第五十二話 修行の成果
早朝、吾郎は道場で一人瞑想しているノアに気配を消して近寄った。
そして気づいてしまった。ノアが寝ている事に……。
ノアに渇を入れる為、軽く頭を叩こうとする吾郎。
……だが。
スカッ
「っな!?」
なんと、ノアは寝たままそれをかわした。
偶然と思い、同じ事を数回繰り返す吾郎だが、全てかわされた。
そして……。
「……ん? ふぁぁ~……」
ゴツンッ!
「っ! イタっ……、いった~い! ちょっと、何? むっ! お父さん? 私、なんか悪い事でもした?」
「あ! すまん! 避けると思って」
「避けれる訳ないじゃん、寝起き……め、瞑想してんだからさ」
「いや、でもさっきお前……、お父さんの拳骨を寝ながら何発か避けたぞ?」
「……え? 嘘? それってまさか……」
「ああ、“流布”だ」
「……じゃあさ、ちょっと試してみようよ」
「よし、そしたら行くぞ」
吾郎が構えるとノアは目を閉じ、集中しはじめた。そして吾郎は、少し速めの攻撃を仕掛けた。
「っ……!!」
攻撃が当たる寸前で吾郎は手を止めた。ノアの顔が強張ったからだ。
「ハァハァ……、ダメ、やっぱ無理……」
残念そうに肩を落とすノア。しかし、吾郎がノアに命じたこの修行の真意は流布の体得ではなかった。
元々、流布という技は容易く体得できる技ではないのだ。瞑想の極みが流布に繋がるのは事実ではあるが、それはノアに瞑想を真剣に取り組ませる口実でもあった。
それにもかかわらず、5日間で流布の兆しが見えるまでになった事に吾郎は驚いていた。
「ノア、5日間もよく頑張ったな! 寝てるのを見つけた時はちょっと不安が過ったけどな」
「でも、できないんじゃ意味ない……ってか寝てないし!」
「すまんすまん、瞑想だったな。じゃあ、その瞑想が意味あったか無かったかちょっと戦ってみれば分かるよ。どうだ、今からお父さんと組み手をしてみないか? しばらく瞑想ばっかりで体も鈍ってるんじゃないか?」
「うん、いいよ! 私も丁度、寝起きの運動したいって思ってたとこだし!」
「寝起きのね。準備はいいかい?」
「うっ……、もう! お父さんのバカー!!」
からかわれ、ふてくされたノアが先制攻撃を仕掛けた。吾郎も瞬時に応戦し、ノアの攻撃を受けようとする。
が、その瞬間ノアの姿が正面から消えていた。吾郎の背後に回っていたのだ。いつもより動きがいい。どうやら瞑想の成果はあったようだ。
それを感じた吾郎は、普段ノアの相手をする時より少し速度を上げ、攻撃を繰り返した。
ノアは、その事に気がついていない様子だったが、いつものように応戦する。それに加え、カウンター攻撃や緩急のある動きでの翻弄など多彩なテクニックも織り交ぜる余裕すら見られる。実力の向上は明らかだった。
翌日は、政府がやってくると宣告した日だ。
しかし、この日もいつもと変わらぬ日常を送った。子供達は学校へ行き、ソラは偵察、吾郎は仕事……。
やがて日が暮れ夕食後、吾郎は改めて皆に思いを語った。
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