの知っているカニとは違う。親分が仕入れたのはバカでかいカニだ」
マーロックが違うカニだと補足する。多分シシリーの知ってるカニは小さなやつなのだろう。ガザミ系かモクズカニ系なのかな?
「本当にお邪魔していいの?」
「大将の店かうちで食べる事になる。うちでやるならかなり狭いけど、なんとかなるだろ」
「わかったわ。早めに終わらせてくるわね」
遅くてもいいぞと言っておく。ロッカ達がいつ帰ってくるか分からんからな。大将の店だと閉店後になるし。
シシリーはマーギンにだけまたねと言って家を出ていったのだった。
家の中には目を伏せたままのマーロック。気持ちは分かるがうっとおしくてかなわん。
「ほら、しっかりしろっ。うっとおしいぞ」
「親分…… 俺はどうすりゃ……」
「どうもこうもあるか。スッパリ諦めるか、死ぬ気で稼ぐかのどっちかしかないだろ」
「稼ぐったってよぉ」
「俺がお前らにやってもらいたい事はいくつあった?」
「えっ?」
「海運、陸運、蚊取り線香の栽培と生産、他には?」
「ま、魔物討伐」
「そうだ。魔物討伐はハンナリー商会の仕事じゃない」
「そりゃ一体どういう意味で……」
「ハンターで稼いだ金は商会の収入じゃない。稼いだやつのもんだ」
「俺にハンターで稼げって事か?」
「そういう事になるな」
「ハンターって1億Gも稼げるのか?」
「それはその時の依頼による。誰も倒せないような魔物が出たらチャンスだな」
マーギンはそう言ってマーロックにニヤッと笑ったのだった。
マーロックにお小遣いを渡して気分転換に街を見に行って来いと伝える。俺は色々と作らねばならぬのだ。
カニをどんどん茹でていき、足はそのまま収納して魔法で肩肉は身だけにしていく。これは解体魔法ではあるが、カニ剥き魔法として売ればシスコとか買うのではなかろうか? ホジホジも悪くはないが、一気にがーーっと食べたい時もあるからな。
爪は殻に切り込みを入れて爪ポーションにしてやる。カタリーナが嬉しそうに食うだろう。
カニを茹でた汁に牛乳で溶いた小麦粉を入れてホワイトソースを作り、炒めたまねぎと肩肉をほぐしたものを加えてグラタン用とカニクリームコロッケ用のベースを作る。クリームコロッケのタネを冷やして手早くコロッケにして収納。お楽しみとして、チーズインのものも作っておいた。
次にカニ焼売とカニの茶碗蒸し、カニの押し寿司なんかを作り、マーロックが帰ってくるまでせっせとカニ尽くしを用意したのであった。ハンバーグと唐揚げの甘辛の仕込みもしておいたのは内緒だ。
晩飯を食いに大将の店へ。
「いらっ……」
マーギンの顔を見てそこで言うのをやめるリッカ。
「しゃいませまで言えよ。随分と店も落ち着いたな」
混んではいるが、延々と行列ができるほどではなくなっているリッカの食堂。
「お好きな席にどうぞー」
といっても空いてる席は1つしかないのでそこに座る。
「マーギン、新顔だね」
つれないリッカの代わりに女将さんが注文を取りにきた。
「こいつはマーロック。ハンナリー商会で働くやつだ」
「へぇ、そうかい。随分とゴツい男を雇うんだね。護衛代わりかい?」
「まぁ、そんなところだ。女将さん、明日の夜にカニパーティーをする予定なんだけど、ここで閉店後に出来るかな?」
いつもの2つと注文してから明日の予定を聞く。
「ダットを呼んでくるよ。カニってのはなんだい?」
「こんなやつだ」
と、マーギンは実物を見せる。
「こんな気持ち悪いやつを食わせるつもりかいっ」
「嫌なら止めとくけど。みんなそんな反応をするから売れなくてカニ漁師が困ってんだよ。だからハンナリー商会で全部引き受けるつもりなんだ。食ったら旨いんだぞ」
「あんたは毒魚も食べて旨いというじゃないか」
「だって旨いじゃん」
「どうせやるなら鴨にしなよ」
「今年は狩る暇がなくて鴨はないよ」
「ったく、ダッドも同じことを言うと思うけどねぇ」
と、女将さんはダッドの所へ行った。
「マーギン、そんなの食べるの?」
それを見ていたリッカがこっちに来る。
「味見してみるか?」
マーギンは味見用に爪ポーションを取り出し、スポッと殻を抜いてリッカに差し出す。
「匂いは美味しそうね」
「だから旨いんだって。人気のない今なら安くで仕入れられるぞ」
そう言うとマーギンが持つ爪ポーションを恐る恐る口に入れた。
ムグムグムグ。
「あっ、美味しい」
「だろ? 他にも色々と準備をしてあるんだけどな、大将も女将さんも嫌ならうちでやらざるをえないんだよ」
「私も行くっ」
「うちでやるには狭いんだよ。ここでやれるように大将に言ってきてくれ」
リッカはそのまま厨房に走っていき、賄いを持った大将を呼んできた。
「また、なんか気持ち悪いものを持って来やがったんだってな」
「俺には旨そうとしか見えないんだけどな。大将には足を味見してもらうわ」
茹でたカニの足をパキッと折って身を出して食わせる。本体は見せてはいない。
「おっ、旨ぇじゃねぇか。どんなやつだ?」
というので本体を見せる。
「こりゃ蜘蛛か? 気持ち悪ぃもん食わせやがってよ」
「蜘蛛は足が8本、カニは爪を入れて10本だ」
たしかタラバの足は8本だったな。ということはタラバは海の蜘蛛か? いや想像するのは止めておこう。俺も蜘蛛だと思ってしまったら食べられなくなる。
「料理人なら味で判断しろよ。で、明日ここでカニパーティーしたいんだけどどうする?」
「明日は休みにしてあるから構わんぞ。その代わりマギュウかなんかも出せ」
「へいへい。じゃ、ロッカ達が帰ってきたら来るよ。時間は何時になるか分からんけど、門が閉まる前に帰って来るだろ」
「わかった」
その後にマーロックを紹介して賄いを食べたら、マーロックも旨いと言っていたのだった。
翌日
「マーギンっ、お母様からの手紙っ!」
朝っぱらからカタリーナがやって来た。昨日もなんやかんや作っててまだ眠たいのに。
「報告の手紙だったから返事不要だったのにな」
とりあえずカタリーナとローズを家に入れて朝飯を出す。食ってから来いよな……
「美味しいっ! 魔木の実の味がするっ」
今日の朝ごはんはパンケーキ。魔木の実を砂糖に漬けてシロップにしたものをかけてやったのだ。
「甘い匂いにちゃんと甘みが付いてるだろ?」
「うんっ。どうやって作ったの?」
「魔木の実を砂糖に漬けておいただけだ。酒にも漬けてあるから、魔木の実酒も春頃には飲めるぞ」
「うわぁっ、楽しみっ」
「マーギンは姫様に甘いのだな。これは姫様のために作ったのだろ?」
「そうだな。魔木の実シロップは持って帰る?」
「せっかく作ったのだろ?」
「いくつか作ってあるから大丈夫。ローズが朝飯を作ってかけてやればいいよ」
そう言うとローズは苦笑いをした。タイベで料理を作ってみると言ったきり、結局何もしなかったからな。
「今日はどうするのだ?」
「ロッカ達が討伐遠征に出ててね、今日戻ってくる予定なんだよ。晩御飯にカニ尽くしパーティーをする予定だよ。ローズ達も来るだろ?」
「いいのか?」
「いいよ、そのつもりだったから。ちい兄様達は?」
「うむ、特務隊への入隊希望者の試験と軍にも同じ組織が出来たようでな。年明けから軍の組織と統合するかどうかの打ち合わせがあるようだ」
「へぇ、軍も魔物討伐をすると言ってたけど、別部隊にするんだね」
「そうみたいだ。やはり隣国を刺激しないようにとの配慮のようだ。統合するとなると次兄が指揮を取るようになるかもしれん」
今更オルターネンの事を次兄とかいうローズ。
「まぁ、実力からいってそうなるのが自然だね」
実戦に出ながら部隊の指揮を取るの大変だろうな。
その後、カタリーナに夕方にまた来いと言って家に帰らせて、カニパーティー用の仕込みをまたするのであった。
「戻ってきたわよっ」
急いで帰ってきたロッカ達。そんなに急がなくていいだろと言われてもシスコはみんなを走らせたようだ。
「まだ晩飯には早いぞ。一度家に帰ってシャワーを浴びてこい。冬なのに汗だくじゃないか」
「マーギン、腹減ったっ」
「晩飯まで我慢しろ。先に風呂に入ってこい。汗臭いぞ」
そう言うと自分をスンスンするカザフ達。俺が一緒にいないから洗浄魔法もかけることができなかったからな。
「マーギン、うちもここで風呂に入りてぇ。湯に浸かりてぇぞ」
バネッサがここで風呂に入ると言う。
「お前、風呂に浸かってるのいつもほんの少しじゃないか」
「それでもだよっ」
「なら、着替えを取りに帰れ」
「分かったよ」
そしてカザフ達が風呂に入っている間にバネッサに着替えを取りに帰らせ、戻って来た時には全員着替えを持ってきたのだった。
順番に風呂に浸かっている間にシシリーもカタリーナも来たのでリッカの食堂に向かったのだった。