第五十一話 厳しい稽古
「分かった。……では、お前は瞑想をしなさい」
「え? 瞑想って……そんな事やったって稽古になんないよ!」
「言ったな? なら今からお父さんに、ノアの本気のスピードで体力が続くまで攻撃をしてきなさい。全部目を瞑って避けて見せるから。もし一発でも当てられたら、瞑想は免除でいい」
「むっ! いくらお父さんが強いからってそれは流石に無理だと思うけどっ! はっきり言って瞑想なんてしてる時間はないの!」
苛立ちながら構えるノア。
「……じゃあ、遠慮なく行くからね!」
そう言うと、ノアの凄まじい攻撃の嵐が始まった。しかし吾郎は、目を瞑ったままで次々と避けた。
「(くっ! 嘘でしょ? なんで当たんないの?)」
ついには、ノアの体力が尽きてしまった。
「っ……はあはあ……はあ……なんで……?」
「ノア、“目を瞑って”って言われてどう思った?」
「バカにし過ぎって思った」
「普通に考えたらそうだろう。何故なら人間は五感の内、視覚を最も重視しているからな。視覚情報に頼れば最も的確な行動が取れるのは人間である以上、当たり前の感覚だ。でも、視覚情報を基にして行動に移すまでに少し時間が掛かる。だから、あの攻撃の嵐を目を開けて全て避けるほうがよっぽど難しい」
「……だからって、目を瞑ってたら最初の一発すら避けれないでしょ、普通」
「それを避けるのが、お前の知りたがってる“流布”だ」
ゴクっ……
吾郎の誘導にまんまと乗せられたじろいだ表情で唾を飲み込むノア。
「うっ、なんだか罠にはまった気分……」
「まっ、そういう事だ。まずは、瞑想をしなさい。と言っても“流布”は一週間で体得できるような技ではない。風の流れを肌で捉え、体をその流れに任せる。五感で捉えた情報を脳に伝達し、脳から命令を送っていては、いつまで経っても体得はできない。瞑想も出来ないようじゃ辿り着けない境地だ。どうだ? どんな稽古よりも厳しそうだろ?」
「……分かったよ。……うん、でも今までそういう成果が見えにくくて忍耐が必要そうな稽古を避けてきた結果が今の自分の弱さかもしれないな。ねえお父さん、瞑想って具体的にはどのくらい?」
「そうだな……、初めは、1時間くらいから始めて、慣れてきたら10時間くらいかな」
「うっ……、りょ、了解……」
「じゃあ、早速始めよう。寝るなよ」
「わ、分かってるって……。(はぁ、寝そう……)」
この日からノアの瞑想中心の生活が始まった。学校と食事などの日常生活以外は睡眠時間さえ削って(?)瞑想をしている。
その成果は5日後に見ると約束した。
そしてその日がやってきた。
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