第八十話 マルクスの手紙
謎の少女の助言により町から行方をくらました育成師マルクス・ガレットの居場所を知る事ができたロキとレン。しかしその情報だけで動くのは難しかった。二人は一旦町に留まり情報を得る事にした。
集会後、ハンスの紹介で町長に会う事ができたロキとレンは、改めてマルクスの事について尋ねていた。
「ロキさんにレンさん。先ほどは町の者を助けていただきありがとうございました」
「いえ、俺たちは大した事できてませんよ。あの場を治めたのは突然現れた女の子ですし」
「いや、そんな事は。縁も所縁も無い我らの為に危険を顧みず……。 それに、お二人の強さにも驚きました」
「その、俺ら二人ともゴローじい……っと式神吾郎の下で戦術を学んでたので」
「そうでしたか。なるほど。お強いのも納得です。という事は、マルクスに会いに来られたのは吾郎さんのお使いか何かですか」
「いえ、俺自身が聞きたい事があって、ゴローじいの紹介でここへ来ました。実は俺、記憶がほとんど無くて、自分の事を知る人を探して旅をしているんです」
「記憶が……そうですか。しかし、折角ここまで足を運んでいただいたのに肝心のマルクスがおらず、申し訳ない……」
「いえ、急ぐ旅ではないのでお気になさらず。それより町長さん、集会でも言ってましたが、この町の人たちの暮らしが厳しくなったのはマルクスさんがいなくなって以来って……一体どういう事ですか」
「……旅のお方にこんな事をお話しするのもお恥ずかしい事なんじゃが、この町の住民は政府が定めた重税に対応できるほど稼ぎが無いのです」
「重税って、それは不当なもの何でしょう? そんなの、おかしいですって!」
「ああ……いや、集会でも少しお話しした事ではありますが、重税といっても本来はヒューマライズを働かせる事で得られる収入があれば十分支払える額ではあるのです。しかし、それに対応出来るほど高収入の仕事というのは、男性型ヒューマライズであれば人間では作業が困難な死と隣り合わせの劣悪な環境下での重労働……、女性型ヒューマライズであれば、いわゆる風俗街での過剰な売春といった人間では耐えられない仕事ばかり……。この町の者は皆、その風習に馴染めずにおるのです。皆、ヒューマライズと家族のように過ごしております」
「そんなの当たり前じゃないですか!」
「ありがとうございます。しかし、ロキさん。あなたのように理解してくれる方など、もう世界にはほどんどおりません。ワシらは極々少数派なのです。それでもワシらはヒューマライズたちと共に暮らしたいと思っとります。そんなワシらを支えてくれていたのがマルクスです。吾郎さんのとこにおったあなたたちは知っておるかもしれませんが、育成師という仕事は政府から依頼され、彼らにしかできない特殊任務であり、世界の均衡を保つ為に欠かせぬ役目。それ故政府は、マルクスの要求する報酬を断る事ができないという関係にあります。マルクスの場合は、この町の全町民が課されている税金額をカバーできるほどの額を要求し、それによりワシ等を助けてくれて負ったのです」
「……なるほど。突然行方をくらましてしまった事で、それが無くなってしまったという訳ですか」
「ええ、実はワシの下にこんな手紙を残して行ったのですが……」
“町長、すいません。訳あって暫く町を離れます。必ず戻ります。暫く育成師の収入が無くなりますが、蓄えはあります。これを使ってください。 byマルクス・ガレット”
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