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第九十三話  酪農体験

 一ヶ月の農業体験を終えたロキとレン。今度は酪農を体験する為、牧場に向かっていた。


「ねぇロキ、酪農ってミルク作るんだよね! 私、ミルク大好きだから楽しみ!」


「だよな! レン、市場で初めて試飲した時からやたらと交換してたもんな!」


「だって美味しいんだもん!」


「にしても飲み過ぎだって! おかげで冷蔵庫ん中ミルクまるけだし、……それに、その……なんだ……」


 ロキの目線が胸に行っている事に気づくレン。


「ん?……んーー、確かにちょっと重くなってきたかな。ははは……。気になるの?」


「っう!! すす、そ、そんな事は……!」


「えっろ!」


「ちょちょっ!! 違うって!」


「あはははっ!!」



 ――


 そんな事を話しながら暫く歩き、目的の牧場に到着した。


「トトニスちゃーん!!」


「やあ! 来たね、レンちゃん! それにロキ君も!」


「今日から暫く世話んなる! よろしく、トトニス!」


「こちらこそ! お手伝い、よろしくお願いしますっ!」


 牧場を運営しているのはトトニスという一人の少女だった。二人とは物々交換の市場で何度か顔を合わせているので顔見知りだ。特にレンはミルクのヘビーユーザーである事で、とりわけ仲がいい。


「さあ、じゃあ早速だけど牧場の仲間たちを紹介するね!」


「仲間たち……? 牧場はトトニス一人でやってるんだよね?」


「一人じゃないよ! ここにいるラムーたちと一緒にやってるんだよ!」


「ラムー……ってこのモコモコした子たちの事?」


「そう! だってミルクはこの子たちのお乳なんだよ!」


「え? ミルクって動物から出るものなの!? うっそ~!」


「へー! 驚いた! 俺はてっきり塊か粉を水で溶かして作るものだと思ってた!」


「うん、私も」


「ふふふっ! まあ、そうだよね。生乳を飲む文化なんてジュヴェルビーク以外ではあんまり聞かないもんね! あ、それにね、今私が着てるこの服もこの子たちの毛から作ったんだよ!」


「へー! すごいな! えらいんだな、お前たち」


「ねー、トトニスちゃん! 私早くミルク飲みたい!」


「もー、レンちゃん! せっかちなんだから……」


「お前な……俺たちは働きに来てるんだぞ」


「おっ! ロキ君、意気込みがいいね! よ~し! そしたら、さっそく乳しぼりのお手伝いをお願いしようかな」


「よ、よろしくお願いします!」


 ピィィーィ……――


 おもむろに周りを見渡したトトニスは、一呼吸置き、とても心地の良い音色の口笛を吹いた。すると、牧場に点在していたラムーたちがトトニスの下に集まってきた。


「うわっ!! す、すごい!! トトニス……、何、今の?」


「ふふっ! あの子たち、お利口さんだから、この音聞くと集まるんだ!……で、これからが二人の仕事だよ!」


「私たち何すればいいの?」


「まあ、まずは私がやるから見てて!」


 そう言うとトトニスは、集まったラムーたちを整列させ、順に乳しぼりを始めた。


「まず、こうしてバケツをラムーのお乳の下に置いて、そしたらここからが腕の見せ所! 乳首を親指と人差し指の付け根辺りで摘まんで……、こんな感じで他の指も閉じて、乳首を握る!」


 すると、ラムーの乳首から勢いよくミルクが出た。


「あーーー! 出た出たぁ!! すっごい!!」


「流石だな、トトニス! なんだかプロの技って感じだ」


「えへへ! じゃあ、二人もやってみて!」


「よっし! じゃあ、まず俺から! えっと……こうして……」


 ロキがミルクを搾ろうとした瞬間、ラムーが飛び跳ねた。


「うわっ!! ちょ、ちょっと! 大人しくしてくれ……!」


「はははっ! ダメだよ、ロキ君! 変に力が入り過ぎてる。それじゃあラムーたちも搾らせてくれないよ!」


「うう……、見てるより遥かに難しい……」


「ロキは大雑把だからね! こうゆーのは繊細さが必要なんだよ。じゃ、今度は私が!」


 そう言って、今度はレンが優しくラムーのミルクを搾った。


「あ、あれ……? 全然出てこない……。なんで?」


「うん、レンちゃん、優しく搾るのはいい事だけど、そんなに弱くちゃ全然搾った事にならないよ。程よい強さで、かつラムーが不快に感じない搾り方がちゃんとあるんだ!」


「う、難しい……」


「これは、技術と鍛錬が必要そうだ」


「だね……。トトニスちゃん、もう一回お願いします……」


「うん! じゃあ、もう一回やるから見てて……――」


 その時だった……


 ウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


「わっ!」


 町に突然サイレンが鳴り響いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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