第四十五話 論破
「……残念ですが、あなたの意見は希望的観測に過ぎません」
「なっ!」
「危険な可能性があるのであれば確実に処理する。それが私どもの考え方です。それに、あなたの考えは世界という広い範囲で実現させるのは不可能に等しい。仮に、人が他を思いやる気持ちを持ったとしましょう。強者が弱者に手を差し伸べる……、そのような風習が広がるのかもしれません。しかし、それは同時に強弱の差が生まれるという事です。やがて、不平等などといった概念も生まれるでしょう」
「そんな事は……!」
否定しようとする吾郎を尻目に、尚も続ける斑鳩。
「‟不平等”それは、‟不満”の根源。その不満が膨らみ、やがて新たな‟思想”が生まれる。そして、同じ思想を持った者同士が集まり、反乱を起こす。そしてそれを弾圧しようとする者が動く。……そう、戦争が始まる。とてもあなたの思うような世界になるとは思えません」
「あなた方が言う事は極論でしかない!」
話が通じる相手と俄かに期待していた吾郎。希望や期待、そういった事を一切配慮しない斑鳩の言葉に落胆し、声を荒げた。
しかし尚も斑鳩は冷静に語る。
「式神さん、旧暦時代のお話をご存知ですか? かつて地球という星では戦争が絶えなかった。その原因の多くは思想のぶつかり合いによるもの……。世界に複数の思想があっては、平和や平等などといった概念を成り立たせる事は非常に難しい事です。ましてや、その思想同士が相反するものであれば、その実現は不可能とも言えます。この星で暮らし始めた人類にも、かつてはその流れは受け継がれていました。しかし、現世界政府代表‟ジャネクサス・スタードレアー様”により、その悪しき流れは終わりました。あなたも育成師としてジャネクサス様の統治に賛同されているはずでは?」
「そ、それは……」
「‟すべからく、欲は叶えらるべきである。さすれば、争いも無くなる。”想像するだけなら容易い事……。しかし、それを実現させる事など夢のまた夢……。ジャネクサス様は、ヒューマライズという技術をそれまでとは桁違いのレベルまで進化させる事で、それを現実にした。当然多くの者がそれを受け入れ、ジャネクサス様を称えました。やがて、人々は等しく満たされる事で争いを忘れ、世界から戦争は無くなりました。それでも与えられる事に反発し、奪うという行為自体で自身の欲を満たす輩も少なからず現れる事は想定してました。所謂、賊のような者たちです。その為に、戦闘特化型を抑止力としました。しかし、灯台下暗しとはよく言ったもの。ドラグレスクからあのような謀反を受けるとは……」
「……っ」
「式神さん、仮にあなたが娘の破棄を拒み、世界の秩序に抗うのであれば、あなたを罪人の協力者とみなす事になります。しかし、今まで世界の均衡を保つ役目を担う戦闘特化型の育成に携わっていただき、この先もご尽力願いたいあなたを討つのはジャネクサス様の本意ではありません。式神さん、平和的な解決をしましょう。どうか、冷静なご決断を」
「くっ! (どうすればいい? ここで反論したところで話は平行線。一体どうすれば……)」
と、
「ねえ、お耳の人! さっきから聞いてれば……、あんたさ、お姉ちゃんの事何も知らないくせに失礼だよ!!」
策を失い唇を噛む吾郎の様子を見て、ノアが斑鳩に怒りをぶつけた。
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