貸し借り無し
翌日は朝からゴイル達に作ってもらったもち米をデモンストレーションを兼ねて脱穀と精米をして水に浸けておく。
「魔道具ってすげんだな。こんなにあっという間に脱穀出来るんだからよ。これっていくらぐらいするんもんなんだ?」
ゴイルがマジマジと脱穀機と精米機を見て値段を聞いてくる。
「どっちも100万Gだよ。ここまでの運び賃まで入れたら150万Gぐらいになるかな」
「ゲッ、高ぇ」
先住民達はあまり現金収入がない。ほぼ自給自足の生活で、違う村の人達とは物々交換をしているのだ。そういう人達にとって100万Gは超大金なのである。
「この魔道具はこの村に置いていくよ。皆で自由に使ってくれたらいい。魔石か魔結晶は自分達で用意してね」
「えっ? これ2つで300万Gぐらいになるんだろ? そんな高ぇもん貰えるかよ」
「元々これはここの為に作ってもらったようなものだからな。気にしなくていいよ。自分用のは小型のもあるし。売るのはパンジャとかの街の商人に売るから」
「いや、しかしなぁ」
「こっちは流通で港を使わせてもらうからいいんだよ。これがあることで昔ながらの生活が変わってしまうのがダメだとかになるなら止めとくけど」
「本当にいいのか?」
「いいよ。販売価格はさっき言ったくらいになるけど、開発したのは俺だし、制作費用はそこまで高く掛かってないから」
「そうは言われてもこっちはなんか礼に渡せるようなもんがないからなぁ」
「本当にいいって。それよりここでしか作れないようなものがあったら協力してくれると嬉しいな」
「何が出来そうだ?」
「醤油とか作れないかな?」
「あの調味料をここで作るのか?」
「王都から運ぶと運賃が加算されるから、普通の人は買えないと思うんだよね。でもここで作ったらタイベの人でも買えるような値段になると思うんだよ」
「ここで作れるのか?」
「作れると思う。やってくれるなら職人を派遣して、教えてもらえるように手配するよ」
「材料は何だ?」
「大豆と小麦と塩と麹だね」
「大豆は問題ねぇが、小麦がなぁ」
「小麦がなくても作れるぞ。ちょっと濃い醤油になるけどな」
「本当か?」
「うん。使う時に量を調整すれば済む話だからやってくれるなら職人の手配はしておくよ」
ということでナムの村で醤油作りに挑戦することに。
「塩は自分達で作ってるのか?」
「おう、海水から作ってるぞ」
塩田もあるらしく、内地の村との物々交換にも使うそうだ。
色々と話をしている間にもち米の準備が終わり、蒸していくことに。
「おこわも食べてみるか?」
「なんだおこわって?」
「この米を使って作るご飯というのかな? まぁ、試しに作ってみるわ。なんか皿に使えそうな葉っぱとかない?」
「あるぞ」
ということで笹の葉みたいな奴を採ってきてもらった。手軽に食べられるようにちまきにしよう。
鶏ガラ出汁を使って鶏肉と人参のシンプルな具材にして、葉でくるんでいき、餅つき用の米と蒸籠を重ねて一緒に蒸していく。
しばし蒸し上がるのを待ち、餅つき開始だ。カザフ達がいるならやってもらうのだが、ここは特務隊にやってもらおう。
餅つきの説明をして開始。
「よっ はっ、よっ、はっ」
アイリスと違って手をつかれる事もなくつき上がっていく。次回からはサリドンに手返しをやらせることに。
今回の食べ方はちまきがあるから、餅はきな粉餅にしよう。
きな粉に砂糖を混ぜたものにちぎって丸めて放り込んでいく。いくつか溜まったら皿に載せてと。
喉に詰まると危ないので小ぶりの餅にしておいた。
「さ、こっちから食べようか」
先にちまきを皆に配って食べてもらう。
「おっ、なんだこの食感は?」
「マーギン、美味しいよこれっ」
マーイはちまきが気に入ったようだ。
「長老にもあげていい?」
「いいよ。でもいつも食べている米より粘り気が強いからゆっくり食べてもらってね。喉に詰まるから」
ちまきは冷めても大丈夫なので後で持っていってもらうことにして、次はきな粉餅だ。
カタリーナが大喜びする。甘いの好きだからな。ローズもこれは好きなようだ。
「マーギン、この米はおもしろいな」
餅やちまきになっていくもち米をゴイルは気に入ったようだ。
「だろ? たまにはこういうのが食べたくなるんだよ。今回はきな粉餅といって甘いのにしたけど、醤油で焼いたり、スープに入れたりとか色々な食べ方がある。バター醤油とかで食っても旨いぞ」
そう言うとそれも作って欲しいと言われて、フライパンで作る。
これは男性陣が喜んだ。
「な、もち米はこういう風に使うんだよ」
「今回渡した籾は全部使うのか?」
「いや、思ってたよりずっと量が多かったからすぐには使わないよ」
「なら、作付けを増やしていいか?」
「どうぞ。なんなら販売用にたくさん作ってくれてもいいかな」
ということで、自分達用に確保した以外は籾種として渡しておいた。来年は飛躍的にもち米が増えることだろう。
それから防刃服の素材になる草の買い取りをする。予想を遥かに超える量だ。今回だけで騎士隊の防刃服は揃うかもしれない。お支払いは300万Gになった。ゴイル達もこんなに払ってもらえるのかと驚き、今回は脱穀機と精米機の支払いをこの草でするとのことで物々交換になった。
「今回は俺が持って来たから運び賃は不要だから差し引き100万Gを払うね」
「いいのか?」
「ゴイルだけで刈り入れしたんじゃないだろ? 手伝ってくれた人達には対価を払ってあげた方がいいと思う」
そうしないと、来年から刈り入れしてくれないかもしれないからな。
これで貸し借りなしになって、ゴイルはホッとしたようだった。貰いっぱなしというのは気が重くなるからこれで良かったのかもしれない。
「ゴイル、ソードフィッシュの討伐を俺がやろうか?」
餅とちまきを食べ終えたのでソードフィッシュの事を聞いてみる。
「大型だからかなり厄介だぞ」
「鉄製の銛はあるか?」
「あるぞ」
「なら問題ない。すぐに見付かるようなら今日中に終わる」
マーギン達はテントをしまって海岸の方へと向かう。マーイは来ないので代わりにカタリーナがハナコに乗せてもらって大はしゃぎだ。
そして現地に到着すると、
「マーギン、釣りしたい」
と、カタリーナが言い出した。
「今からソードフィッシュの討伐をするんだぞ」
「えーっ 来る時に何も釣れなかったじゃない。せっかく楽しみにしてたのに」
「釣りしながらソードフィッシュを待てばいいだろ? 釣りぐらいいくらでもさせてやるぞ」
「ヤッターっ ゴイル優しいっ!」
ということで、船釣りをしながらソードフィッシュを探す事に。マーギンは銛を加工していいかゴイルに確認をする。
「どんな加工だ?」
「中に穴をあける」
「は?」
マーギンは雪熊に使った注射針のような矢を銛でも作るのだ。
「俺が毎回やるなら別にこの加工をしなくてもいいんだけどな、漁師が自分で討伐出来ないとまずいだろ?」
「それで討伐出来るのか?」
「銛が刺されば後は死ぬのを待つだけでいい。こんな加工をしておけば、ここから血が噴き出て、海の中なら血が止まらないから失血死する」
「マジかっ」
「うん。ただ、その血の臭いで他のソードフィッシュが集まるかもしれないんだよ。念の為にいくつか同じ銛を作っておくけど、集まり出したら逃げて。あいつら共食いもするから、血を出した奴を先に襲って、船はすぐに襲われないから」
と、注意をしておいてから銛を加工して出発。ソードフィッシュは魚のいる場所に現れるから釣りをしながら待てばいいらしい。
今回カタリーナがやる釣りは手釣りだ。ゴイルが用意してくれた釣具は糸に等間隔で小さなオモリが付けてあるものだ。
「これはどうしてブツブツがたくさんついてるの?」
「糸が潮に流されちまうからな。こうして糸を重くしてやるんだ」
へぇ、そんな釣り方があるんだな。
「これで何が釣れるの?」
「タイとか釣れるといいな」
このポイントは色々な魚種が狙えるらしく、何が釣れるかお楽しみらしい。餌は生きたエビだ。ゴイルが餌を付けてやり、カタリーナとハンナリーの面倒を見てくれるようだ。ゴイルはお兄ちゃんって感じがするわ。
カタリーナ達を任せてマーギンはソードフィッシュが来ないか海を見ていた。特務隊もローズも同じく海を見ている。
「ローズ、近くより遠くを見てた方がいいぞ。近くを見てると船酔いするからな」
「この船は結構揺れるのだな」
「船が小さいから仕方がないよ」
その時にカタリーナ達から「きゃーっ 釣れたぁ」とハシャギ声が聞こえて来る。坊主を免れたようで何よりだ。
あっ
大型の魚が近付いて来ているのを発見。 ヒレが海面に出てないからサメではない。一直線にこっちに向かってくるからソードフィッシュの可能性が高いな。
「ゴイル、来るぞっ」
そう伝えるとカタリーナとハンナリーを船べりから内側へと移動させてくれる。
「ちい兄様、ゴイルと代わってくれ。ゴイルに討伐する所を見せておきたい」
特務隊が海の魔物を討伐する事はないので、ゴイルと代わってもらってこっちに来てもらう。
「ゴイル、あれはソードフィッシュだと思うわ。銛で突くからどうなるか見ておいてくれ」
マーギンは銛を構えてソードフィッシュを待つ。その瞬間。
ビュンビュンっ
ソードフィッシュが顔の先に付いている剣のような吻を振りながら襲ってきた。
「フンッ」
マーギンはソードフィッシュのエラ辺りに銛を突いた。
ブシャーーっ
鮮血が銛の後から吹き出す。
ドバッシャンーーン
ソードフィッシュの攻撃は船にまで届かず、逆に攻撃を食らった事によりそのまま海中へ逃げようとする。銛にはロープを括り付けてあるので、シュルシュルシュルシュルっとロープが出ていき、しばらくするとそのロープが止まった。
「じゃ、引き上げるぞ。銛には小さな返ししか付けてないから、無理に引っ張ると抜けるからな」
「もう死んだのか?」
「逃げた方向に血が漂ってるだろ? エラ付近をこの銛で突くと血が抜けるの早いんだよ」
ゴイルと二人でゆっくりとロープを引っ張ってくると死んだ大きなソードフィッシュが船の近くまで来た。
「まぁまぁのサイズだな」
「これでまぁまぁのサイズだと? かなりデカいじゃねーかよ」
吻を除いた大きさは1m半ぐらいだ。
「何言ってんだよ。大型ってのは3mぐらいのやつを言うんだよ。こんなの普通サイズだ」
「そんなデカいやつがいるのかよ?」
「大型になるとソードの部分もグンと長くなるからな。全長でいうと5mはゆうに超えるぞ」
船上に引き上げると邪魔なので引っ張って
港に帰る事に。
しばらく船を陸に向かって進めるとサメのヒレが見えた。
「マーギン、そのソードフィッシュを狙ってサメが寄って来たぞ」
「追い払うから問題ない」
マーギンはサメの鼻っ面に土魔法の弾を当てる。そうするとすぐに逃げて行くサメ。
「今何をした?」
「サメは鼻先に強い刺激を与えてやると逃げるんだよ。ここの人達もサメとか食わないだろ?」
「ま、まぁな」
「だから追い払うだけでいいんだよ」
そして陸に上がってソードフィッシュを討伐したのを知らせると漁師達は喜んでくれた。晩飯はソードフィッシュのフライを皆で食べて、漁師達はこんなに旨いのかと驚くのであった。