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第四十八話  決意

 その夜……、吾郎はリビングで一人、ソラに言われた事を考えていた。

 ノアの将来を考えると、このまま巻き込みたくはないと言うソラの親心は吾郎も同感であった。しかしそれは、ノアと親子の縁を切るという事を意味していた。

 交渉が決裂した今、強行の考えがある政府に対して抗えば、争いになる事は避けられない。仮に退けられたとしても、抗った時点で重罪。そうなれば、血縁であるノアが無罪で済む可能性は低い。

 しかし吾郎には、それを決断する事は簡単にはできなかった。

 そんな決断できない弱い心もまた親心。思いの矛盾を解決できないまま吾郎は悩み続けていた。


 するとそこへノアがやってきた。


 ――ガチャッ


「あれ? お父さん、こんなとこで電気も点けずにどうしたの?」


「あっ、いや、寝付けなくてな。それよりノア、もう体は大丈夫なのか?」


「うん、もう平気。お昼から何も食べてないからお腹空いちゃって……」


「それなら、ノアの分のご飯、冷蔵庫の中にあるぞ」


「ほんと!? ラッキー!……おっ、あったあった!」


 嬉しそうに冷蔵庫からご飯を取り出すノア。


 一瞬の沈黙。


 そして……


「なあ、ノア……」

「……ねえ、お父さん」


 同時に声を掛け合う二人。


「え? 何? お父さんからいいよ。」


「……いや、ノア、お前から」


「うん……私さ、もう泣かない事にした」


「え?」


「だってさ、何もできなくて泣いたって何も始まらないって。……分かってたけど、お姉ちゃんの事思うとさ……。でもそれって私の弱さだよね。私、小さい頃から泣き虫で、いつもお姉ちゃんに助けてもらってばっかだった。でも今はお姉ちゃんを助けなきゃいけない時だし……、泣いてたらお姉ちゃんがまた心配しちゃうしさ。だからもう泣かないって決めた! 心配されてるようじゃ、助けられないもん!」


 ノアの思いに愕然とする吾郎。吾郎はノアを子供だとしか見ていなかったのだ。守るべき対象としか……。だが、ノアにはノアなりの思いがあり、覚悟さえしていたのだ。

 まだ13歳の少女が受け入れ難い現実から目を背けず、自分にできる事を考え決意していたのだ。

 ノアの言葉を聞いて、吾郎の悩みは晴れた。いや寧ろ、悩んでいた事が恥ずかしいとさえ思った。

 吾郎は心の中で少し笑った。


「で、お父さんは? 何だったの?」


「ん? いや、お姉ちゃんな、明日組み手の相手してくれるそうだ!」


「ほんと!? よっし! じゃあ、めざせ初勝利だ!」


「おう! 頑張れ」


「……ねぇお父さん、今日来た人たちと戦う事になりそうなんでしょ?」


「……ああ、彼らの出方次第では……。だが、十中八九そうなると思う」


「そしたらさ、私、それまでに今の十倍強くなるよ。ううん、それでも足りないくらい。じゃなきゃ勝てないでしょ? あいつ等に。私だって分かる。今日来たやつ等の強さくらい。特にあの耳の人……、相当強いと思う」


「ノア、気持ちは分かるが、いくらなんでも一週間で今の十倍は無茶だぞ」


「‟やってみなくちゃ分からない、やる前から諦めるな”ってお父さんいつも言うじゃん!」


「う……! それは。……うん、そうか。でも無理はするな」


「うん、分かってる」


「よし! そしたらお父さんは寝ようかな」


「ん、おやすみ」


「おやすみ。ノア、ちゃんと歯磨いてから寝ろよ」


「んもう! そんな言われなくても分かってる! もう子供じゃないって」


「どうだかな~」


「ぶー」


「はははっ」


 そして吾郎が寝室に向かうと扉の前にソラが座っていた。


「……ソラ、起きてたのか」


「ゴローちゃんこそ……、ずっと考えてたのね……」


「ああ、……でも一人でどれだけ考えようとも答えは出せなかったよ」


「……話、上で聞かせてもらってたわ。ノア、あんな覚悟でいたんだね」


「ああ、驚いたよ」


「ふぅ……、でも似た者同士だわ、あなた達」


「そ、そうか?」


「そうよ。この状況を‟自分の力でなんとかする”って。同じ事言って」


「ははっ! 言われてみればそうかもな。似るもんだな~、親子って」


「まったく!……そしたらもう答えは決まってるのね」


「……ああ。ノアの思うようにさせてあげたい。そうでなければ、あの子はきっと後悔したまま生きる事になってしまう。……ソラ、すまん」


「謝る事ないわ。ノアの気持ちを考えれば、きっとそれが正しい答えだわ。それに元はと言えば……」


 吾郎は、その先を言おうとしたソラを止めた。


「……なあ、ソラ。その……、今日は私の部屋で寝ないか?」


「え? ふふっ、何それ。……そうね、まあいいわ」


 ノアの決意。それを聞いた吾郎とソラもまた、二人の娘が生きる未来を必ず切り開いて見せると心に誓う。

 娘の成長を嬉しく思った二人はこの夜、昔の写真を眺めながら子供たちの成長の実感を語り合い、安らぎの一時を過ごした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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