第六十八話 旅立ち
「しかしワシの誕生日なんてよく分かったのう」
「俺、ノアさんの部屋使わせてもらってたから、写真見つけて……つい見ちゃったんだよ。そしたらゴローじいの誕生会の写真もあって……」
「そうか……。そんな写真がまだ残っとったか……。いや、しかし今日は本当に楽しかったわい! まさかこの年でまだ誕生日を祝ってもらえるとは思っとらんかった。幸せもんじゃよ、ワシは」
「……喜んでもらえて俺らも嬉しいよ。なあレン」
「うん! 私、こういう気持ち好きだよ!」
「……」
突然黙り込むロキ……。
「ん? どうしたんじゃ、ロキ?」
「……あのさゴローじい、突然になっちゃうけどさ……、俺ら明日ここを出ようと思うんだ……。さっきレンと話し合って……」
「……そうか。いよいよ来てしまったか、この日が……」
「ごめん、ゴローじい! 正直、もっと早く決断して、もっと早く伝えるべきだったと思ってる! ううん、ホントはあの日……、レンとの約束を達成したあの日を旅立つ日と決めるべきだったのかもしれない! でもいつの間にか俺、ゴローじいと居れなくなるのが……寂しいって思い始めて……それでいつまで経っても……ホント情けないよ……」
「……ロキ」
「……ロキ、男が別れが寂しいくらいで泣いてどうする! 旅立つと決めたんじゃったらしっかりせんか! これからはお前がレンを守ってやるんじゃろ? その為に強くなりたいって言ってたのはどこの誰じゃ?」
「う゛ん!! ごべん!!」
「ゴローじい、私も三人で居たこの感じがすごく好きだったよ。この場所が私をなんだかとても穏やかな気持ちにしてくれてた気がする。ゴローじいは、なんていうか……お父さんみたいだった」
「……お前達と過ごしたこの時間……まるで若い頃を思い出すような毎日じゃった。……忘れはせん」
――……チュンチュン
その日の空は晴れ渡り、絶好の旅立ち日よりとなった。
「ゴローじい、本当に長い間お世話になりました!!」
「なんじゃ。そうかしこまらんでもよい」
「へへっ! 俺、この目で世界を見てくるよ! それで記憶が戻ったらまた必ず会いに来る! レンと一緒に!」
「……ロキ、これを持って行け!」
「これは?」
「“おまもり”というものじゃ。大昔、東洋では何かの無事を祈る時、それを心の支えとして持ちあるく風習があった。ワシからの餞別じゃ。レンのと二つある」
「っ! すごい力を感じる!」
「っ! ホントッ! 手にした途端に! それにこの感じ、ゴローじいの感じに似てる?」
「そこにはお前達にしか感じ取れない力が込められた“護符”というものが入っておる。 いつか役に立つ事もあろう」
「ゴローじい、ひょっとして昨日の用事って……!?」
「まあ、翌日に渡す事になるとは思っとらんかったがな」
そう言ってロキの顔を見た途端、ふと別れを感じてしまった吾郎はスッと振り返った。
「……ワシがしてやれるのはここまでじゃ。旅の無事を祈っとる!」
その声は少し震えていた。それを聞いたロキも高ぶる感情を堪える。
「ありがとう、ゴローじい!……行こうレン!」
「うん……。行ってくるね……、お父さん!」
「っ!! あ゛あ゛! 達者でな!!」
こうして旅は再開された。
二人はロザンヌという町を目指す。そこに、二人目の育成師がいると聞かされていた。
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