第六十三話 強さの秘密
レンとの実力差を改めて知ったロキは、吾郎の座学を受けていた。
「よいか。……人の脳は、人が本来持っている筋力を10%程度しか出せないように抑制しておる。それにより人は大きな力を出す事ができないんじゃ。だが、それは寧ろ必要な事なんじゃ。もし脳が筋力を抑制してくれなければ、100%の筋力が発揮される。その力は身をも滅ぼす程じゃ。筋肉は勿論の事……、骨や内臓にまでそのダメージは及び、最悪の場合は死に至る。じゃが、100%とはいかずとも10%という抑制を緩める事はできると思わんか? 実は、ロキ君もよく知る方法で抑制を緩める事はできる。何じゃと思う?」
「筋トレ……って事ですか?」
「うむ。筋肉を鍛えれば太くなる。太くなればより大きな力に耐えられるようになり、それに比例して脳の抑制も緩むのじゃ。だが筋肉の強化だけでは限界があり、脳の抑制は精々30%くらいまでしか緩まん。100%の力に耐える為には、骨や間接や内臓の形、骨と筋肉との結び付きといった構造がそれに相応しくなっていなければならん。しかし残念ながら、それらは鍛える事では解決できん。ところが、ワシら育成師やヒューマライズはそれらの問題点をある程度補える要素を先天的に持っておる。それにより最大で50%までの筋力に耐える事ができるのじゃ」
「その要素とは何ですか?」
「“血”じゃ」
「“血”……」
「そうじゃ。……キミもじゃよ、ロキ君」
「え? 俺も……?」
「キミの回復能力……、あれは紛れもなく血の力によるものじゃ。だが今のキミはそれをうまく使う方法を知らない……いや、もしかしたら忘れてしまっているだけかもしれない。いずれにせよこれからじゃな」
「は、はい!」
「うむ。そして違いは発揮できる筋力の割合だけではない。もう一つ大きな違いがある。この違いこそ今のロキ君とレンちゃんの最大の差とも言える。それが、“絶対値”じゃ」
「絶対値……?」
「100%の筋力を発揮した時の力と言えば分かり易いかのう。この絶対値というものは本来数値で測るものではないのじゃが、便宜上100としておこう。測るものではないと言った理由は……、例えば産まれて間もない赤ん坊の絶対値が100だとして、鍛え上げた肉体を持つ成人男性の絶対値はどれ程だと思う?」
「……100って事ですか?」
「そういう事じゃ。絶対……、つまり不変の値じゃ。そこに差は無い。人の筋力は同じ枠の中でそれを何割出せるかでしか差が生まれん。じゃが、もし本来不変のはずのこの値を高める事ができたらどうじゃ?……100が1000になったとしたら?」
「えと……、元々は100%出し切って100……、1000だと……10%の力で100!? すごい!! 元は体が耐え切れないような力が耐えられる範囲で簡単に出せてる!!」
「そういう事じゃ。これでレンちゃんが強い理由が分かったじゃろ?」
「はい!! よーし! ゴローじい、俺頑張って絶対値を高めてみせます!」
「うむ! 意気込みや良し! じゃが、絶対値は頑張って身に付くものでもないんじゃ。寧ろ頑張っていてはいつまで経っても身につかん。過去には、絶対値を高める為に生涯を捧げ、遂にはそれに及ぶ事なく死んでいった者も少なくない」
「そ、そんな……。じゃあ一体どうやって……?」
「“血”の力じゃよ」
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