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第九十五話  戸惑い

 ロキがカルマの元に行ったのちもレンの作業は続いていた。


「あー! 出た出たぁーー! 見て、トトニスちゃん!」


「やった! レンちゃん!」


「よーし! この調子でいっぱい搾るね!」


「レンちゃん、スジがいいよ!」


「へへっ! ロキに自慢しよーっと!」


「ねえ、ところで、レンちゃんとロキ君はいつから一緒なの?」


「え? ん~、半年くらい前からかな。なんで?」


「仲いいなぁって思って……」


「ロキは、変り者だから……。ヒューマライズの私なんかと対等でありたいとかなんとか言って」


「優しいって言ってあげなよ」


「ダメダメ、甘やかしちゃ。そーいうトトニスちゃんは、いつからここに?」


「私? う~ん、26年前。結構古株なんだよね~。……レヴェイになる前はご主人がいたんだけど……、まあ、あんまりいい思い出無いかな……」


「……思い出?」


「……重労働、性処理、暴力……、毎日それの繰り返し……」


「でも、女性の生活支援型の扱いとして珍しくないと思う。寧ろそれが普通。ロキが変わってるだけで……」


「そう……なんだけどさ……」


「けど?」


「ある日その当たり前が、怖くなって逃げちゃったんだ。……感情があるとね、我慢ってのをしなくちゃいけないんだ。でも、我慢って限界があって……」


「……」


「あ~、ごめん! 変な話をしちゃったね。まあ、私はレヴェイだったって事だよ。っで、なんだかんだあって、カルマに助けられて今に至る! そんな感じ!」


「カルマは、優しいね! 口数は少ないけど、みんなの事を一番に考えてるのは分かる」


「えー! カルマは優しいって思うのにロキ君は優しくないの?」


「だから~、甘やかしちゃいけないの!」


「だったら私がロキ君狙っちゃおっかな~! 顔も結構タイプだし~!」


「え……? う、うん、自由だと思うよ!」


「いいの?」


「な、なんで私に聞くの? ロキに聞いて。それよりさ、続き続き! さあ、やるよ!」



 ――


 そして午後からはロキも戻り、酪農体験一日目が終わった。



 ――夕食後


「ふぅーー、いやー難しいもんだよなぁ、乳しぼりって。結局俺は初日では上手くなれなかったよ。レンはだいぶ上手くなってたよな! なんかコツとかあったら明日教えてくれよ!」


「そーやってすぐ人を頼ろうとする! 少しは自分で努力したら!」


「っう! なんだよ! そんな言い方しなくてもいいじゃん!」


「あ! ご、ごめん……」


「へ? な……、なんだ? なんか調子狂うな」


「……ごめん、ロキ。私、疲れてるみたいだから今日はもう寝るから、お茶碗洗っておいて」


「お、おう。(珍しいな、……なんかあったのか?…………まさか!!)」



 ――寝室


「(どうしよう、私、なんかおかしい……)」


 感じた事の無い感覚に戸惑うレン。一方、いつもとは違うレンの態度に、感情の兆しを疑うロキであった。


 そしてこれが、この先起こる最悪の事態の始まりだった……。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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