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聖女の姉は恋敵?と会う―4

「君は今でも帰りたいかい?」


 帰りたいか帰りたくないかの二択で言えば、帰りたいと思っている。

 けれど、今ここでそれを口にしてはいけない気がしている。


 初めは気まぐれだったとしてもー



 今ははっきり、執着されていると感じる。


 沈黙が、時間を刻む。

 私も彼も、浴槽に服のまま入っているので動きにくいのか、それとも、動きたくないのか。

 

 返事をするということは、ここで答えを決めなくてはいけないということだろうか。


 


 でも、私はこの世界で何ができる?

 自分の承認欲求はそれで満たされるのか?


 それはNOだ。


 でも、自分の承認欲求なんて、そこまで大切なものなのか?


 自分を欲しがってくれるたった一人が得れば、それで替えられるものではないのか?


 どちらもNOだ。

 

 承認欲求だけが大切なわけではないが、自分で自分に価値を見出せない状況なのだ。

 漫画でもドラマでもどんな二次創作物でも、役割なく生きている主人公はいない。

 そして私自身、意義のない役割のない人生なんて望んではいないのだ。



 凡才である自分でないといけない仕事があるなんて驕ったことは言えないし、今後も言えるようにはならないだろう。


 非才な彼が自分を欲しがってくれている。

 なんて光栄なことだろう。



 ーだけど。

 それだけが、生きていく意義にはきっとならない。


「返事は、もう少し待ってもらえませんか。」


 まだ、これが精いっぱいだ。



 突き放すことはしないが、受け入れることもしない。

 なんて卑怯なんだろうと思う。



 彼は私を抱き寄せる。抱き寄せるというよりも、しがみつくようだ。




「どうしたら、君を引き留められる?」


 

 聞いたことのない、縋りつくような声だった。



「返事は、できませんがーでも、私の気持ちは、伝えます。」



 彼の悲しそうな顔に、私から求めて口づけをする。 


 驚いたような顔をするものの、すぐに抱きしめもう一度口づけをする。。




「お願いですから、もう少し―時間をください。」



 言えばいい言葉はわかっていても、責任が取れない。

 


 少しして、はっきりとのぼせそうになっていることに気づいた。

 寒い地域の露天風呂なのだからえてしてそうなのは当然だが、温度が高いのだ。

 度重なる触れ合いだけでも体の中からのぼせそうになるのに、耐えられるはずがなかった。



「あの、クリス様、のぼせます。」


 息を切らしながらそういうと、彼は私を湯から引き揚げてくれる。

 彼も同じだけ湯につかっていたのだから、のぼせているのだろうか。同じように息が上がっている。


 真っ白な肌に上気した頬と、全身が濡れている姿は妖艶という単純な言葉では表現しきれない。

 


 そのまま上がるかと思ったが、続きとばかりに腰に手を回してキスを再開する。


「っいやいや…!ミシェル様待たせているじゃないですか!」


「約束もせず勝手に来たんだ。待たせておけばいい。」



 唇を首筋に這わせようとしてきたので、必死に抵抗した。

 

「そういうわけには、いきませんから!そういうことは、後にしてください!」


 そういうと、さっきまでの強い拘束が嘘だったかのようにさっと手を離した。



「あとで…ね。言質はとったからね。先に出ているよ。急かせて悪かった。」


 にやりと笑ったのは、いつのまにか、今まで通りのクリス様だ。

 さっきまでのすがりつくような彼はいなくなっていた。


 ずぶ濡れのまま出ていく。



 今の一瞬の出来事は夢だったんじゃないかと思ってしまうが、そんなことはないのはずぶ濡れの自分が証明している。

 そして硫黄の入っている湯にそのまま使ったら彼の携えていた剣は錆びるのではないかといらぬことが心配になった。


 部屋に戻ろうとしたら、脱衣所には私の分の着替えとタオルが準備されていた。おそらくさっき掃除していたメイドが準備してくれたのだろう。

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