聖女の姉は恋敵?と会う―1
毎週金曜日更新と言いながらすみません。
次回より土曜更新にいたします。
ミシェル・ブルーベルは名門貴族侯爵家に生を受け、産まれた瞬間の魔力の多さから聖女ではないかと囁かれることが多かった。
生まれ持ったスキルも、転移と占星という類まれなるスキルだったこともあり魔法が使えるようになるまでは彼女が聖女として扱われた。
そして年頃もアレク殿下より3つ上、クリス様の4つ下とどちらが王位を継いだとしても丁度良いこともあり、皇太后として迎えるための教育を始めるために7つの頃には非公式に婚約の内定がされたとのことだ。
だが、同じような時期に始まった魔法の習得ののち、初めて彼女が発動した魔法「占星」はー
この国に10年後、聖女を迎えることができるという結果だった。
聖女が本当に現れれば皇太后になるのはその聖女になる可能性が高い。
ただ、占星のスキルは数世代に一人という発現率の低さから彼女以外に占星が使える人間はおらず、その証言を検証することもできなかった。
彼女が皇太后になりたくないがための虚言という人間もいれば、占星といっても的中率が完全な100%でないといわれていることから聖女が来なかった場合や来たとしても王家に入らなかった場合、子をなさなかった場合の通常運転のための魔力の高い婚約者は血をつなぐために必須という人間もいてー
―その結果、婚約の内定を解消されるにも至らず、皇太后としての教育も身が入らなくとも辞められるわけでもなく。10年が経過して今に至る。
つまり、アリスがこの世界に来たことで彼女の将来的な立場は危ぶまれる可能性が高いということだろう。しかし、それならば転移魔法をわざと失敗しアリスや私を召還することがなければそのままの立場にも居れたわけでー
「つまるところ、何を考えているかわからないと。」
「そういうことだね。何度それとなく訪ねても国のためになると思ったから、というようなことしか言わなかったらしいけど。僕らとの婚約が嫌だったとしか思えないんだよね。身内だから欲目が入ってる可能性は否定できないけど、婚約する相手としてそんな欠点があるようには見えないんだけどなあ。」
まあクリス様は言わずもがなだが、アレク殿下に関しては能力が高いか低いかはわからないが、顔面偏差値は非常に高い。次期国王なのであれば国の中では収入だって低いはずはないだろうけど。
「殿下のほうの性格についてはわたしには難があるように見えますけど、それはおいとくとして。側室制度があるからそういうのは嫌、とかは…。」
「うちは側室制度はかなり昔に廃止になってるよ。側室って確実に子孫を残すためのものだけど、だいたいどこの公爵家にも王家の血が入ってるから、そっちから血の濃い順番に養子縁組すればいいんだし、実際僕はそうやって今王家に入っているわけだから。もちろん制度として廃止になっているだけで、愛妾を囲っている貴族がいないというわけではないけど…。」
まあ公的に認められようがいまいが、愛妾がいることがあるのは別にこちらの世界に限ったことではないだろう。
「そもそも論として一般的には相手の定まらない婚約者ってありなのかと思ってしまいますけどね。」
「僕らの結婚は家と家だからね。別にそれはめずらしいことじゃない。」
「想い人がはっきりしている、とか…。」
クリス様をちらっと見る。普段若い男性というと同級生か自分によく似た顔の兄くらいしかみることがないので、今でも色あせることなく輝いて見えるレベルだ。
王宮に勤めているのなら王位を継ぐのはアレク殿下で、むしろクリス様もそれを望んでいることは知っているだろう。
ただアレク殿下が嫌、とか…?
「うーん、まあ年頃の令嬢だからおかしくはないけど…。」
思い当たることはなさそうな顔であるが、次の瞬間閃いたように「僕かな?」とのたまった。
「心当たりはあるんですか?」
今のは嫉妬するところじゃないのか、と彼はすねたような顔をして見せる。
「なに考えてるかわからないからねえ。なくはないかもしれないけど、そうだという好意を感じたことはないかなあ…何より現時点ではまだアレクの婚約者だからね。」
僕たちの、と言わないのは私に気でも遣っているのだろうか。
「クリス様。ミシェル・ブルーベル嬢がいらっしゃいました。」
まだ朝食もすべて食べ終わっていないのに到着するとは。といっても相手が出発しているのはもっとずっと前だろうから仕方ないか。
「準備ができたら行く、と伝えておいて。食事はゆっくり食べよう。事前に知らせもせず来るほうが悪い。」
クリス様はそういうが、貴族の令嬢が自分を待っていると聞いてゆっくり食事をできるほど肝は座っていない。慌てて目の前の食事を口の中に運んでいく。
「もう食べ終わります、デザートはあとでカフェに連れて行ってくださるのですからいりませんので。」
「じゃあちょっと待って。僕も行くから。僕の屋敷だからね。」
そういいながらも彼に食事を焦る様子はない。
「あの、クリス様はゆっくりで構いませんので、私は先に行っておきます…。」
「だめだ。」
思っていたより厳しい言い方で言葉が飛んできた。
驚いた私にクリス様はすまない、とひとこと謝罪してから続ける。
「…これはいうか悩んでいたんだけど、聖女はこの世界に来てから聖女としての能力を獲得する前は、常に暗殺や誘拐の危機にさらされるんだ。
歴史的にはいつも、聖女が訪れる国は、歴史上類をみないほど豊かになるー聖女をモチーフとした昔話はこちらの世界のあちこちの国にあるが、これは昔話として各国に語られている聖女の話に共通する部分だ。ある国が極端に豊かになるということは当然ほかの国にとっては脅威でしかない。僕らだって隣国に聖女が現れたかもしれないという噂を聞けば警戒する。」
「だからわざわざ機密事項とおっしゃっていたんですね。でもここはクリス様の屋敷でしょう?そんな乗り込んできてなにかすることがあるんですか?」
「いや、ないだろうし、屋敷の中に入るのを許可した魔力持ちはミシェル嬢だけだ。護衛を含めてあとは屋敷の外で待つように指示している。護っていなければ僕の屋敷の結界で感知できることは向こうも承知しているから、破ることはないだろう。」
そんな昔の伝承が今に影響を及ぼすのは、魔法以外が後進国の影響なのか、それとも刷り込みとしての聖女の影響が大きいのか。自分の物差しで考えるから理解できないだけだろうか。
「そんなに聖女って珍しいんですか?わかっていないだけとかではなくて?」
「魔力は生まれつきだからね。産まれたときに聖女になるにふさわしい魔力を持っている、と言われた人間は過去1000年間で実は時々いる。それこそアリス殿のような髪をもって産まれる赤子がいるんだ。どの国でも魔力の高い人間は重宝され、手厚い庇護を受ける。誘拐や暗殺の恐れもあるからね。だが、誰もが原因不明の熱病で1歳までに亡くなるんだ。
妊婦が同じような症状で亡くなるという報告もあるが、それは胎児の魔力が高かった時ではないかと言われている。文献の記載から判断するとあまりに肉体の器が小さいと、それまでに魔力に体が蝕まれてしまうからだと解釈されている。
つまり、こちらの国では聖女は生まれても育たない。
僕やミシェルの髪を見てもらうとかなり魔力が強いということがわかると思うんだけど、この髪色で生存するにもたくさんの時間をかけて外部から魔力の流れを整えることと、本人が早く魔力のコントロールを本能的に行えるようになる必要がある。あとは母体の強靭さとね。」
過剰な魔力に対して流れを整える、というのをクリス様ができるのは、もしかすると自分が幼い時に長くされてきたからということだろうか。アリスの魔力を受けて倒れた後のことを思い出す。
「じゃあ話に聞く伝承の聖女は、私が元来た世界から召還された人間の可能性が高いということでしょうか。」
「今僕たちはそう考えている。そもそも、異世界の存在を具体的に知ったのも、異世界に座標を写すミシェル嬢の「転移」スキルがあったからこそだから、彼女の協力なしには現状は整っていないことを考えると、彼女が君やアリス殿に何かをたくらむメリットというのはあまりなさそうなものだけど。。。」
「彼女の行動原理が何を軸にしているのかがわからないという意味では、愛国者という言葉では片付かないのでしょうか。」
話が終わったと思い口をはさんだが、まだ話が終わったわけではなかったらしい。目線を変えず、そうだと頷いてそのまま話を続ける。
「そして今、周辺国の情勢を見ているとどうも聖女が現れたと探るだけでなく、いると確定しているような動きがみられている。
どこからか聖女が来たという情報が漏れているからだろう。噂程度であったとしても、僕はそれを広めた人間がー」
周囲を警戒するように視線をやる。
「ーミシェル侯爵令嬢の可能性があると思っている。」
「そんなの、城下の治療師でも気づいてましたよ。ある程度魔力があれば大きな魔力の反応には気付けるんですよね?」
「ある程度、ね。君が治療院で会ったハンスはこの国では5本の指に入る治療魔法の使い手だ。大きな魔力が使われたからと言って自然に気が付けるほどの魔力を持っている人間なんて、名前を把握できる程度しかいない。」
ハンス先生は魔法の使い手としても優秀だったらしい。でも平民と言っていたから、逆に平民でそこまでの地位についているということはそれだけ実力が高いということなのだろう。
ただそんなことを聞いても話が進まないのでやめておく。
「ーなるほど、わかりました。では先に言って話してますね。」
クリス様がしゃべっている間に、もう食事は終わるといったのに紅茶が注がれていた。
もう少し待てということだろうか。
「唯一の身内である君は聖女の弱点にもなりうるから、常に護衛の同席が必要だと思ってもらえばいい。」
「私に会いに来たんですよね?私はもう食事は終わってるんですが。じゃあクリス様の護衛の方を一人貸してくださいよ。」
わざわざ待っている相手を更に放っておくというのは気分が悪い。
「僕が行く方が確実だからね。何か彼女に吹き込まれないとも限らない。」
何か吹き込まれることがあるということだろうか。
もしくは何か話されたくないことがあるということだろうか。
ジト目をしてみるが、気に留めていないのか意に介さないと決めているのかクリス様は変わらず涼しい顔をしている。
というわけで、いったん自室に戻るふりをして、回り道をして客間に向かうことにした。
現在折り返しあたりです。
読んでくださっている方、これからもお付き合いいただければ幸いです。




