慌てた時の実力
飯の後にクズ真珠の買い取り。金貨1枚の袋が28袋あった。
「結構集まるね」
「はいっ」
お金を渡すととても嬉しそうに返事をしてくれた。デザートはデカいライチの様なサモワンを貰う。
「これは美味いな」
と、ちい兄様も言う。
「だよね。採ってすぐに食べないとダメだからタイベに来ないと食べられないよ」
「そうか。それは残念だ。タイベに来る時の楽しみにするしかないな」
そんなに気に入ったのならとジュースにもしてくれた。それから今晩はここで野営をすることに。漁師達と遅くまで飲んで、ハンナリーのラリパッパで踊ったりして楽しんだのだった。
翌日あれだけ飲んでいたのに、カタリーナが釣りをしたいということで早朝から付き合わされる。ゴイルは昨晩にハナコと帰ったので自分でハンナリーと二人の面倒を見なければならない。ゴイルがパーティーメンバーに入ってくれると楽なんだけどな。
「きゃーっ 釣れたっ」
「おっ、シマアジじゃん。それ旨いぞ」
カタリーナが釣ったのは立派なシマアジ。
「ほんとっ?」
「あぁ、どんどん釣れ」
「うははははっ、うちはこんなん釣れたで」
「お前のはオオモンハタだな。それも旨いぞ」
餌が生きエビだと色々なものが釣れるんだな。
それからもシマアジを10匹程と、ハタ系の魚を結構たくさん釣っていた。カタリーナは底まで沈めておらず、ハンナリーは底付近を狙っていたようだった。
「ありがとうね。2人共楽しんだよ」
マーギンは船を出してくれた漁師にお礼を言う。
「おぅ、釣りでこんなに喜んでもらえるなら、船を出したかいがあるわ」
漁師にとって釣りは仕事であってレジャーではない。
「たくさん釣れて楽しかった。また来たら連れて行ってね♪」
「おうっ、いつでも来てくれ」
漁師もカタリーナの屈託のない嬉しそうな顔にやられたようだ。きっとこいつは支配者向きなのだろう。民衆を圧迫する事なく上手くコントロール出来そうだ。先住民達も抵抗なく受け入れているしな。
皆の野営地に戻ると、きちんと片付けて出発する準備が整っていた。
「酒は残ってないか?」
「大丈夫だ」
ホープとサリドンはまだ少し酒が残っているみたいだけど大丈夫そうだ。サモワンで割った酒が甘くて飲みやすかったから結構飲んでたのだ。
お土産に大量のサモワンを貰い、こちらからはリンゴとナシを渡しておく。結構買い込んでおいて良かった。
歩いてゴイル達の所へ戻り、森を抜けて領都に戻る事を伝える。
「そうか。気を付けてな」
「マーギンっ、次はいつ来るの?」
「多分春にもう一度来れたら来るよ」
「じゃあ、また来るの楽しみにしてるねっ」
と、ゴイルとマーイに挨拶をして出発する。
「さて、森の中を抜けて、魔蛾を育てる村を目指すよ」
「めっちゃ時間かからへん? 前の時はかなり歩いたやん」
「今回は直線で進むから前より時間はかからんと思うぞ。なんかいてもそのまま進む。特務隊の訓練も兼ねているからな」
そして森に入ると、春に来た時とは景色も少し違っている。やたらとキノコが多いのだ。
「この時期でもキノコが多いのだな」
王都周辺ではもうキノコシーズンは終わっている時期だが、タイベでは最盛期かと思うぐらい色々な大きなキノコが生えている。
「ローズ、キノコを迂闊に触るなよ。毒を吐く奴とかいるからな」
「えっ?」
「タイベは植物系の魔物も多いんだよ。トレントとバレットフラワーの話を初めにしたろ? 植物系の魔物は気配がないから注意深く見ておかないとダメだぞ。それと皆から離れるな。トレントに巻き付かれたら一人で脱出できない事が多いからな」
歩きにくい獣道を剣で草やツルを払いつつ進む。途中で知っているキノコの魔物とかを見付けてこれが魔キノコだとか教えていった。
あー、ここにはこれがいたんだっけか。マーギンは気配に気が付いて心の中で呟く。
「カタリーナ、ハンナ。俺にくっついてろ」
「なっ なんかいるん?」
「リンマーだろうな」
「リンマーってなんなん?」
「サル型の魔物だ。小型な分スピードが速くて賢い、それに集団で襲って来るから厄介だぞ」
「マーギン、俺達で対応可能か?」
と、今の話を聞いたオルターネンが対応出来るか聞いて来る。
「慌てなければね。四方八方から襲ってくるし、頭上からも来るからね」
と、予告しておく。
と、そこへ何か飛んで来てホープの頭にペシャッと掛かった。
「なんだこれ? うわっ 臭っさ!!」
糞と思われるものを頭に投げつけられ、それを触ってしまったホープは慌てて手を振ってその手に付いた糞をペッペッと振る。
「やめろっ。こっちにも飛んでるっ」
サリドンが自分の所まで飛んで来た糞を慌てて避ける。
「すごい臭いだぞホープ。私が水を出してやるから頭を下げろ」
ローズがホープの頭を洗ってやろうとした時に一斉にリンマーの襲撃を受ける。
「ちっ」
魔物に先手を取られた特務隊。オルターネンは警戒していたが、手薄になったローズとホープが狙われたのだ。
「避けろっ」
オルターネンがローズとホープにたかろうとしたリンマーを斬りに掛かる。サリドンも剣を抜き応戦する。
「だっ、大丈夫なんあれ」
マーギンにしがみつくハンナリーとカタリーナ。
「慌てたのが落ち着けたらな」
反撃されたリンマーはそれを避けて、ギャーギャーと騒ぎだすと、木の上のあちこちからガサガサと一斉に動き始めた音が聞こえる。もう囲まれているので撤退は無理。戦って殲滅するしかなくなった。
マーギンはこっちの様子を伺うリンマーを土魔法の弾で撃ち抜いていく。これでこっちを襲うのは無理と判断して特務隊に集中するだろう。
特務隊は4人が外向きになった輪の様な陣形を組み背中を預ける。
「もう大丈夫かな」
これで不覚を取る事はなくなった。しかし、襲って来るリンマーはバッサバッサと仲間が斬られた事で作戦を変えてくる。襲って来るフリをして剣の届かないギリギリの所で止まった。皆は来ると思って剣を振り下ろした所を後から違うリンマーが飛んで来た。
「くっ」
慌てて斬り上げるオルターネンとローズ。二人の剣速はなんとか間に合い、ホープには攻撃がかすった。そしてサリドンは顔に爪攻撃を食らい、そのまま顔に張り付かれた。
ヤバい
そう思ったマーギンが助っ人に入り掛けた時に、サリドンは顔に張り付いたリンマーを両手で掴んだ。
「うぉぉぉぉっ」
ボウッ
一瞬にして燃え上がるリンマー。それを他のリンマー目掛けて投げ付け、そのままファイアバレットを無数に浮かべてリンマーのいる方向へ突進していく。
ズドドドドドォ
サリドンの無慈悲な一斉射撃。尚も叫びながら、ファイアバレットを連射して正面の群れの中へ突進していった。
マーギンはその後を追う。あれは殺られ掛けての無意識の攻撃だ。すぐに魔力が切れて動けなくなる。
リンマー達は突っ込んで来るサリドンから逃げて木の上に行くと、木の上にもズドドドドドォと暴れ機関銃の様に撃つサリドン。そしてドサッと倒れた。魔力切れだ。
リンマーもさすがにヤバいと思ったのか、ギャーギャー騒いだ後に群れは離れて行ったのだった。
マーギンがサリドンを肩に抱えて皆の所へ戻って来た。カタリーナとハンナリーも一緒だ。
「大丈夫か?」
オルターネンがサリドンの無事を確かめる。
「あぁ、顔の傷は治しておいた。どこか広場を探して野営地にしよう」
ホープにサリドンを任せて、オルターネンが斥候役をする。ローズがその後に続いた。
そしてしばらく歩いた後に少し開けた所で野営の準備を始める。ホープが臭いので洗浄魔法を掛けてやろう。
「小型の猿の魔物でも強いのだな」
オルターネンには勝利した実感がない。
「あいつらはすばしっこくて賢いからね。サリドンが暴走してヤバかったけど、助かった面もあるよ」
「どういうことだ?」
「あのまま、輪になって討伐してたら延々と戦うハメになってたかもね」
リンマーは群れが群れを呼ぶ。絶対に勝てないと思わせないと延々と戦うハメになるのだ。
サリドンが目を覚ましたので飯にする。シマアジの刺し身と、スープ代わりにハタ類のアクアパッツァ風のものを作る。
「マーギンさん、すいませんでした」
アクアパッツァ風スープを飲んでいるとサリドンが謝ってきた。
「俺がいなかったら死んでたな」
「はい……」
「魔力切れで倒れたけど、無意識の攻撃にしてはコントロールされてたのは良かったけどな」
「え?」
「パニックでああなってたら、敵味方関係無しの攻撃になる。パニックの時は自分の身を守るためだけに力を使うからな。あの時は意識があったのか?」
「顔に張り付かれて死ぬと思ったのは事実です。でも、自分が殺られるより、このままだとローズさんが危ないと思ったら魔物に突っ込んでいました」
「ローズを守ろうとしたのか?」
「そんなおこがましいものではありません。自分が殺られたら、皆を巻き込むと思ったんです。お互い信用して背中を預けた以上、その役目を果たさなければなりません。そう思ったら自分の担当する方面をなんとかせねばと思った所までは覚えています」
サリドンの背中側はローズが担当していた。守ろうとしたのではないのならいいか。
「魔力を使い果たしたとはいえ、お前は魔法で自分の担当した魔物を一掃した。それだけ魔法攻撃が上達したということをもっと自覚しろ。剣の修行の方が長かったから剣で対応しようとするのは分かる。しかし、剣単体だけで戦った時のお前の戦闘能力は特務隊としては物足りない。魔法攻撃と組み合わさって初めて特務隊の一員として務まるんだよ」
「自分の魔法攻撃は上達していますか?」
「魔力コントロールは使い続けていかないと身に付かない。撃つ、当てる、数を出す。これはもう合格だ。後は倒す為の攻撃、相手を誘導するための攻撃、それに牽制とか油断をさせるとかの使い方と魔力の込め方を意識して使え。魔力をたくさん込めるのは倒す為の攻撃の時だけでいい。すべてを全力で撃つと魔力がいくらあっても足りなくなるからな」
サリドンも頭の中では理解しているだろうけど、無意識にそれが出来るようになるにはまだまだ実戦が足りない。まぁ、あの無意識の攻撃を見た限りでは実戦さえ積めばなんとかなるだろうとマーギンは思ったのであった。