聖女の姉は身の振り方を模索する
前話のあらすじ
妹にニキビを治してもらい、その結果から治療魔法について考察した。
治療魔法というのは、どうやら万能ではないらしい。
魔力は個人差があり、量は生まれつき決まっているようで鍛えて増量はできないそうだ。
魔力の細かな調整ができるようになれば限られた魔力でもある程度の魔法を使えることもあるそうだが、そもそも魔力量があっても少ないと使えるようにならないことも多いらしく、鍛えてもらう機械自体が少ないらしい。
アリスはは聖女候補といわれるだけあって桁外れに高い魔力を持っているそうだが、訓練を受けていない分調節が聞かないらしい。治療魔法は治療を「乗せる」魔法に分類されるため魔力の無駄遣いになる程度で害を及ぼすことはないらしいが、調節が必要な魔法を過剰な魔力で行うと何度か色々と副作用が起こるらしい。
というわけでアリスは朝のことで監督下以外で勝手に魔法を使わないようにお叱りを受けていた。
私が高校生くらいの時なら姉に言われたからで私は悪くない、くらい言っていたと思うが、アリスは前でお叱りの言葉をくどくど続ける魔法の教師の言葉におとなしく頷いていた。
さっきは私のニキビを治す程度のことで蛇口の水を最大限に開いていたために魔力の漏れが大きかったらしく、大騒ぎになったということだ。蛇口を占めつつ使うことができなければ、どんなに膨大な魔力があっても一日に1回程度しか魔力を使えないことになるそうだ。
一方私の魔力は魔法を使ええるようになるかどうかわからないくらいの少ない量とのことだった。
少なくとも自力で元の世界とやらに帰るのは無理そうだとわかっていたつもりなのだが、改めて伝えられるとさらに少しがっかりした。
食事や休養で魔力は補えるが、空になると魔法が発動しなくなる。
無理に発動しようとすれば生命力を代わりに削ってしまうこともあり、魔力量の多い人間は一つの魔法を使用するたびに使う魔力の量と、その時点での自分の魔力の残量に注意しておかないと、最悪大きな魔法を発動して命を落とすこともあるらしい。
私も大した魔力がないとはいえ、いちおう注意しておいたほうがいいかと尋ねると、私程度の魔力で使えるようになる魔法で一度可能な範囲の大きな魔法を発動したところで死ぬほど生命力が削られることは絶対にないと鼻で笑われた。
まあそもそも使えるようになればの話だよな、と自分で自分に突っ込んだ。
「午後は治療を見学に行っていただきましょう。我が国の治療は、全て公費で賄われています。各地の診療所で治療能力に匹敵する魔力を持たないもしくは少ない治療師が診察を行い、魔力を使用した治療が必要とした場合に総合治療院に紹介するという手はずを取っております。」
診療所と総合病院ということだろう。違いといえば初めから総合病院にかかるのは日本ではハードルが高い、という印象だがこの世界での総合治療院では始めからかかるのは不可能で、必ず紹介状を必要とするらしい。
公費ですべてされていると、そのあたりはコントロールしやすいのだろう。
ここまで聞いて聖女の仕事は治療業務がメインなのかと思っていたが、治療スキルだけに特化しているというわけではなく、たまたまアリスが治療のために呼ばれたというだけで、加護や人心掌握の手段、時代によっては戦にもその能力は使われてきたそうだ。
魔力は個人が持っているが、生まれ持ったものであることから魔力によって受ける恩恵は国民全てに等しく還元されるべき、という考えがこの世界では浸透しているそうだ。
その割には貴族やらなんやら身分が残っているのは矛盾するような気もするが、この国の歴史や成り立ちの講義は眠くなって聞いていなかったからよくわからない。
アリスの側仕えだけでは大した仕事もなさそうだし、当面自力で帰れるめどが立たないのなら、今できることを探していこう。
この世界で役に立つかもわからないが、せっかく多少の知識はあるのだし。
また国の歴史の話が始まり、たまらずあくびをした。
わき腹をつつかれ身がすくむ。つついた主を見ると、いたずらっ子のように笑っている。
眉をひそめて睨むと、正面の教師から聞いているかと怒声を飛ばされた。
慌てて正面を向き、アリスの方を横目で見るとアリスの目にも涙が浮かんでいた。
なるほど二人に講義をしていて二人ともがあくびをしたら怒りたくもなる。
ようやく次から医療に触れてまいります!
今日の夜も更新します。よろしくお願いいたします。
少し長いので頑張って読んでいただければ嬉しいです。