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聖女の姉は影響するー2

「ここが陛下の部屋だよ。といっても来たことがないわけではなかったね。」 


 取り次いでもらえるかな、と扉の前にいる兵士に声をかける。兵士はお待ちくださいと中に入っていった。


「広すぎるので覚えられてないんです。」


 それに私はそう何度も来たことがあるわけではない。


「そのうち覚えられるだろう、と言いたいところだけど…そのうち、かな?」


「帰る時間軸が一緒になるようなので、別に急いではいませんが。」


 ただこちらには元の世界の医学を思い出す手段が何もないので、年単位になってしまうと流石に勉強した内容を忘れてしまいそうだ。


 中から兵士が出てきて、いま別件で対応中ですので、少しだけ隣でお待ちくださいといったので、案内されるがまま隣の待合のためのような部屋にはいった。




 クリス様がソファに座り、隣に座ると膝の上じゃないのかい?と聞かれた。


 子供じゃないんだからそんなわけないでしょうと返すと少し残念そうだった。


 TPOという言葉がないのかと思ったが、彼にとってはここもある意味自宅だった。



「昨日のことだけど、矢で撃たれた僕の部下が運び込まれたところまでは一緒にいたよね。」


「はい…そうですね。」


 昨日の自分にとっては治療院につくまでが必死過ぎて若干あやふやなところもあるが、治療師の治療魔法と輸血と、胸腔からのドレナージの続きとと、緊急性のある一通りの治療が終わるまではあの場にいたことをなんとなく思い出した。


「馬車で乗ってきた街の治療師を覚えている?」


「治療魔法があまり使えない、と言っていた方ですよね。」


 と言いつつ私よりは使えていた。


「うん。彼なんだけど、もう一度治療魔法も勉強するって言ってたよ。」


「そうなんですか。」


「治療魔法を勉強したからって、彼の魔力量とスキルでは王都の魔法治療師になるまでには至らないだろうし、それは彼自身もわかっていると。

 でも、街の治療師でいたとしても、何かあった時に、少しでも治療魔法が使えることで治療の幅が広がるなら、わずかでもできるようにはならなくてはいけないと思ったそうだ。」


「そうですか。」


「…君の熱意が、彼の熱意を上書きしたんだよ。もっと誇りに思っていい。」


「治療師としては大先輩にあたります。そんな偉そうなことは言えないですよ。」


「…それもそうか。じゃあ、君の熱意が、彼を初心に帰らせた、くらいの言い方にしておこうか。いずれにせよ君は、僕が見ているだけでも、昨日僕の部下を一人救ったほかに、昨日の治療師がこれから治す人を増やす分だけ、この世界に貢献している。」


「貢献している、というと少し大げさだと思いますが。」


 ほめられて悪い気はしない。


「どうだい、この世界にそのまま残るのは。」


 クリス様の顔を見る。


「…返事は待ってくださいと言ったと思うのですが。」


 いろんなことがあったが、まだ昨日の出来事だ。


「この世界にいても、このまま治療師だろう?」


「才能はあまりないですけどね。」


 もっとも、元の世界に戻ったからと言って才能ある医師になれるかというとそんなことはないだろうが。

 ただ根本的に才能が必要な魔法という手段の有無ではなく、努力次第での伸びしろはこの世界よりも期待できる。


「この世界でなら、治療師の他に、たくさんのものが得られるし僕が与えてあげられる。」


 彼が私の髪を触る手を払いのけた。


「たくさんのものって何ですか?地位?富?私は、元の世界でこの世界で言う治療師の立場が持つ職を目指してきました。地位や富が欲しくてなったわけではありません。

 クリス様は確かに王族です、与える立場だからそのようにおっしゃられるのでしょうが、私は分不相応に何か与えられることを幸せだとは思いません。」


 がんとした物言いに気おされたのか、クリス様は押し黙る。


 与えれば喜ぶなんて、子供でもなければペットでもない。


 自分でつかみ取ってこそ生きているのだ。


「…すまない。配慮が足りなかった。」


「…こちらこそ、声を荒げないといけないことではありませんでした。すみません。」


 沈黙になると待合室がノックされ兵士が入ってくる。


 こちらが話していたので待っていたのかもしれない。


「あの、お話し中申し訳ありません。陛下の準備が整いましたので…。」


「ああ、待たせてすまないね。」


 クリス様が連れ立って入ろうとすると、


「陛下から、姉君だけ入室するようにと言われましたので、クリス殿下はここでお待ちください。」




「…じゃあ、待っているよ。」


 押し黙った時に笑顔は消えていたかと思ったが、いつのまにか笑顔は戻っていた。


「もう場所はわかりましたし、お仕事に戻っていただいて大丈夫ですよ。」


 正直、私が元の世界に戻ることに口出ししてくるのがいい加減しつこく、不快になってきていたところだ。アリスに対しての交渉材料とでも思っているのだろうか。


 実際唯一の身内であれば交渉材料には充分なりうるだろう。ただ、交渉材料として残留を勧められているのなら不快でしかない。いや、不快というより、この気持ちはー悲しいと言ったほうが適切だろうか。


 彼が私に何故か執着しているのはわかっているが、それを加味してもー


 ーさっきのあの言いようは、不快だった。


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