第五十三話 お母さん
「……改めて話す。明日、奴らがここへ来る。正直、穏やかに事が終えられるのは考えにくい。だが、何があろうと自分の命だけは大切にしてほしい。特にソアラ、もう自分ひとりで背負うような真似だけはするな。いいな!」
「うん、ありがとう、お父さん」
「では、話は以上だ」
――夜
「……ねぇ、お母さん、お姉ちゃん寝たかなぁ」
「ん……寝たんじゃないかしら? あなたも早く寝なさい」
「……お母さーん」
「何? 眠れない?」
「……うん、ごめん……」
「もう、小さい子じゃないんだからぁ……。仕方ない子だね」
「へへへー、ねぇあのさ、ずっと聞けずにいたんだけど、お母さんって猫になる前はどんな顔だったのかなって思って」
「えっ……?」
答えに詰まるソラ。今まで何度も聞くチャンスがあったにも関わらず、政府との決着前夜のこのタイミングでの質問に深い意味を感じてしまったからだ。
「……ん? お母さん?」
「あ、ごめん。突然だったから……。どうしてまた?」
「え?……な、なんとなくだよ。やっぱ聞いちゃダメだった? ほら、写真とか無いからさ、聞いちゃいけない事なのかもってずっと思ってて……さ」
誤魔化すようなノアの反応に、野暮な切り替えしをしてしまったと思い直すソラ。
「……待ってなさい」
「え? うん!」
そしてソラは吾郎の部屋に向かった。
「ゴローちゃん。入るわよ」
「どうした? ソラ」
「写真……ある?」
「っ! 写真ってお前のか?」
頷くソラ。
「いいのか?」
「あの子ももうそんな子供じゃないわ……」
「……そうか。そう……だな」
思い直し、静かに頷く吾郎。ソラの思いなのかノアの頼みなのか、どちらの答えが返ってきたとしても、やるせない気持ちになる事が分かっていた。吾郎はあえて理由を聞く事なくソラに写真を渡した。
――
「ノア、持ってきたわよ」
「わ! 紙の写真なんて貴重だね」
「ゴローちゃん、大昔の“カメラ”とか好きだからね」
「…………」
写真を見て黙り込むノアに言葉をかけるソラ。
「……どうした? 私の顔見て驚いて言葉も出ないかしら?」
「……ううん、想像通りだよ」
「え?」
「私、初めてお姉ちゃんに会った時、なんか初めて会った気がしなかったんだよね。こういう事だったんだ。今ようやく分かったよ」
笑顔で話すノア。しかしその頬には涙が流れていた。
「……それに、この赤ちゃん私だよね? 初めて見た。なんか恥ずかしいな。へへっ、お父さんもお母さんも嬉しそう」
やがて笑顔も崩れ涙が止まらなくなるノア。そして、ソラに抱きついた。
「……ノア」
「お母さん、私本当はすごく怖い。でも、逃げないよ。お姉ちゃんを絶対守ってみせる! 絶対だよ! 絶対絶対……」
恐怖に打ち勝とうと必死に自分に言い聞かせるノア。涙を流し眠れなくなってしまったノアをソラが慰める。
「ね~んね~ん、ころ~り~よ~……おころ~り~よ~……」
「え? お母さん?」
「ふふっ……、ごめん。写真見たら、あなたが赤ちゃんだった頃を思い出しちゃったわ」
「おがあざん……」
「このまま歌ってていいかしら?」
「……うん。歌って」
母の温もりに触れ心地よい感覚に包まれたノア。落ち着きを取り戻し、やがて眠ってしまった。
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