第九十八話 トトニスの過去
突然ロキを異性として意識するような態度を取り始めたトトニスに混乱するレン。その苦悩を解いてやりたいと、ひとりトトニスに元に向かうロキだったが、トトニスの真意は意外なものだった。
そしてトトニスは静かに自らの過去を語り始めた。
「私のご主人は、私を使って欲の限りを満たそうとするいわゆる普通の人間だった。もちろん感情の無いヒューマライズだった私は、疑問に思う事などある訳もなく、ひたすらそれに答えていた。でも、ある時を境に私は、ご主人の命令に不快感を感じるようになり、徐々にそれは強くなっていった。最終的には苦痛になっていったわ。それが感情の芽生え」
「……そんな」
「……それからのご主人との生活は地獄だった。けど、私にも唯一の安らぎの場があった。それは職場。ご主人の生活費を稼ぐ為に働きに出ていた先で出会った一人の男性ヒューマライズの先輩。彼もまた、感情のあるヒューマライズだった。自分の事はいつも後回しで、周りを思いやる姿、……私に芽生えた感情はそんな彼の姿に引かれていった……。私はそれが好きっていう感情だと知った。とても心地が良かった。彼がいたから、地獄のようなご主人との生活をなんとか耐えられた。……けど、ある日から彼は職場に現れなくなった。数日後、彼が破棄されたと知ったわ」
「トトニス……」
「ごめんね。勝手に。それに、こんな方法しか思いつかなくて」
嫉妬や不安……、そんなヒューマライズの存在意義とは対極とも言える自己防衛の感情を抱かせる事で感情の芽生えは加速する。レンがニアである可能性が高いと知っているトトニスは、このジュヴェルビークという守られた土地で早くレンが自分の意志で生きていけるよう恨まれ役をかって出たのであった。
「トトニス、すまん。気が付かず、『見損なった』なんて言って。あげく……、つらい話をさせてしまって……」
「はははっ! 演技だって気付かれてたら意味無かったでしょ? それに、もう20年以上も前の話だし。さっ! それより、仕事仕事!」
「お、おう!」
午後からは、いつもと変わらぬ様子で仕事をする二人だった。やがて日が暮れ、帰宅の時間となった。
「じゃあ、トトニス、また明日! 明日はレンも復帰すると思う!」
「あ、ロキ君」
「ん?」
「私、“嘘”って言ったけど、ロキ君の事は素敵だって思うよ! じゃなきゃレンちゃんを応援したいなんて思わないから」
「お、おう、……なんて言ったら……」
「ははっ! それだけ! じゃあね! 明日もよろしく!」
「トトニス! なら、俺からも言いたい」
「え?」
「俺は、このジュヴェルビークが、ここの人たちが好きだ。……その……、うん! それだけだ!」
「ふふっ! ありがとう。嬉しいよ」
「じゃあ、また明日!」
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