第三十九話 ソラとおばあさん
程なくして私は一人のおばあさんと出会った。そのおばあさんは、どこの誰かも分らない私に、とても親切にしてくれた。
だけど当時の私は、それを煙たく思っていた。話し掛けられても答える事さえしなかった。無駄な会話は避け、時間の全てを研究に費やしたかったから。
そんな私の様子を見ておばあさんは、私を不憫に思ったんでしょう。なんとか町に馴染めるようにと毎日私の家に来るようになった。でもそれは私にとって迷惑以外の何ものでもなかった。だから私は居留守を使い続けたわ。
でもおばあさんはそれでも諦める事はなかった。時には玄関先に手料理を置いていく事もあったけど、私はそれも口にする事なく捨てていた。
そんな事が一ヶ月ほど続き、ついに私の我慢が限界に達した。
そしてその日もいつものようにやってきたおばあさんに、初めて応対した。
珍しく玄関を開けた私の顔を見て、おばあさんはにっこりと笑っていた。だけど私はおばあさんに罵声を浴びせた。
「迷惑なの! 二度と来ないで!」
おばあさんは悲しそうな顔で
「……ごめんね」
そう一言だけ言って帰っていった。
足元を見ると、いつもの手料理が置かれていた。
私は部屋に戻り、それを捨てようとした……。でもこの日は、おばあさんの顔を見てしまったせいか、捨てる一瞬躊躇した。そして一口食べてみる事にしたの。
……衝撃だった。だってそれは、私がそれまでに食べた何よりも美味しく感じたんだもの。
そして何故か、食べた瞬間におばあさんの顔が思い浮かんだ。
気がつくと私は泣いていた。同時に、今までに感じた事もないような罪悪感に襲われ、これまでおばあさんにしてきた事を後悔した。
すぐに追いかけたけど、おばあさんの姿はもうなかった。かといって家も知らなければ、名前さえ知らない。私は、毎日来るおばあさんの事だから、明日も来てくれると期待して待つ事にした。
そして、今までの事を謝るつもりだった。
でも次の日おばあさんは来なかった。その次の日も、また次の日も……。ついには一週間おばあさんは現れなかった。
私は、愛想をつかされた。でも今までの酷い態度に加え、罵声まで浴びせたんだから、それは自業自得だと思い、諦めて町を出る事にした。
そして出会ったのがゴローちゃん、あなただった。
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