聖女の姉は守られている
前話あらすじ
外遊先での問題を書き決したのもつかの間、その日の宿で賊のようななりをした男たちに襲われる。
雑な武装をし顔を隠した男たちが上に上がり、部屋に向かってくるのがわかる。
ひとまずアリスを隠さないとー
ーそう思いアリスのほうを見たが完全に固まっていて、動きそうな気配はない。
背中を押して立ち上がらせようとするが動かない。
「アリス!」
アレク殿下が名前を叫ぶとようやく我に返ったらしく、立ち上がろうとする。
周囲を見渡す。兵士が戦ってくれているが、相手の数が多い。視界の端に部屋の入り口に殿下も来てこちらに来ようとしているのが見える。
逃げるとしたら?どこからだろうか、窓?
割れた窓は外にも人がいるということだろうか。石が投げ込まれているようだ。
足から降りれば命は助かるだろうが、仲間がいるとすればそのあと逃げられるか。
こちらの兵士が魔法のような光を発しているのに対し、進入してきた輩たちは剣など物理的な手段しか持っていないようだった。
角部屋なので、窓はもう一つある。アリスを抱えたまま、そちらに近づいて伝って下りられないかどうかを確認しようとする。
ーというのがうかつだったらしい。
窓の外には顔を隠して剣を持っている男がいた。
窓は薄く、窓枠は頑丈とは言えない作りだ。
男の剣がこちらに振り下ろされる。
窓は薄い障子のように叩き割れる。
一瞬、男と目が合った。
こちらに向かって攻撃の意思を向けている。。
そのまま刀は私に向かって振り下ろされる。
とにかくアリスを突き飛ばす。
だめだ、と心臓に凍るような錯覚をして思わず目を閉じる。
その瞬間弾き飛ばされたのは、剣を振り下ろした男のほうだった。
私の周囲に光る壁のようなものが張ってある。
「え?」
驚くがそれが何かを考えている暇はない。
吹き飛ばされた男を見て周囲も驚いた顔をしているが、あいつを倒せと言わんばかりに兵士の間を縫って入ってくる賊が順にこちらに向かって武器を飛ばしてくる。
飛び道具がいくつか飛んできたが、どれも私の周囲にある光る壁が弾いた。
何の壁かは知らないが、こちらから何かを触れる分には弾かなさそうだったのでさっき突き飛ばしたアリスの傍によって体を起こすのを手伝う。完全に腰が抜けているようだ。
「アリスは立てるか!?」
殿下の声がする。戦いながらこちらを気にかけているようだ。
「無事ですが、腰を抜かして立てなさそうです!」
代わりに返事をした。
「そうか!」
あたりが明るく光った。賊が動けなくなっている。
殿下が手をかざしているところを見ると、何の魔法かはわからないが、彼が魔法を使ったようだ。
「ふたりともこちらへ!」
兵士がつきそい部屋の外へ促そうとする。
アリスに肩を貸すがなかなか立ち上がれなさそうだ。殿下がやってきて、すっとお姫様抱っこで持ち上げ運ぶ。
「捕まってろ!」
捕まることすら怪しそうだが殿下はそのまま窓から飛び出した。
器用に窓枠を伝って降りていく。
殿下の側仕えはその後ろをそのままついていくが、他の兵士は下からでるようであり、私もそちらに促される。
裏口から出て、暗い道を走っていく。
殿下は違う道から来たのか、すぐに合流した。
外に出ている賊は動けるようで、私の後ろで兵士が戦ってくれているのを尻目に必死に殿下と アリスについていく。アリスを抱いているはずの殿下のほうが速い。
長いスカートをはいている分動きにくいのもあるだろうが、第二次成長期を終えた人ひとり運んで走れるということは普段相当鍛えているのだろうと感心する。
遠目にこちらを観察している人影を認めたが、そこまで気にできる余裕はない。
「まだ店は開いている時間だ。人通りの多い道を通って店に入る、ついてこい!」
運動能力のピークの年齢を超えている私には、ついていくので精いっぱいだ。
「あの…護衛の兵士の方々は…」
気になっていたことだけは聞いておく。
「有事の際の落合場所は確認してある!」
そうなんだ。とりあえずついていくのに専念した。
大通りに出た後、細い道を二回ほど曲がり、先に向かっていた兵士の一人が招き入れてくれる建物の裏口から入った。倉庫のような部屋に入る。
あたりは暗くなっているとはいえ、急なことだったのでローブも何も着ていない。私はともかくアリスと殿下は普通に店に入っては異様に目立ってしまうだろう。
ひとまずつかれたので床に腰を下ろす。
アリスは盗賊が来た時の驚きの他に、おそらくお姫様抱っこの衝撃もあるのだろう。真っ赤になった顔で殿下にしがみついたまま、まだ固まっている。殿下が下ろそうとしたが固まったままだったからか、殿下もそのまま腰を下ろし、膝の上に座るような体勢になる。
「あの…ありがとうございます、おります。」
「あっ、いや、別に俺はこのままで構わないが。」
「いえ…おります。おりますけど、まだちょっと腰が抜けて動けないので、しばらくお待ちください。」
真っ赤になったアリスが、恥ずかしいのか今にも泣きそうな震える声でそう言った。
それを見て殿下も頬を赤くしてどうしていいかわからない、という顔をしたが自分から降ろしたくはないのだろうかおろおろしている。
あまりこういうところを見られうのも恥ずかしいだろうから、目線を外す。
倉庫かと思ったがそちらかというとワインセラーのようだ。たくさんの瓶が並んでいる。
勝手に触っていいかはわからないので見える範囲でラベルを眺める。
果物ののような果実のイラストが描かれている。
「もらおう、姉君、1本とってくれ。」
「えっいいんですか。」
どうみても二十を超えているようには見えない。
「金きちんと払っている。」
そういう問題じゃなくて、いや今の流れではそういう意味にもとれたかもしれないけど思いかけてこの世界では飲酒の制限年齢が違うかもしれないという当たり前の可能性に到達した。
何がいいかわからないので手近な1本をアレク殿下にそのまま渡す。
…え?と聞かれたが何を聞かれたのかわからない。
「グラスを店の主人にもらってきます。」
と言って先に入っていた入ってきたドアと反対の扉から兵士がそっと出て行って、自分の足りなかったものに気づいた。
「アリスの分もとらせていただきますね。ジュースがいいのですが…あ、これですね。」
息は整った。ひざはまだ笑っているが立てないほどではないし、私ものどが渇いた。
「一応、ルールだからみな毒見だけ頼む。」
こちらの思ったこと汲んだわけではないだろうが、兵士が戻ってきてしばらくして店員らしき前掛けをした人が人数分のグラスを持ってやってきた。
「すみませんねえ旦那。上の部屋が空いたらすぐ移動してもらうんですが、あいにく今日は満席でして。」
「連絡もなしに来たのにすまないな。いつも助かっている。」
そんなやりとりから、きたのははじめてではないのだろう。
栓を開けてグラスにジュースとワインを注ぐ。
一口ずつ飲んで、ひとまず大丈夫なことを確認する。
喉乾いたからちょうだい、ちょうだいとアリスが手を伸ばす。まあ新しく出したものなら問題はあまりないだろう。そう判断して新たなグラスにジュース注いで渡すと、今飲むなら瓶から直接か姉君のグラスにしろ、と殿下がいってグラスを交換するよう促してくる。
私が今口をつけたグラスに新しくジュースを入れてアリスに渡し、殿下には開けた瓶をそのまま渡す。
他の護衛の騎士たちも手酌で飲むようだ。勤務中にアルコールはいいのだろうか、みんな新しいワインを開栓して飲み始めた。
ジュースを飲んで、ようやくアリスの顔から赤みがひいてきた。
と思えばまた真っ赤になって慌てて殿下の膝から逃げるように降りた。
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