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聖女の姉は異世界を外遊する-3

 部屋をでて考える。

 温かいといわれる時期でも長袖が必要なこの地域には冷蔵庫のようなものは一般に普及していないようだった。

 そもそも電気がどこまで通っているのかも怪しい。

 

 太陽の光をエネルギーに変えるシステムはあるとは言っていたが、街の明かりなどはランタンに火をともしているし元の世界での電力ほどどこでも使えるというわけではないのだろう。

 医学にしても電力にしてもそうだが、魔力で補えてしまう分、生活に差し迫らないせいかもしれない。


 少し中世のヨーロッパを混ぜたような街並みを眺めながら歩いていると、すれ違いざまに人にぶつかった。


 そんなに人通りも多くない道で、ドレスではないにせよ人並みよりも高級な衣服を身にまとっている人間にぶつかるなんてわざとだろうか。

 スリかと思い手元の荷物を確認したが、財布はある。


 振り返ると相手もぶつかったことに気が付いていたようでこちらを振り返っている。


 背負っている荷物が大きいので、もしかしたら人ではなく荷物にぶつかったのかもしれない。


「すみません。不注意でした。」


 明らかな実害はなさそうであり、私も前方不注意だったのは間違いないのでまず謝罪する。


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。如何せん荷物が多くて、申し訳ない。奥様は、こけたりけがなどはなさっていませんか?」


 感じのよい精悍な顔つきをした青年が大きな荷物をしょったまま頭を下げる。

 奥様ではないが年齢的には確かに誰かの奥様でもおかしくない。この世界では母親の年齢が若そうなのでもしかすると20代半ばの私はいき後れに相当するのかもしれない。

 特に訂正はしない。


「けがはしていません、大丈夫です。」


「そうですか…あ、よろしければこれをお詫びにどうぞ。行商をしながら暮らしてるんですが、今一番の流行でして。」


 そういってさっと鞄を下ろし、そこから小さな箱を差し出してきた。


「いえ、こういったものをいただくようなことではありませんよ。」


「そう高いものではございません。それなら、僕の好みのかわいらしい奥様にサービスということで。」


 かわいらしいも好みも生まれてこの方言われたことはないが、言われてみると案外気分のいいものである。おそらくは服装から金持ちと目をつけているのだろうが。


 渡されたのは箱だった。箱自体に飾りが施してあり、開けると音楽が鳴った。オルゴールのついている小箱だ。


「口がうまいですね、行商しているのを見かけたときは購入させてもらいましょう。」


「ありがとうございます。今持っている分は殆どサンプルですが、ご希望があれば大口の取引も承ります。」


 とはいっても私が持たされているお金をそこまで自分のために使っていいのかは定かではないが。

 機会があればごひいきに、と名刺を渡されたのでなくさないよう小箱にしまう。


「営業がお上手ですね。」


「好みなのは嘘ではないですよ。」


「ほかにどんなものを持っているんですか?」


 口がうまいが営業上手も否定はしなかった青年は、笑顔を絶やさない。鞄の中を開けて中を確認する。


「うーん…奥様にお勧めするようなものはないですね。」


「そちらの手に持っているものは何ですか?」


 手提げの布の鞄に植物が入っている。どこかで見たことがある植物だ。わざわざ覚えているということはその辺には言えていたから覚えたのではなく、図鑑かなにかだろう。

 どこだっただろうか、思い出せないー


「これはそっちのほうに生えていた草ですよ。僕の祖国では見たことがないのでね、もし地元で流通していないものだったら売れるでしょう?じゃあ、ご連絡いただくまでには気に入るものを持っておきますので、僕はこれで。」


 商人は手早く鞄をしまって身支度を整えた後、軽やかに去っていった。


 袖から除く腕は行商人というよりは武人のような腕をしているが、商人ということはやはりお金を持っている分、危険にもさらされる機会が多いのかもしれない。




 ふと、傍で子供が泣いている声に気が付く。

 赤ちゃんならオルゴールの音でも聞かせれば落ち着くかと思い声のするほうにたどってみた。しかし泣いているのは赤ちゃんというには大きいくらいの幼児で、それもぐずって泣いているというレベルではない大泣きのようだった。


「どうしましたか?」


 傍に赤ちゃんを抱いて立っている母親らしき女性に聞く。


「こけたので起こしたところ、急に泣き出して…。でもいつもこんな泣き方はしないんですけど。」


 確かに子どもの両ひざは赤くなっている。


「いつもと違うところをぶつけたとかはありますか?」


「いいえ、特にないですね…。」


 ちょっと見せてもらいますね、と母親らしき女性に断り手のひらをみようとするが、左は抵抗なく見せてくれるが右手を見せてくれない。見せて、と言い手のひらを上に向けようとするが右腕自体を動かそうとしない。


「どこが痛いのかと聞いてもなくばかりで…。はやり病かもしれないから今は急ぎの病態でない限りは治療院には来ないようにとお触れが出ているんですが、やはり連れて行こうかと。」


 女性も赤ちゃんを抱いたまましゃがみ子供の頭をなでるが、子供は激しく泣くばかりである。


「お母さん、ですよね?」


「はい。」


「こけたとき、どこをぶつけたとかどうやっていつ泣き出したかを教えてもらっていいですか。あと、腕を引っ張りましたか?」


「はい。走ってこけるのはいつものことなんですが、馬車が通ろうとしてたため、ひかれないように慌てていつもより強く腕を引いて抱き起しました。そういえば、それから泣いたかも…。」


「ちょっとだけいいですか。」


 ひじの部分を支えて腕を外転させる。はまる感触があった。

 泣いていた子供もピタリと泣き止んだ。


「いたくない…。」


「おてて、ピリピリしたり変な感じしない?」


 子供は首を横に振る。両手で母親にだっこをせがんで抱きついている。


「ありがとうございます。治療師さんだったんですね。」


 知識が合って薬を渡す職業を何と言っただろうか、思い出せなのでぼかすことにした。


「まだ魔法は使えないので見習いですね。」


「あら、でも子供がよくなっていますけど、これは治療魔法をかけていただいたのでは…」


「肘内障と言って、子供の腕を引っ張ると稀になる病気ですね。腕の筋肉をつなぐ組織が腕を強く引っ張ってしまって、溝にはまり込んでいたんです。それを、今戻しただけなんですよ。」


 もっとも、骨折と見分けがつかなかったり骨折を伴うこともあるので骨折なら治せなかっただろうが。

 しかも元の世界では私が実際に治したことなどあるわけもなく、多少の実習をしたところで必ずしも出会う病気でもないため、治し方だって教科書で呼んだことがあることと動画で何度か見た程度だった。


「そうなんですね。ありがとうございます。」


 ほらお礼言って、と子供に促すがまだしゃべれるような年齢じゃないだろう。でも割と上手にあー等、と言ってくれた。なごむ。


「次から腕を引っ張るときは気をつけてください…といっても、赤ちゃんを連れて幼児さんも見ていたらなかなか口ではそういっても実行するのは難しいとは思いますが。」


 そして治療院も私の想定が当たっていれば伝染病ではないから、来てもらうことは原因さえはっきりさせれば問題ないと近々言われるだろうが…

 とりあえずこの少年が受診を控えるように、と言われている状態を押して受診する状態ではなくなっているだろうからそれに関しては触れずにおく。



「ところで聞きたいのですが、このあたりで新しい食料品のお店が出たり、新しい品物が流通しているといったことはないですか。もしくは今までにない販路から食料が供給されるとか。」


「そうですね。ここ内地なのであまり魚がたべられないのですが、先日このあたりの食料品店で魚の商品を取り扱うようになったので、食べられるようになったんですよ。」


 ーそれだ。


「ありがとうございます。あ、もうひとついいですか。このあたりでおいしいスイーツのお店があれば教えてほしいのですが。アイス以外で。」



 アイスの毒見をしつつ溶ける前に殿下の目を盗んで食べさせる方法が思いつかなかった。アリスにはほかに美味しそうなものを見つけたからと言って持って帰り、アイスはあきらめてもらおう。


ご覧いただきありがとうございました。

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