第八十一話 ジュヴェルビークの悪魔
町長に宛てられたマルクスからの手紙を見たロキだったが、そこに書かれていたのは、何か深い事情があると憶測する事くらいしかできないような内容だった。
「……確かにこれだけじゃマルクスさんの居場所どころか、いなくなった理由も分かりませんね……」
「……はい。マルクスには申し訳ないと思いながらも、ワシらは彼の残してくれた蓄えを使わせてもらいながら帰りを待つ事しかできませんでした。しかし、マルクスがいなくなって直ぐ、モーゼスが増税などと言い出し、それも尽きてしまい滞納が続きました。そしてその代償として、政府が推奨する本来の使い方でヒューマライズを使えていないこの町の者から、月に一体ずつヒューマライズを回収すると勧告を受けてしまい今日のような事に……」
「……町長さん、その……、あの女の子が言ってた事が本当ならマルクスさんは今、ジュヴェルビークにいるんですよね? もしよければ俺とレンでマルクスさん探しに行こうと思うんですが」
「ちょっとロキ! ジュヴェルビークはゴローじいが行くなって言ってた場所の一つだよ! いくらなんでもなんの準備も無しに行くのは危険だよ!」
「そ、そうですよ、ロキさん! あそこには、このあたりに生息する猛獣より遥かに危険な魔獣と呼ばれる危険生物も多くおります。それに、噂では“ジュヴェルビークの悪魔”なる存在も潜む地だと聞きます」
「ジュヴェルビークの悪魔? なんですか? それ」
「あくまで噂ですが、主人を持たず自立行動を取るヒューマライズだとか。悪魔と呼ばれる理由のひとつは桁外れの戦闘能力だとも聞いた事もあります」
「っ!!(それって、人格を持ったヒューマライズの事か? だとしたら、もしレンにソアラさんの人格が戻るような事があればレンも悪魔に……? いや、でもゴローじい、ソアラさんの事は話してくれたけど、悪魔の事なんて何も言ってなかったし……)」
「ん? ロキさん? どうされましたかな」
「あの……町長さん、そのヒューマライズたちは本当に“悪魔”なんて呼ばれるような存在なんでしょうか? 俺、それもこの目で確認する為にやっぱり行ってみたいです」
「ロキさん……」
「はぁ……、また言い出したら聞かないロキが始まった……」
「ごめん。でもこれはレンの為でも……っと、何でもない……」
「私の? なんで?」
「だから何でもないって!」
「ん? 変なロキ」
「町長さん、ここからジュヴェルビークまではどのくらいで行けますか?」
「……ロキさん、すいません。助けてくださった恩人たちをみすみす危険な場所に案内する事はワシとしても気が引けます……」
「町長さん! お願いします! 決して無理はしませんから!」
「しかし……」
「町長さん、こうなったロキは諦めが悪いですよ。たぶん、教えてくれるまでここから帰らないと思います」
「……はぁ、分かりました。しかし約束してください。危険と判断したら必ず引き返すと」
「分かってます!」
「……ジュヴェルビークは、ここからずっと北に行ったところにあります。しかし、立ち入りが禁止とされている地域故、向かう手段は徒歩しかないかと。所要時間としては10日ほどかかると思います。そして、気を付けなければならんのは、レンさんの動きが政府に管理されておるというこです。位置情報からジュヴェルビークへ向かう事がバレるのは避けられないでしょう。それを掻い潜る方法も考えなければ、辿り着く事は難しいとお考え下さい」
「ありがとうございます。町長さん、無理言ってすいませんでした。マルクスさんを見つけて必ずここへ戻ってきます」
「旅の無事を祈っております。くれぐれも無理だけはなさらぬ様……」
「はい! それでは行ってきます!」
こうしてロキとレンの二人は未知なる土地、ジュヴェルビークへと向かうのであった。
――その頃 ――中枢都市ソートリオール
「ねえ、リゼルグっ。あんたの管轄のロザンヌって町さ、私の管轄にしたいんだけど」
「ほぉう。あんな面倒な町の世話を変わってもらえるんなら願ったり叶ったりだが……、お嬢、なんか理由でも?」
「別に! ただ単にだけど」
「ふーん……。まあいいが、あんまり余計な事考えてると、お前さん、パパにお咎めを受けるぞ?」
「いーのっ! 私は私のやり方でパパの為にやってるんだからっ!」
「そーかい。まあ好きにするがいいさ。管轄範囲が少なくなれば俺も楽だ」
「なら、決まりだね。あと、モーゼスは邪魔くさいから別の町に持ってて。あそこは私が直接徴税に行く事に決めたから」
「へいへい」
「用件はそれだけ。じゃ」
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