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第六十一話  それでも朝はやってくる

 夕日が窓から差し込む。吾郎は自室で目を覚ました。


「(私は……生きてる? ソアラは?)」


 周りを見渡す吾郎。そして、自分の部屋にいる事に気がついた。傍らにはノアがソラを抱きながら眠っている。吾郎は、ノアに声を掛けた。


「ノア」


「……ん……、あっ、お父さん!! よかったぁ……」


「……ノアがここまで運んでくれたんだな。すまんかったな……」


 ノアに声を掛けながらも吾郎の目線は無意識にソラを見ていた。それに気が付いたノアが吾郎の目線を気にしてソラを見た。


 何を言えばいいか……。言葉に詰まる吾郎。


「……」


 一瞬の沈黙……。それを嫌がるかのようにノアが口を開く。


「へへっ! また二人に戻っちゃったね! 何年ぶりかな?」


 明るく振る舞うノア。明らかな強がりが吾郎の胸に突き刺さる。


「ノア……」


「あ、そうだ! 写真……、お姉ちゃんの顔、若い頃のお母さんにそっくりだったよ!……ねぇ、どうして隠してたの?」


「いや、隠してた訳じゃ……。ただ写真を見せなかったのは、11年前ソラが……、まだ小さかったノアが自分の顔を思い出して寂しがらないようにと……」


「え?……へ、へぇ~、あの厳しいお母さんがねぇ~。そ、そうだったんぁ……ふ、ふーん……。あっ! それよりさ、今日の晩ご飯どうする? 晩ご飯の当番、お姉ちゃんなんだよね~。なんなら、私が代わろうか?」


「…………」


「ねぇ、聞いてる?」


「あ、ああ……お父さんも手伝うよ」


「そ、そう……じゃあ……それで……」


「なあ、ノア!」


「あ~あ、結局お姉ちゃんに勝ち逃げされちゃったんだよねー。私だってもっと修行したら絶対勝てたのに。ねぇ、お父さんもそう思わない?」


 吾郎が切り出そうとする度に、何も言わせんとばかりに被せてくるノア。吾郎も、言葉に詰まる。


「……」


「…………」


「ぐっ! 私は嘘つきだ!! みんなを……全員守るなんて言って……口だけで、ソラを……ソアラを!!」


「やめてよ!!……やめてよ……そんなこと言わないでよ……そんなこと……」


「ぐっ!……ぅぅ……ずまん……ずばん~~~!!」


「お父さんのせいじゃない!! お父さんのせいじゃないからもう謝らないでよ!!」


「うぅぅ……うぅぅ……」


「……私だってお姉ちゃんの最後のお願いすら聞いてあげれなかった……。何も……何もでぎながっだぁぁぁーーー!!!!」


 二人の死を感じぬよう気持ちを誤摩化し、涙を堪えていたノアの感情が一気に溢れ出した。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーー!!!! お姉ぢゃーーん!! お母ざーーん!! 会いだい!!!! 会いだいよーーー!!!!」


 泣き叫ぶノアが吾郎に抱きつく。吾郎はノアを抱きしめ、涙が枯れ果てるまで泣き続けた。





 ……――――


 悲しみとは、人生において最も過酷な試練である。


 あの日の事は決して忘れる事はできない。……だが、死者が戻る事は無い。受け入れなければ時間は止まったまま……。歩き出し時間を進めれば、それがやがて悲しみを解き、光が射す。


「お母さん、お姉ちゃん、行ってきます」


 写真の前で手を合わせるノア。今日も変わらぬ朝を迎えていた。


「じゃ、お父さん、学校行ってくる!」


「おお、いってらっしゃい!」


「おっはよー、リオ!!」


「おはよー、ノア! ねぇねぇ、志望校ってもう決めたぁ? 私さぁ……――」


 ――


「さて、私もそろそろ行こうかな。……ソラ、ソアラ、行ってくる」


 そして、いつものように変わらぬ時間が流れる。


 あれから一年が過ぎた。あの日、結果的にソアラが破棄となった事で、吾郎とノアに罪が問われる事は無かった。時間は掛かったが、二人は少しずつ事実を受け入れ、日常を送れるようになていた。



 翌日、この日はソラとソアラの命日だった。吾郎は、ノアと墓参りに来ていた。

 花束を置き、手を合わせ、暫し二人に黙祷を捧げた。


「……ねぇ、お父さん」


「……ん?」


「私さ、中学卒業したら研究員育成学校に行こうと思う」


「ノア、お前……」


「ふふっ、大丈夫だよ! 復讐とかそういうのじゃないって。研究したい事があるの。だけど研究内容を完結前に他言する事はタブーなんだってさ。だから今はまだ言えないんだけど、必ずそれを成し遂げる。その為に私は政府下に入る」


「……私にお前の自由を奪う権利は無い。お前の人生なのだからな。だけど、一つだけ約束してほしい」


「え?」


「……命は懸けるな」


「お父さん……。うん、ありがとう。ごめんね、道場継げなくて」


「いいさ。道場はお父さんの代でお終いだ。でも舐めてもらっちゃー困るな。お父さんだってあと20年、いや30年は現役続けて見せるさ」


「えー、30年ってお父さんそんな頃もうおじいちゃんじゃん!」


「鍛えてりゃ年なんて関係ないんだっ!」


「ハハッ! ムキになって!」


「……ノア、がんばれよ」


「……うん、もち!」



 第一幕 終

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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