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第九十六話  レンの嘘

「はい! 20杯目! これで終わり!」


「いや~、レンちゃん! すごい! まだ二日目なのにもう乳搾りのプロだ!」


「へっへ~ん!!」


 ドヤ顔のレン。


 牧場勤務二日目、ミルク愛MAXのレンは二日目にして乳搾りをマスターしていた。一方ロキは、少しずつ慣れてきたものの、まだまだ不慣れな様子だった。


「早っ! もう終わり!? 俺まだ5杯目なのに!」


「おや、ロキさん、お手伝いいたしましょうか?」


 得意げな感じでロキをからかうレン。


「むっ! い、いい! これは俺の仕事だから」


「まあ、頑張りたまえ!」


「っそ~、負けてられん!……っっ痛った!!」


 焦った瞬間変に力が入ってしまい、ラムーに蹴りをお見舞いされるロキ。


「あ痛ったぁぁ~……」


「あっはっ! 大丈夫? ロキ」


 いたずらな表情で笑うレン。一方……


「ほらほら、ちょっと顔こっち」


「ん?」


 優しくロキの顔を両手で挟むトトニス。


「ほら! おでこ、血が出てる」


 そして怪我をしたロキの額をハンカチで拭く。


「あ、ああ、ありがとう!」


 テンパるロキ。


「ね、ねぇ、トトニスちゃん! 私は次何すればいい?」


 なんとなく変な気持ちになったレンが割って入るかのようにトトニスに話しかけた。


「うん! じゃあ次はね……――」


 牧場の仕事を教わりながらこなしていく二人。乳搾り以外にも掃除や牧草運び、餌やりなど様々な仕事を体験した。そして一日が終わり、二人は帰途についた。


「う~ん、やっぱり乳搾りは難しいなー。レンは器用だよな」


「それ、昨日も同じような事言ってたよ」


「だ、だってさ、うまくなりたいじゃんか。レンやトトニスがテンポよくやってるのをみて、俺もって思ってちょっと早くやろうとすると変に力が入って……。う~ん……、よし! 明日もう一回一からやってみよう!」


「そうだね。私はコツとかまではうまく説明できないから、トトニスちゃんに聞いたら」


「う、うん、そう……だな」


 声のトーンが低く、淡々と話すレン。なんとなく気まずい空気が不安なロキは理由を探ろうとしてしまう。


「な、なあレン……、その、なんかさ、トトニス今日妙に俺に優しくなかったか?」


「そ、そう? 気のせいじゃない? トトニスちゃんって元々気が利くし優しい子だと思うけど?」


「ま、そ、そうだけどさ。そうだよな」


 相変わらずトーンが低いレン。まずい事を聞いてしまったと気まずくなるロキ。だが、レンはレンで感じた事の無い不安に襲われていた。


「……(どうしよう。私、嘘ついてる。なんで? なんで嘘ついた?)」


「ん? どした?」


「え? あ、ごめん。それよりさ、今日のご飯、何にする?」


「ん~、パン!」


「勝手にどうぞ」


「うーわ! 聞いといてそれかい!」


「だって、晩ご飯にパンって……」


「いいじゃん。パンでも」


「よし! 今日はシチューにしよ!」


「おっ! ならパンつけてよ!」


「あ! それはありかも」


 トトニスの一言に翻弄され、混乱するレン。

 それに対し、違和感を感じ、感情の目覚めの可能性を思いながらも、普段と変わらぬ態度で敢えて触れる事の無いロキだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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