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聖女の姉は皇太子に謝罪されるー2

前話のあらすじは前話参照してください。

 夕食前と言われたが、実際殿下が戻ってきたのは夕食の時間を大幅に過ぎてからだった。


 先立って歩く私たちを呼びに来たアレク殿下の側仕えについていくアリスを、クリス様がエスコートする。ご飯も一緒に食べるのかなあと半歩後ろを歩く私に話しかけてくる。

 周囲の目がないところではともかく、対外的には側仕えだ。

 アリスは不満そうだが、真横に立って同じテンションでしゃべるわけにはいかないだろう。


 クリス様が、やはり僕の客人としてふるまってもらう方がいいのではないかと言い出しアリスはそれに賛成したが、自分に見合わない何かを享受するには鈍感にも傲慢にもなれないので、謹んで辞退した。


 食事をする部屋に案内された。

 部屋にはもうアレク殿下が座って待っており、食事の準備は殿下ともうひとり分だけだ。

 イメージではかなり不快な見た目をしていたアレク殿下だが、実物は整った顔立ちをしていた。やはり逆美化をしていたようだ。


 殿下の側近があと2席分宜しく、というと2つの席に皿やらグラスやらが置かれだした。


「追加は1人分でいい。侍女は後で食べるように。」


 殿下がこちらをちらりと見てそういう。まあ、扱いは侍女だからしょうがないか。


「はい。」


 少しだけ腹が立ちながらも返事をするとアリスが怒りだした。


「でーんーかー!!!なに言ってるんですか!さんざん話をしたじゃないですか!お姉ちゃんをそういう扱いをする殿下と食事はしません!」


「いやだって、姉とはいっても侍女としてきてるじゃ…」


「今の立場が侍女であろうが私の大切な姉です!私を大切にしたいと仰るなら、私の大切なものは大切にしてください!」


 そういって踵を返して私の腕をつかみ、本当に部屋から出ていこうとする。

 アリスの心意気には感動するが、正直私は後ででも食べられるなら別に構わない。

 はじめに牢屋に連れていかれそうになった時と比べれば格段の改善だ。

 ただアリスにとって、それを私が今言う場面でないことはさすがにわかる。


 待て、と殿下が席から立って追いつくまでに、クリス様が肩をたたいてひき止める。


「家族を大事にしてもらえないのに腹が立つのは当然だけど、一応アレクの言い分も聞いてやって?彼にも言い分があるからさ。」


「アリス。私もいいから。」


「…わかりました。」


 アリスはクリス様もしばらく睨みつけていたが、自分でも頭に血が上ったのを自覚したのだろう、おとなしく殿下のほうに向きなおる。

 それを見てクリス様も手を離した。


 クリス様は近くで立っている側仕えに耳打ちし、人払いをさせる。


「アレク、僕らの感覚の家族と彼女の世界での家族では身近さが異なる。もちろん、僕らの世界でも平民ではそうだけど、兄弟間に明らかな上下関係というのは、産まれた年の差分の年齢によるもの以外では基本的にはないんだよ。

 姉君を侍女として召し上げているのはあくまで形式的なものときみもアリスさんに話していただろう。形式通り、というのが君の中では形としては侍女としてふるまうという意味であったのだろうけど、彼女にとっては侍女としてこの城での滞在権を手に入れたに過ぎないという意味なんだろう。

 

 そういう意味では感覚の齟齬でお互い反省すべき点はある。

 でも君は彼女を召還したときに一度姉君に対してずさんな扱いをしている落ち度があるね。だったら僕は君が先に折れて、それから話し合いをするべきだと思うよ。」


 そういう感覚の差からきてるものだから今回はあまり彼を強く責めないでやって、とクリス様はアリスのほうも見ながら説明する。


 すこしの間をおいて分かった、と答えしょんぼりしているアレク殿下の様子はすがる子犬のようだった。多少腹が立ってもアリスと同じくらいの年の頃、おそらく年下の男性を前にあまり強く腹を立てる気にもなれない。


「悪かった。姉君も。」


 私に対してはあまり誠意のある謝り方とは言えないようにも思うが、王子ともなればこんなものなのかもしれない。


「私も怒鳴ってすみませんでした。でも、私の大切な家族を私以上に下に見る発言はやめてください。不愉快です。」


 アリスは渋々ながらといった様子で謝り、それでいて改めて主張した。


「今日は二人で食事するといいよ。姉君とは僕が二人で食事しよう。」


 クリス様が私の肩に手を添えて部屋の外に促す。


 別に準備させたんだから貴方はこちらで食べたらいいじゃない、と突っ込みたくなったが彼は有無を言わせないような笑みでにこりとこちらを向いて笑う。

 まあこの状況から私も席について食事するのはかなり居心地が悪いので、4人でやっぱり食べようといわれるよりはありがたい申し出だった。


「そうですね。アリスはもともと殿下と昨日の夕食を約束してたんだから、ね。またあとでね。」


 部屋を出て、2人が見えなくなってから「近いです」と手を丁寧に払いのけた。


 さきほどアリスの肩も咄嗟につかんでいたので、やはりもともと他人との距離が近い人間なのだろう。少しクリス様は不満そうだがおとなしく手を引っ込めた。


「僕の部屋に食事を準備してもらってるから、ゆっくりしていくといい。」


「準備してもらっておいて言いにくいのですが…どうせアリスと別々なら、魔力を早く使えるようになりたいので私の部屋で練習しながら食べていてもいいでしょうか。」


 あのあと少しずつ魔力を感知して理解できるようになった。

 とはいってもこれから魔力を移動させたりため込んだり、使いたい魔法の種類に変換させたり、言語化するとたくさんの工程があるようなので、使えるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだった。


 始めからほぼ使えているアリスは特殊事例ではあるそうだが、魔力の高い一握りは感覚で魔法が使えるようになるそうで、本来ならば私の魔力量だとそろそろ治療魔法の習得はあきらめて、日常生活に有用な魔法を習得するのに切り替える時期だそうだ。


 アリスに比べるのがおかしいのだろうということは薄々感じていても、魔力の扱い方が何かさえわかっていない状態というのは今後のことを想定すると居心地が悪い。


 アリスのような優れた治療ができるわけではないのだろうが、知識として魔力の使い方を知った今、少しでも早く魔法を習得したかった。


「君の部屋か…食事をするには狭くないかい?」


「十分ですよ。もともと平民ですから広すぎる部屋に慣れていないのです。」


「まあ僕も野宿は得意だからどこでも狭いとは思わないけど。王宮内で僕が過ごす部屋としてはよろしくないな。」


 野宿と比べるな。

 

 彼ははっと気が付いた顔をする。


「ああ、もしかして狭い部屋なのは僕の膝の上に座って食べるから広くなくていいとかそういう」「いや一人で食べるつもりですが。」


 誘ったつもりもなければ、そんな雑な誘いをする人間だと思われるのもしゃくなので間髪入れず返事した。

 にやついている顔を見るに、そんなことは当然承知だったのだろう。


「まあ、魔法が使えるようになるまでは指導役がいたほうがいいだろう。治療魔法になると僕の専門外だからもちろん無理だけれど、魔力の使い方という意味でならまだ完全にコツはつかみきっていないだろうからね。ひざの上じゃなくていいから。」


「言うまでもないです。」



 結局、時間がたって魔力の感知ができなくなったところから再スタートが必要だったので、また膝の上に座らせてもらうことになってしまった。


 気のせいか、クリス様は機嫌がよかった。


ご覧いただきありがとうございました。


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