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バンパイアの罠

「こ、こいつらがバンパイアの話を聞きたいって言ってんだ。どんなのだったか説明してやれっ」


入口の近くにいた人にバンパイアを見たという人が引っ張られてきた。20歳前後の青年だ。


「あんたら本当にハンターなのか?」


「一つのパーティではないけどな。この4人は星の導きというパーティを組んでいる。ガキ共は見習いで、俺はその保護者だ。で、こいつはオマケ」


と、ハンナリーをオマケ扱いする。


「なんでそんなのが一緒にいるんだ?」


「タイベ旅行に一緒に来たんだ。タイベにはハンター業務をしにきた訳じゃないんだけどな、近くまで来たからバンパイアの事を聞いておこうかと思っただけだ。この依頼を受けて来た奴いないだろ?」


「あぁ」


「依頼主はこの村か?」


「いや、鉱山を所有する商会だ。依頼内容はどんな風に出てたんだ?」


「バンパイア討伐に500万。それ以外は無しだ。だから調査に来てもバンパイアがいなければタダ働きになる。多分誰も受けないだろうから、組合には調査にもちゃんと金払えとは言っておいた」


「ちっ、ビビって誰も来てくれねぇのかと思ってたけど、そんな依頼内容なのかよ」


「俺に文句を言うなよ。で、お前が見たバンパイアってどんな感じだったんだ?」


「どうせお前も信じてないんだろ?」


「バンパイアが居たってのは信じてないぞ。多分なんかの見間違いだ」


「やっぱり信じてねぇんだろ?だったら話す気はねぇ」


「信じてない理由はいくつかある。まず1つ目は俺がバンパイアを見たことがない。2つ目、バンパイアが物語の通りの奴なら、家畜とかの動物の血は吸わない。3つ目、バンパイアに血を吸われた奴がいたらそいつはバンパイアの眷属になる。どうだ?誰かバンパイアに血を吸われた奴がいるか?」


「い、いねぇけどよ…」


「だろ?それにな、そこの廃坑にワー族の奴らが調査にしばらく入っていたらしい」


「ワー族?」


「真なる獣人って奴だ。仲間が何かに襲われたかして行方不明になったのを探してたんだ。で、廃坑にその痕跡がないか探しに入ってたらしい。お前が見たバンパイアは狼みたいな顔をしてなかったか?」


「い、いや、顔ははっきり見てねぇけどよ、日が沈んだ直後に松明で照らしたら目が赤く光ってたんだ」


「なるほどな。真なる獣人ってのは夜目も効く。それは目に反射板みたいなものがあるからなんだよ。暗い所で光を受けると赤や緑に光って見えることもある。恐らくお前が見たのはワー族の奴らだ」


「ほ、本当かよ?」


「あぁ。断言は出来ないけど、可能性は高いな。何度も見た訳じゃないんだろ?」


「一回だけだ」


「なら多分お前が見たのはワー族だ。あいつらは自分の集落に帰ったからもう見ないと思うぞ」


「ほ、本当なんだな?」


「俺達も廃坑の中に入ってみようとは思ってるんだけどな。この村は元々は鉱夫の村か?」


「そ、そうだ。廃坑になって廃れちまったけど、再開発の話が出て、また昔みたいに活気のある村になると期待されてたんだ。それが俺が余計な事を言ったばかりに…」


と、落ち込む青年。


「吸血コウモリの被害は昔から出てたのか?」


「あぁ、時々やられてた。ここ数年はその被害も増えてて、多分廃坑で増えてるんだろうなと思って見に行ったんだ」


「わかった。お前はまだ若そうだから鉱夫の経験ないだろ?経験のある爺さんとかいるか?」


「俺の親父と爺ちゃんが鉱夫だった」


「ちょっと話を聞かせてもらえないかな?」


「わ、わかった」


今の話を聞いた青年は自分がバンパイアの誤報を伝えた事で再開発が止まってしまったことを気に病んでるようだ。すっかり落ち込んでしまった様子で家に案内してくれる事になったのだった。



「なんだと?バンパイアが誤報だと?」


マーギンが話をしているのは親父さんと爺さん。


「多分ね。一応確認しに廃坑に入ろうかと思ってるんだけどさ、この鉱山を持ってる商会ってどんなとこ?」


「ギラン商会ってところだ」


「は?ギラン商会だって?」


「そうだ。昔は他の商会が持ってたんだが、鉱石の取れる量が減って廃坑になった。それをギラン商会って所が買い取って再開発すると言ってきた。俺達はもう一度鉱夫で稼がせてやると言われてたんだ」


「あー、多分その話はバンパイア騒動がなくても消えてた話だな」


「消える話?」


「あぁ。まだ詳しくは言えないが、ギラン商会がここを再開発することはない。なんか依頼内容がおかしいと思ったんだよな」


「マーギン、どういうことだ?」


と、ロッカが聞いてくる、


「いやさ、普通本当かどうか確認出来てない情報があったとすると調査から入らないか?」


「そうだろうな」


「でも、いきなり高額の討伐依頼だ。これがどういう事かわかるか?」


「早く再開発するために一発勝負を掛けたのではないのか?」


「違うって。恐らくギラン商会もバンパイアの事は信じていない」


「は?」


「高額報酬に釣られる奴がいたら、廃坑に入るだろ?」


「当たり前だ」


「で、長年使われてなかった廃坑は魔物の溜まり場になることが多い」


「洞窟とかもそうだな」


「それを駆除しないと再開発出来ないだろ?」


「回りくどいぞマーギン。早く結論を言え」


「はぁ〜、ちょっとは考える力を持て。せっかく自分で答えを出せるように話してやってるのに」


ロッカの脳筋め、考えようとしやがらん。


「シスコ、今の状況でどう答えが出る?」


ロッカの代わりにシスコに答えさせる。


「高額報酬に釣られたハンターにタダで廃坑の魔物討伐させようとしてたんでしょ」


「正解」


「どういうことだ?シスコ」


まだ分からないロッカ。


「本当にバンパイアが居たなら討伐報酬の500万Gは払っても問題はないのよ。物語通りなら強敵でしょうしね。でもそんなのが居るはずがない。いるのは廃坑に溜まった魔物だけ。この村人がバンパイアの情報を伝えなくても、他のいるはずのない魔物をでっち上げて同じ事をしたんじゃないかしら?あのワー族の言葉通りなら廃坑はかなり広くて深いみたいだし。そんな所に溜まった魔物討伐をまともに依頼したら500万Gどころじゃ済まないわよ」


「そういう事か…」


流石は大手商会の娘だな。ハンナリーも「はぁ、そういうことかいな」とか感心してる場合じゃないぞ。しっかり学んどけ。


「美味しい話には裏があるものなのよ。ね、マーギン?」


「俺はお前に美味しい話が無くても嵌められてるけどな」


「あら?バネッサを好きに(なぐさ)み者にしてるじゃない。対価は十分なはずよ」


慰み者とか言うな。そんな事はしとらんわ。


「他になんかわかるか?」


「そうね… ねぇ、ここの人達は再開発が始まったらどういう条件で働く予定だったのかしら。給料制?それとも成果報酬?」


「採れた鉱石を買い取って貰う契約だ」


「でしょうね。どうせ廃坑を買い取ったとか言ってるけど、タダ同然で手に入れたんだと思うわ。だから、鉱石が出なくても損もしない。もしまだ残ってたらラッキーぐらいのものよ。崩落して鉱夫が死んでも知らん顔するでしょうし。良かったわね、再開発がされなくて」


シスコは冷たく言ったけど、俺もその通りだと思う。ギラン商会にとってここの村人が死のうがどうでも良かったんだろうな。


「俺達は騙されてたのか?」


「騙されたんじゃなくて、利用されかけてたのよ。本当に鉱石が出たら買い取ってくれたとは思うわよ。安値でね」


「そ、そんな…」


「廃坑はなぜ廃坑になったのか理解したほうがいいわよ」


シスコは鉱夫だった親子にそう告げたのだった。



沈んだ親子と爺さんに鉱山の地図かなんかないかと聞いてみる。


「昔のじゃから、まだ地図より先があるぞ」


と、ボロボロの坑道地図を見せてくれた。大まかな坑道地図だが、危険な場所にはバツ印やドクロマークが描かれている。おそらく坑夫達は文字の読み書きが出来ないのだろう。文字が読めないと契約で騙されるだろうな。


「ありがとうね。明日廃坑に入ってみるけど、何も期待しないでね。恐らくシスコの言った通り、この鉱山で坑夫として働ける事はないと思う。農業か畜産で頑張った方がマシだと思うよ」


「そうか…」


と、がっくりと肩を落とす。


「この村には何人ぐらい残ってんの?」


「もう100人もおらんじゃろ。若者だけなら30ってところじゃ」


少ないな… 本当はもう廃村にした方がいいんだろうな。未来がなさすぎる。しかし、村を捨てても他に行くあてもないんだろうな。


「ちょっと聞いていい?」


「なんじゃ?」


「この辺に魔桑木って生えてる?」


「どんな木じゃ?」


「魔蛾の幼虫、魔カイコの餌になる木」


「魔カイコじゃと?」


「そう」


「魔蛾はおるにはおるが…」


あ、いるんだ。


「魔カイコの糸ってかなり高く売れるみたいなんだよね。魔桑木を育てて餌を確保したら魔カイコ飼えるよ。魔桑木に魔蛾が寄ってくるからそれを討伐出来る人が必要だけど」


「魔蛾の幼虫を飼うのか?」


「そう。それに成功したら金はザクザク入って来る。鉱山に未練を残すより、新しい何かを始めないと村が無くなっちゃうかもよ?」


「今から新しい事を…」


「まぁ、やれとは言わないけど、シュベタイン王国で魔カイコを飼ってる人いないみたいだから、大チャンスだとは思うけどね。糸を紡ぐ技術がないなら、値段は下がるけど繭だけでも売れると思う。もしやるならコイツが全部買い取るよ」


と、オマケのハンナリーを指差す。


「えっ?うち?」


「ここに商人やろうってのはお前しかおらんだろうが?」


「そ、そやかて… うち魔カイコなんて知らんで」


「あら、本当に魔カイコの養殖するなら私が買い付けようかしら?」


と、シスコが乗り気になる。


「えっ?」


「ハンナはやりたくないんでしょ?ねぇ、お爺さん達、本当に飼えるならやった方がいいわよ。鉱石なんか目じゃないぐらい高値がつくもの」


「本当かね?」


「えぇ。マーギン、一繭からどれぐらいの量の糸が取れるのかしら?」


「どうだろうな?大きさはこれぐらいだぞ」


と、ダチョウのタマゴサイズを手で示す。


「んー、それだと解らないわね。でも安定して手に入るなら商機は十分よ」


「う、うちがやるっ」


「あなた、本当に出来るのかしら?すでに処理しきれないぐらいやらないとダメな事があるじゃない」


「シ、シスコかてハンター稼業忙しいやんかっ」


「私は人を雇うわよ。自分でやるとは言ってないわ。でも、流通ぐらいはハンナに発注してあげてもいいかしら」


「ぐぬぬぬぬっ う、うちかて人雇たらええねんっ」


「海賊以外にあてはあるの?」


「ぐぬぬぬぬっ」


まだ魔カイコの養蚕をするとは言ってない村人の前で、商機の取り合いをする二人なのであった。


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― 新着の感想 ―
バカッサにバッカ・・・死す子しかまともなんおらんやん!
[一言] 幼少期の教育や環境って大事ですよね 昭和の頃に離島へ旅行に行った時、島のラジオ体操に参加したことがありますが、将来漁師や海女になるという小学生が学校なんか行く暇があったら早く仕事を覚えたい的…
[良い点] シスコさん、人を動かすのが上手いなあ(笑) でも確かに、そろそろハンナリーは手一杯かも。
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