第八話 育成師の実力
突然レンとの戦闘を申し出る吾郎。
レンから“吾郎は育成師”と、そして“育成師は戦闘において規格外の存在”だと聞いているロキだが、正直、吾郎はどこにでもいそうな老人にしか見えない。
それに加え、レンの強さも目の当たりにしている事もあって、返事に困った。
「いやぁ……それでお礼にはならないかと……」
「ロキ君、ワシを心配しておるようじゃのう。顔に出ておるわい」
「あ、いや……」
「じゃが、ワシなら大丈夫じゃ。既に現役は引退しておるが、それなりには戦えるはずじゃ。レンちゃんさえ良ければ、お願いできんかの?」
「……分かりました。ゴローじいがそこまで言うなら……」
恩人の頼みである事に加えレンに吾郎自身の言葉もあり、承諾するロキ。
「レン、大丈夫か?」
「と言われましても、私は“生活支援型”。正当防衛でなければ戦闘は出来かねます」
「レンちゃん、ちょっといいかの?」
そう言うと吾郎は、レンの耳元で何かを呟いた。
すると、レンの目が青く変わった。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで庭に飛び出す吾郎。レンも吾郎を追いかける。
一瞬過ぎてロキには何が起きたか分からなかったが、二人を追って庭に向かった。
そこでロキが見たもの。それは、吾郎があのレンと互角に戦っている姿だった。
「ゴ、ゴローじい……す、凄い……!」
やがて、レンの目の色が戻り戦闘は終了した。
「(この動き、技……やはり、この子は……間違いない)」
戦い終えた吾郎は、レンに何かを感じていた。
そして、ロキが二人に駆け寄る。
「ゴローじい、凄いです! レンと互角に戦えるなんて!」
「……私も不思議な感覚でした。ゴローじいが私に何か呟いた瞬間、突然戦闘意欲が涌いてきました……。それと、私は本気でしたが、彼は恐らく10%も力を出していないと思います。その証拠に、ゴローじいの攻撃は全て寸止めでした。そして私の攻撃は全て寸前で躱されました。つまり、完全に踊らされてました」
「え!? 嘘……!」
「いやいや、レンちゃんも十分強かったよ。ありがとな。こんな老いぼれの趣味に付き合ってくれて」
「いえ」
「ゴローじい、さっきレンに何て言ったんですか?」
「あれは、ちょっとした呪文みたいなもんじゃ。育成師ならみんな最初に習得するもんじゃよ。脳に軽い刺激を与えて、一時的に戦闘意欲を調整するものじゃ」
「そ、そんなことが……」
「それより、君たちは旅の途中のようじゃが、この先行く当てはあるのかね?」
「いえ、特に当てのある旅ではないので」
「そうか、それなら今日は家に泊まっていかんか?」
「え!? そんな有難い事は無いですけど、そこまでお世話になる訳には……」
「遠慮はいらいんよ。もしよければ、ゆっくり話でもしたいしのう」
「……そう言っていただけるなら、お言葉に甘えさせてもらっていいですか」
「勿論じゃ」
こうして、二人は吾郎の家に泊まる事となった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
もし少しでも、面白い! 続きが読みたい! と思っていただけましたら、
ブックマーク、評価をお願できましたら幸いです。
とても励みになります。