第八十二話 マルクス・ガレット登場
ジュヴェルビークへと歩を進めるロキとレン。ロザンヌを出発し7日目を迎えていた。
元々立ち入りが禁止されている土地である為、舗装された道など無い。更に徘徊する猛獣の数、そして凶暴さも徐々に増してきていた。
しかし幸いな事に、政府監視下にあるはずのレンのもとに政府の人間が現れる事はここまでは無かった。
――ドシーン……
「よっと! ふー、だいぶ大きい猛獣が出るようになってきたなー」
「うん、でもこのくらいならまだ大丈夫そうだね!」
「ああ、闘技場でクインシーが戦ってたのはもっとデカかったからな。このくらいで苦戦してたらこの先には行けないだろうな」
「でも猛獣だけじゃなくて政府の接触も警戒してたけど、私の居場所、掴めてないのかな?」
「んー町長さんも、寧ろそっちを気にしてたもんな。運がいいからって訳じゃなさそうだし……」
「あっ! もしかしたらゴローじいから貰ったこのお守り……。これに関係があるのかも!」
「おおっ、確かに! ゴローじい、いつか役に立つかもって言ってたのはこういう事だったのかもな!」
「そうだよ、きっと! だってロキ、直ぐに危険に飛び込もうとするから、私じゃ止め切れないって想像してたんだよ」
「ははは……、闘賭博に出たなんて言ったら怒るだろうな……」
「当たり前だよ! 私はロキの従者なんだから制止はできても決定権は無いんだからね」
「!!っ (レンっ!)」
会話を遮るかのように突然小声でレンに静止を促すロキ。上空に偵察機が通ったのだ。幸い、木々が生い茂っており、うまく物陰に隠れる形になった。
「……ふー、あぶなかった……」
「ごめん、ロキ……。気づかなかった」
「まあ、大丈夫だ。でも俺たちを探してって訳じゃなさそうだったよな。定期偵察って感じだった」
「じゃあ、やっぱりこのお守りの効果だね!」
「ああ、あの偵察にさえ見つからなければなんとかなりそうだ」
「でも、ここにきて初めて見たし、この先は偵察多いかもしれないから気を付けないとだね!」
「それと、後ろにもだ!」
「え?」
ロキの忠告でレンが振り向くと、気配を消して忍び寄っていた触手が蠢いていた。
「ひぃっ!!」
レンがロキのほうへと駆け寄ると同時に触手の本体が地中から姿を現した。それは、ジュヴェルビークに生息する魔獣と呼ばれる怪物の一種だった。
「グオゥァァァ!!!」
「ぐっ! で、でかいっ!! 一旦逃げるぞ、レン!」
「う、うんっ!」
予想しにくい触手の動きを見極めながら逃げるロキとレン。魔獣もしつこく二人を追いかける。
「くそっ……、どこまで追いかけてくるんだ! しつこい奴め!」
「どうする? 戦う?」
「……仕方ない。なら、左右から時間差だ。レン、お前は右から!」
「おけ!」
ロキがそのまま囮となり、レンが右に素早く飛び移った。魔獣はレンにに気を取られる事なくロキに攻撃を集中する。それを確認したレンが魔獣に攻撃を仕掛ける。そのタイミングでロキが魔獣の攻撃を左にかわした。
しかし!
「えっ!? うぐっ!!」
レンが触手に捕まってしまった。ロキだけを追いかけている様に見せかけ、レンの動きもをしっかり捉えていたのだ。
「レンっ!! くそっ! こいつ、頭も冴えるのか。だったら真向勝負だ!! はぁぁぁ……」
一段階スピードを上げたロキは、一瞬で魔獣の懐に潜り込んだ。
「砕破……、鑼心撃!!」
ロキの放った一撃で魔獣の体が大きく揺れた。その衝撃で触手が緩み、魔獣の動きが止まった。その隙にレンが脱出した。
「っと……、やったの?」
「……いや、まだだ! レン! 鑼心撃、二人で同時にもう一発だ!」
「うん!」
構える二人。……しかし次の瞬間、
魔獣の頭上に一本の閃光が落ち、魔獣はその場に倒れた。
「……な、何が起こったんだ? 雷? いや、雲なんて無いし、それにもっと直線的な……」
混乱するロキ。その時、背後から突然声がした。
「すまない。余計なお世話だったかな」
現れたのは40歳前後といった感じの人の良さそうな男性だった。
「くっ! だ、誰だ!」
しかし、気配も無く忍び寄った背後からの声にロキは身構える。
対するレンは慌てる様子を見せない。
「ロキ、私たち……、目的果たしちゃったかも」
「え?」
「この人、“マルクス・ガレット”だよ」
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