聖女の姉は影響するー1
いろいろと調子が悪くここ1カ月ほど更新頻度が下がっておりました。読んでいただいている方、ありがとうございます。
今回はかなり短いです、すみません。
もうすこししたら最終章ですので、いましばらくお付き合いいただければ幸いです。
アリスと殿下はまた転移魔法で「祝福」の魔法を国にかけるため、魔力の上限までほかの土地へ転移魔法を繰り返すそうだ。
いわゆる「娘さんをください」という挨拶の代わりだったのだろうが、父親をこの世界にそのためだけに呼び出すわけにはいかないのだから仕方ないだろう。
さて、どうするか。
兄がもう一人元の世界に残っているけれど、子供は消しゴムでもないのだから予備があるから一個あれば後はなくてもいいというわけにはいかないだろう。
この世界とアリスの意思を尊重するとしてアリスは百歩譲っても
ー私は、帰らなくてはいけない。
帰るべき理由が一つ増えた。
いや、この理由は想定できたのだから増えてはいないか。
一つ、自覚しただけだ。
さっきの話し合いの後に、現在起こっているトラブルが片付いてから異世界転移をアリスに習得してもらい、私は帰れることになったのだ。
聖女の遺産で転移魔法に必要な魔力が補えるということは、アリス自身はその魔力を持っているそうで、習得さえできればそこには何ら問題はないのだろう。
ただ、異世界転移の魔法の煩雑さと習得にかかる時間を考えると、どうしても優先はできないとのことだった。お姉ちゃんだけでも先に返す、とアリスが何度いっても殿下たちが渋っていたのは、決して習得に時間がかかるからという理由だけではない。
口にこそ出さないものの、殿下はアリスがその魔法を習得することで帰ってしまわないかどうかがやはり一番心配なのかもしれない。
昨日もそのことでは散々に揉めていたということが二人の会話では分かったが、転移魔法で私が帰るとすれば、既に座標を指定しているという点で、もともと私たちが呼ばれた世界の「続き」に返すのが一番安全な方法になるようだ。
つまり行方不明になっていたり仕事を穴にあけることはないということだ。
こちらで過ごした分年はとってしまいそうなので、何十年も費やされるとリアル浦島太郎になってしまうのでごめんだが、国家試験や就職の時期を気にしなくていいのであれば一朝一夕を急ぐ状態ではなくなった。
同級生には多浪生や留年生も多いが、私は一度も留年や浪人をしていない。現役で大学委は言った自分が長くて数年ロスしたところで、人生においてそこまで大きな遅れはとらないだろうとも思う。少し長めの卒業旅行と思えばいいだろう。
結局異世界転移の魔法を優先して習得することは認めてもらえなかったことに対して謝り続けるアリスがまた転移でほかの土地に行くのを見送った後、殿下の部屋のメイドに声をかけられる。
「陛下から、急ぎの用事がないときに姉君に部屋に来ていただくよう言付かっております。」
「陛下の部屋ってどこでしたっけ。」
アリスの側仕えをしていた私自身には当然側仕えやメイドさんはついていない。アリスがいなければ、毎日行き来している部屋以外の構造など把握できていない。
「僕が連れて行くよ。」
「ひっ」
どこからかクリス様が部屋に現れる。
あまりに突然の登場のためか現れた場所のすぐそばにいたメイドさんが悲鳴を上げた。
「いつからいたんですか…。気づきませんでした。」
「つい今しがた来たところだよ。護衛も案内も必要だろう?」
ついたのは今しがたかもしれないが、現れた場所は明らかに隠れてこの部屋に入ってきたことがうかがわれる。
「隠密だとは思ってませんでしたけどね。」
「そうかい?ふふ。昨日はありがとう。あの部下は無事治してもらったようだよ。当分は安静が必要と言われているけどね。」
「クリス様もありがとうございました。」
「礼を言うのは僕だよ。僕の騎士が君のおかげで助かったんだから。」
彼は上品に笑って、私の手の甲にキスをした。




