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聖女の姉は男慣れしていない

前話あらすじ


クリス様が何故か外遊先までやってきました。

 唇を離し、しばらくお互いが沈黙する。


 こういう時にどうしたらいいのかという知識はさっぱりない。

 漫画や小説ではこういったシーンで次回に続くと出て場面転換が起こっているが、現実はみんなどうしているのだろうか。


 クリス様をみると同じようにどうしていいのかわからないという顔をしている。

 少ない外套の薄明かりだけでは、顔色まではわからないが、私は真っ赤だろうからわからなくてよかったと思う。


「えっと…今は周りには何の気配もないから、少しだけ歩こうか。」


 軽い咳払いをして、手を差し出してくる。


 明らかに貴族という格好のまま街を歩くのは危ない気もするが、この世界の治安はいいということだろうか。周囲の話だとクリス様は国で二番目に魔力が強く、戦闘力に関しても立場上一応おかれてはいるものの下手な護衛なら盾にもならず却って邪魔になるほど強いらしい。


 なにかあっても大概のことなら対処できるだろう。

 

「こうするのは久しぶりだね。」


 いやキスしたのは初めてですけどーといいかけて、こうやって話すのが、ということが目的語であることに気がつく。


「そうですかね。お仕事忙しかったんでしょうか。」


 そうはいっても暇さえあればアリスと私が学んだり魔法の練習をしている横で仕事をしに来るし食事も共にしているので、数日会わなかった程度だ。


「いやあ、仕事が終わったらついていきたかったんだけどね。」


「いえ別に、無理して会いに来ていただかなくてもいいのですが。あ、防御魔法の件はありがとうございました。かけられていたことは全く知りませんでしたが」


「ああ、言い忘れていたかもね。3日間寝ていた時に魔力の流れを整えるついでにかけたものだから。」


 さらりと言う。

 馬車が何台か並んでいる通りに出た。タクシー乗り場みたいなものだろうか。

 一番立派な馬車に近づく。御者は寝ているが、クリス様は声をかけ起こし、金を渡す。

 

 私に先に馬車に乗るよう促す。


「え、帰るんですか?」


「帰ってもいいけど。」


 違うよ、と笑う。促されるまま乗り込むと、クリス様もあとから向かい側に乗ってきた。馬車はゆっくり動き出す。


「どこに行くんですか?」


 周囲を確認すると言って出てきているのに離れていいのだろうか。


「このあたりをぐるぐる回ってもらうように言っているだけだから大丈夫。あの防御魔法だけど、一度使うとなくなるから、もう一度かけなおしておこうと思って。」


 クリス様は右手の手袋を外しこちらに手を伸ばす。

 大きな手が私の髪を軽くなでる。


「…できれば、正面じゃないほうがいいです」


 馬車の中には明かりがある。

 おそらく真っ赤になっている私の顔は丸見えだろう。


 クリス様は笑って向かいの席を立ち、横に座る。

 これはこれで距離は近いが、顔は見えないのでよしとする。


 横から髪をなでていたかと思えば、膝の上に寝転がってきた。


「えっあの…」


「これくらいの距離感ならそろそろ許されるかなって。」


「まあ、別にいいですけど…。」


 いや顔が丸見えなのであまりよくないんですけど。

 でもよくないわけではない。

 どう表現していいかわからないので、出かかった言葉を飲み込む。


 触れられたところから暖かな何かが流れ込む。おそらく魔力が流れ込んでいるのだろう。


 以前はわからなかった魔力の流れが感じ取れるようになっているということは、前よりは成長しているのだろうかというようなことを考える。



 そもそもこういう状況に全く慣れていない私としては、こういった接し方は心臓に悪い。耳まで熱を持っているような感覚があり、気づかれたくないので代わりに軽くにらんでおく。


 ふとクリス様が私の腰あたりに目をやった。といっても膝枕をしている体勢なのでほとんど顔を横に向けただけなのだが。



「あれ、その鞄、何かはいっているかい。」


「あれ、そうですか?」


 そりゃあ鞄なのだから何かしらを入れるためにつけているんだし。

 何かというのは変なものが入っていないか、ということだろう。


 今日ずっとつけているウエストポーチには、ちょっとした買い物をするのに必要な財布や小さい水筒、ハンカチやタオルなどが入っている程度なのだが、それでも側仕えという立場上、アリスのもの私のものの二人分が入っている。入れ替えや出し入れも面倒だし、次に外出するときに忘れるのが一番困るだろうと思い、そのまま持ってきたのだ。

 鞄はまあまあ膨れ上がっている。


 斜め掛け鞄の上のふたを開けてみると、クリス様がすっとオルゴール付きの小箱を取り出して起き上がる。


「これだね。どうしたの?」


「貰いものです。」


 えっ?と驚いた顔をして箱をクリス様が勝手に開ける。大事なものを入れていたらどうするんだ、勝手に見る気ですか…。


 箱を開けると箱をもらった時に一緒に渡された名刺が飛び出した。クリス様は空中に飛び出した名刺を器用に受け取る。


「ああ、商会の人間にもらったということか…。街でかな?」


「昨日の外遊先でですね。入れたままに存在を忘れてました。」


「そうなんだ。ごめんごめん、昔この国でこういった小箱に宝飾品を入れて女性に愛を伝えるのが流行りだったことがあってね。最近またブームになりつつあるって聞いてたから、この世界に来て数日しかたたないのに、誰に愛を伝えられたのかなと思って。」


 だから驚いたのか。


「商人の方からビジネス目的のラブコールだったというわけですね。」


「そうだね。開けて音が鳴るのはあまりみないけどね。」


 箱の中のオルゴールを触っているようだ。そのうち壊れるんじゃないかというような触り方だ。そのうち音が濁って音が外れだした。


「あっ、ごめん、壊したみたいだ。」


 そりゃそんな使い方してれば壊すでしょう。


「別にいいですよ、たまたま渡されただけで欲しかったものでも何でもないんですから。」


「また代わりのものをあげるから、これは僕が回収していいかい?気に入っているなら治った後で返すけど。」


「新しいのも別にいらないです。それも差し上げます。」



 クリス様は少し残念そうにそうか、と笑う。


 何がしたいんだこの男はと思うが顔には出さないようにする。


「じゃあ、中断しちゃったけど防御魔法をもう一度かけようか。」


「けっこう膝枕してましたけど、まだなんですか。」


「うーん、時間がかかる魔法だから…キスしながらだったら早く終わるけど、どうする?」



 少し慣れて赤みがひいていた頬と耳が、また熱くなった。

ご覧いただきありがとうございました。

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