聖女の姉はAEDの代わりを探す―2
倒れた男性の胸に想いきり拳を振り下ろした。
そして宣言する。
「脈が触れません、心臓マッサージを開始します!」
「ちょっと待て、今叩いたのはー」
「先生は除細動の準備をしてください!」
胸骨圧迫を始める。1分間に100回、青いネコ型ロボットのテーマソングのペースに合わせて胸骨圧迫を60回する。まず心原性だ、人工呼吸はあえてする必要はないだろう。
横目でハンス先生が除細動を魔法で準備している姿を確認する。両手を合わせて集中している。
エネルギー源をぶつけつ様な治療をするということだろうか。
しっかり胸骨圧迫の数を数えて行ってから、頸動脈に触れて脈を確認する。
「脈戻ってます!治療魔法は不要です。」
脈を確認すると、しっかり拍動が確認できた。呼吸も荒いがはじまっている。
ハンス先生は合わせていた両手を離した。おそらく中にエネルギーをためていたのだろう。中に光っている塊が確認できたが一瞬で霧散した。
「今、何をしたんだ?殴ったように見えたが。」
「はい、殴りました。」
理解できない、という顔をされる。確かに教科書にはのっていない。
「除細動まで時間がかかる場合の代わりです。もちろん、胸骨圧迫の開始がそのために遅れてはいけないのでしっかり体を上に向けて頭を置くまでの間に一度だけの予定でしたが。」
まだ意識のない店主の片膝を立てて、ごろりと横ばいにした体制をとらせる。顎を少し開けて気道も確保した。
「そういう方法があるのか。確かに刺激で心室細動を取り除くという意味では理にかなっていそうだが。」
「除細動器がすぐに手元にない場合、意識消失が確認されている場合なら試してみてもいいのではないかと言われている方法です。特にこの方の場合以前も不整脈と思しき症状が出ているとのことでしたので、やってみる価値はあるのではないかと思いました。」
逆に健康な人間にした場合は不整脈を引き起こし危険なのだが。自分が幼いころ少し年上の男子学生が意識消失ゲームと称して胸を叩きあっていて、ニュースにもなり、死亡事故まであったのでよく覚えている。
「なるほど…とりあえず。店の奥に運ぼうか。あんたは…」
「私は護衛ですので、両手がふさがる行為は控えさせていただきます。」
「そうか、仕方ないな。あんたは、手伝ってくれるか。」
「ああ。」
先ほどまでおそらくいい争っていた相手であろう男に声をかけて、ハンス先生と二人で店主の体を持ち上げる。
気持ち手伝おうとしたが、女性に力仕事をというよりは、もし落とされたら怖いからやめてくれと言われておとなしく手を引っ込めた。
別に一人で運べというのでない限り人並みに力はあると思うが怖いといわれてあえて不興を買うところではないと判断した。
店の奥にはこじんまりとしたベッドとキッチンがワンルームに収まっていた。男性の一人暮らしでイメージできる散らかり方だった。洗濯物は何日分もハンガーのようなものにつるされたままだし、流し台には使った食器が明らかに1食分以上溜まっている。
「ここに寝かせておこう、俺はこいつの馴染みの治療師だ。後は見ておくから、お前らは帰っておけ。」
私と運ぶのを手伝った男に向かって言う。
「いや、俺はそいつの古い友人だ。ここにいさせてくれ!」
「古い友人?なんで言い争ってたんだよ…こいつには興奮したら心臓が止まる発作が起きるから、めったなことでは興奮しないように言ってたはずなんだが。」
知らなかったのか?とじろりと相手を睨む。
「俺は商人に弟子入りして一人前になるために一緒にこの国を出て行ったから、会ったのは20年ぶりなんだ。病気のことはきっと最近か、大人になってからのことだろう?」
「20年ぶりか…。20年も昔の知り合いが、こんなにこいつを怒らせるなんてなにを言ったんだよ。」
「それはあんたたちには関係ないだろう?こんな大変なことになるって知ってれば俺だって気を付けたさ!」
「まあそれはそうだが…。」
「そいつが、禁書の複製方法を聞いてきたからだよ。どうするのか聞いたら、自分の移住していた国で需要があるんだと。国家機密に関わるようなものかもしれないのに、渡すわけないだろ。売国奴になる気はねえ。」
店主は意識が戻っていたらしい。目を開けている。
今まで何度も心臓が止まっては生き返ってきているだけあってタフだなと思ってしまった。




