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聖女の姉は首に穴をあけるー1

 燃え盛る炎の中、窮地に陥ったヒロインを救いに来た王子ー

 そんな誰もがときめくシチュエーションに一瞬ときめきのようなものが出現したがすぐに我に返る。


 が、クリス様はそれよりも早く冷静になっていた。

 向かって聞いていたフリート王国の兵士に向かって何か投げつけたあと手をかざす。何の道具と何の魔法を使ったのかはわからないが、氷が出現し向かってきた兵士は身動きが取れなくなっている。


「走れそうかい?」


「えっと…はい!」


 さすがにここで足手まといになるわけにはいかない。

 が並走しだしてすぐに私を抱えて自分が走るほうが早いと判断したのだろう、抱き上げられた。


 どこをどう走ったのかはよくわからないが、クリス様はその後も数度兵士を足止めしながら外に出た。

 

 手をかざす。


「まってください、ミシェル嬢もいます!」


「あ!?そうか!」


 クリス様もそれを聞いて焦ったようだが、すでに魔法は発動したようだ。

 建物は全壊し、全て地中に埋まる。

 あたり一帯はほぼ更地になり、更地にはところどころ首が見える。


 苦し紛れのような炎の塊が飛んでくるが、彼は涼しい顔をして防御魔法ではじき返す。


 魔法バトルをおこすには、少し格が違うように素人目でも感じられた。


 

「うん…まあ、生体は埋まらないようにしてるから、探して掘り起こして、ミシェル嬢には謝るよ。」


 急いできたのと大きな魔法を使ったのと他にももろもろあるのだろう、さすがのクリス様も息が上がっていた。



 炎を跳ね返した方向から、土煙が上がる。何かが風で巻き上げられている。


「お姉ちゃん大丈夫?」


 すぐそばにアリスがいた。どうやら今到着したようだった。


 アレク殿下も来ていたようで、何やら周囲に指示を出している。ほかにも数人いるが、人を浮かすほどの突風を起こしているのはどうやら自分の妹らしかった。

 ついでに、風で巻き上げられているのはハイネのようなものだった。


「服装が違う…。彼が首謀者かな?自力で出てこれたのも、魔法を使えるのも、彼だけのようだし。」


「アリス。風で拘束したまま下ろせるか?コントロールの練習だと思って。だめなら俺が代わりにする。」

 

 アリスにアレク殿下が声をかける。何をしに出てきたのかと思ったが、アリスのフォロー係みたいなものか。


「せっかく王宮にまで忍び込んで捕らえた二人が、どちらも聖女ではないとは、思っていませんでしたよ。」


 私も思っていなかったし、誰も思っていなかっただろう。


 だが、仁王立ちしているアリスのかみは、昼下がりの日差しの強い時間であるにもかかわらず、まぶしいほどに虹色に輝いている。紙が魔力を表すというのなら、こんなに説得力のあるものはないだろう。


 ハイネは捕らえられてからは驚くほど抵抗せず、素直に投降した。もっとも抵抗したところで無駄なんだろうということは火を見るよりも明らかだったが。


「目的はなんだったんだ。」


 アレク殿下が剣を向けて問いただす。

 割と殿下は何もしていないと思うがそれでも一番上の立場であることには間違いないが。


「アレク、ここは境界とはいっても他国の領土だ。今ここで君が来ているのを公にすると国交に響くだろう。僕に任せて。」


「いや、兄上も一緒でしょうー」


「大丈夫だから。どちらにせよ僕が来てたことは隠せないだろうし。」


「まあ…それは確かに…」


 更地になったあたりを見てアレク殿下が頷く。


 アレク殿下からハイネに向けた剣を譲り受けたクリス様は続ける。


「さて、その顔は見覚えがありますね。たしかフリート王国の王子でしょうか。魔力がご兄弟で一番強かったですよね。」


「見ての通り、聖女様を誘拐しようとしたんですよ。」


 誘拐できていなかったけどね、とアリスが小声で突っ込む。


「でしょうね。大方、うわさを聞きつけて国に忍び込み、国に連れ帰ろうとしたんでしょう。」


「そうですね。他に何か聞きたいことはありますか?」


 人を食ったような笑い方は傍から見ていても不快になる。


「これ以上の話をしても仕方なさそうだ、話は正式な裁きの場で聞こう。」


「バックに国がいるのか、いないのかだけでも聞いておかなくていいんですか?場合によっては私に貸しでも作っておいた方が得なこともあるかもしれませんよ。」



「…何が目的だ?」


「私をうまいこと利用する、という手も一つと提案申し上げているんです。年長者の言うことは聞くものですよ。」


 ほう、と返事をしながら剣の切っ先を近づける。誰の目にも怒っているのは明らかだ。



「関係ない。相手がお前ひとりだとしても、国そのものだとしても。俺が守りたいものは、相手がだれかによって変わるようなものじゃない。僕の大切な女性を狙ったという事実だけで、十分罪に値する。」


「クリス様、侯爵家の令嬢を救出するという名目で来てるんですよ。」


 となりで側仕えが必死に訂正している。

 

「ひとまずこの人、助けが来て同行される前に国に連れて帰って拘束したほうがよくないですか。」


「そうだな。第6とはいっても王族だ。現行犯で捕まえているのだから文句を言われる筋合いはないし、連れて帰ろう。」


「僕は2人までならまだ魔力の残り的に行けそうだから、ミシェル嬢と姉君は置いてってくれていいよ。」


 アリスと殿下、数人の側仕えはハイネを連れて帰っていった。


「2人になったね。」


「ふざけてないでミシェル様を探しましょう。」


 肩に手を回してくるクリス様をたしなめられる程度には落ち着いてきているようだ。

 足は痛いし、アリスに直してもらえばよかったと今更ながら後悔する。


 クリス様はそこらを見渡し、まもなくミシェル嬢を見つけたようだった。地面が吐き出すようにミシェル嬢を地上に出した。

 寝台のように地面が持ち上がり、ミシェル嬢を運んで連れてくる。



「ミシェル様。大丈夫ですか。」


 聞こえていたとしても内容が頭までは届いていなさそうだ。横になっているミシェル嬢の方を向く。彼女は薬の影響か、まだボーっとしているように見える。


 いや、ぼーっとしているだけではなさそうか?


うつろな目をしていることには変わりがないが、息苦しそうな呼吸音が聞こえていた。よく見ると唾が口の端からこぼれている。大麻で唾液の分泌量が減っているからすぐにきづかなかったのかもしれない。


「ライトはありますか?」


 クリス様に尋ねながら彼女の顔を観察する。頬に多少のすすなどがついているのは、先ほどの中庭の火事のものだけだと思っていたが、フリート王国の兵士やハイネ皇子にくらべると煤の量が多い。換気はそれなりにされていたと思っていたが、加工前の大麻を燃やされていたときの煙も吸ったのだろうか。


 よく見ると、鼻毛が焦げている。渡されたライトで照らし鼻の頭を持ち上げると、なかにすすがついているのがみてとれた。


「アリス、治療魔法は使える?気道閉塞を起こしかけてる!このままじゃ窒息しちゃう…あ。」


 声をかけてから、つい先ほど帰ったことに気が付いた。


「他に治療魔法を使える人は…」

 クリス様が首を振る。

「こっちの国の人間が、どこまで協力的かはわからない。」


 つまり実質私が治療しないといけないということだ。気道熱傷の治療は私の魔力と魔法では到底足りないだろう。


 唾をのむ。


「短刀をお借りします。できるだけ小さくて、比較的清潔なものはありますか?切れ味が良くて、小さければ小さいほうがいいです。」


「これなら都議直ししてからまだ何も使っていない。」


 何をしようとしているのか察してくれたようで、特に何を聞くこともなく、装飾を施されている小さな刀を渡された。


「ありがとうございます。それと、中空になっている筒状のものが至急欲しいのですが…これくらいの。この世界ではボールペンを使っていますよね。そういったものがあれば…あ、いいです。」


 と言いかけて自分の内ポケットの胸に挿してあることに気が付く。

 クリス様に言って寝台の形を変え、首を伸ばす姿勢にしてもらう。甲状軟骨と輪状軟骨の位置を確認する。


 呼吸はヒューヒューと言っている。ここに治療師がいないのなら、治療できる環境が整うまでは持たないだろう。

 首筋に手を当てる。

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