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第四十一話  11年ぶりの再会

「それからの事はゴローちゃんも知っての通り。あなたの提案で町に残る事にした私に、おばあちゃんの代わりに“人を思いやる事”を教えてくれたのはゴローちゃんだった」


「……」


「そしていつしか一緒に暮らし始め、ノアが産まれた。私は、幸せだった。このままずっとこの町で暮らす、それも悪くない。そう思えるほどに」


「ソラ……」


「でも反面、罪悪感を感じずにはいられなかった。これまで自分がしてきた“人の欲を叶える事”の追及が“人の心を蝕む毒”でしかない事に気が付いたから。それを、多くの研究者たちにも気づいてもらいたかった。だから私は、研究所に戻る道を選択した。そしてあの時、理由も告げず、ただ研究員に戻りたいとだけ言った私をあなたは許してくれた」


「……ああ」


「……でもその道のりは思った以上に困難を極めた。私の意見に耳を傾ける者など一人もいなかった。それもそうよ。かつての私だってきっと同じ対応をしたと思うもの。部下たちなら私の意見を聞いてくれるはずって変に自信を持っていた自分が愚かだった。でも、偶然起きたある出来事をきっかけに状況が一転した」


「まさか……」


「ええ、そう。それが“ヒューマライズの人格化現象”だった。最初こそ戸惑っていた研究員達も、感情が芽生えた彼を徐々に思いやれる様に変わっていった……。それは(ひとえ)に、彼に芽生えた人格がまるであなたのお母さんの様に“人が失ってしまった優しさ”に溢れていたからに他ならない。そして、遂に私に賛同する仲間ができた。ヒューマライズである彼に料理を教わっている仲間の一人を最初に見た時が一番興奮した。今でも鮮明に覚えてる。嬉しかった。私だけじゃなかったんだ!って。」


「……」


「でも、そんな研究を政府が許すはずもない……。リスクの高さは分かっていた。だけど、その末には、多くの人が心を取り戻せるだけでなく、人とヒューマライズが同じ目線で生きる事ができる。……そう、本当の意味での共存ができる。時間は掛かるかもしれないけど、そんな可能性さえ秘めていた。……そして、私たちは答えを決めた」


「…………」


「そのあとは、ソアラが話してくれた通りよ。ドラグレスク研究所は闇に葬られた」


 ソラは、吾郎も知らぬ真実、そしてヒューマライズの人格化に込められた思いを打ち明けた。


「……ソラ、お前からメサージュが届いた時、私は、お前を研究所に行かせてしまった事を後悔した。……私は、大切な人、仲の良かった友人、世話になった人……少なくても同じ時間を共有した人を憂う事くらいしかできない。私には、世界の出会った事もない人を憂い、そこに命を懸けて立ち向かう事なんてとてもできない」


「……」


「だけどソラ……お前は違った。それをする勇気があった。実行力もあった。確かに、犠牲は出てしまったかもしれないが、それは望んで起きた事では無いし、お前はその犠牲に責任さえ感じている」


「……」


「私は、ただただ妻の死を悲しむ事しかできなかった。でもお前はもっと広い世界で命を懸けていた。それを思うと自分はなんてちっぽけな人間なんだと恥ずかしくなる」


「そんな事……」


「私はお前を誇りに思う。それでもまだ、犠牲者への罪の意識があるのであれば、その責任は私も背負う。そのくらいの覚悟はあるし、私もお前の描いた未来を見てみたい。そして、子供達にはそんな世界で生きていってもらいたい」


「ゴローちゃん……。ごめん。私、あなたの妻として、ノアの母親として何もできなかったよね」


「ソラ、お前は自分の信念に従ってやるべき事をやっただけだ! あとは、私に任せればいい! まずは交渉をしてみるよ。それでダメならまた考えればいい。例え政府が強行手段に出たとしても私だって育成師。争いは望むところではないが、抗う力くらいはあるつもりだ」


 そして吾郎は、ソラをそっと抱え上げた。


「ソラ、おかえり。また会えて嬉しいよ」


「ゴローちゃん……。ただいま。遅くなってごめんね」


 こうして11年の長い歳月を経て、夫婦は再開した。


 そして夜は更けていった……。

 

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