聖女の姉は恋敵?と会う―2
食事をとっていた広間の奥の階段を上れば私の私室として使っている部屋だが、広間を通らず応接室に行こうとすると外を回っていく必要が出てくる。
いったん私室に戻ってもう一度着替えます、というと疑う様子もなくわかった、と返事をしていた。
実際今来ているシュミーズのようなドレスは着心地と動きやすさ重視であり、デザイン的に寝巻とまでは言えないが、この世界の基準ではあまり客をもてなすときにふさわしい装いではなさそうだったので疑われなかったのだろう。
クリス様からは死角になる位置の窓を開けて壁をあける。
目の前に程よい太さの木があるので捕まりながら降りる。
とはいっても数段階段を上った程度の高さなので、運動神経が壊滅的な私が落ちたとしても怪我はしない程度の高さだ。足をかけた枝が私の体重に耐えられず折れてしまい、腕を少し擦りむいた。
大けがをするような事態になれば防御魔法が発動するのだろうか?と思ったが、少なくとも擦り傷程度では発動しないことが分かった。
「やばっ」
ドレスが木の皮に引っ掛かっている。そっと外したが穴が開いてしまっている。
黙っていれば気づかないだろうか。自分がこれを普段着としてき続ける分には何も抵抗はないのだが。
そもそもこちらの窓から戻ってくることはできないだろうから、勝手に会いに行ったことはすぐわかるだろう。ドレスもすでに裾は土がついてしまっているので、隠しようはない。
壁伝いに応接室の場所を探る。
多くの使用人がいるわけではないこと、使用人も通いのものが多いので、食事の用意をする人や護衛以外はまだ出勤していないはずだから人に見つかることもないだろう。
おそらくこのあたりだと思うのだがー記憶の中の屋敷の間取りと照らし合わせながら応接室の方に向かう。
カーテンは開いているだろうか。
窓から中を覗き込もうとすると、窓辺に絶世の美女と言えるレベルの美女が立っていた。
当然ながら目が合う。
輝く銀髪は、肩で切りそろえられている。緩やかなウェーブがかかっている髪をハーフアップにして瞳と同じ色のリボンで止めている。
魔力が強い人間ほど、金や銀に近い髪色だという。その言葉通りならこれ以上はないだろうという、輝かんばかりの銀髪だ。
短いのは貴族女性は髪はなんとなく伸ばしているイメージがあったのだが、そうでもないということだろうか。
忘れることもないまぶしいレベルのこの美人には見覚えがある。
この世界に来た翌日の朝、アリスが魔法を使った時だ。その時は化粧っけこそなかったが、美人だったので印象に残っている。クリス様と一緒に来た女性で、ローブを被っていたー
「はじめまして、じゃなかったんですね。」
「おはようございます。聖女様の姉君。」
絶世の美女、ミシェル侯爵令嬢は窓を開けて微笑んだ。
こちらに手を伸ばしてくれる。
性別問わず魅了するその美しさは、自分が男性なら運命の出会いとでも勘違いしそうなほど神々しかった。




