第三十八話 人殺し
ソアラ失踪事件は、ソアラの帰還という形で無事に解決した。
失意のソアラを立ち直らせたのは、驚く事に猫のレミーだった。しかしその正体は、死んだはずの吾郎の妻、ソラであった。
そして彼女は、何かを償うかのように語り始めた……。
――リビング
「さてゴローちゃん、私が猫になってここにいる経緯はそのうち話すとして……。それよりも、政府の人間がソアラの前に現れた以上、あなたには話しておきたい事があるわ。概ねの話は、ソアラが話してくれたから察しは付いてるでしょうけど」
「……ドラグレスクの一件……、事故じゃなかったんだな……」
「ええ。……ノアには、あの子が大人になった時に話すわ。……母親が人殺しだなんて今のあの子には受け入れられないと思うから……」
「何をっ!?」
「……事実よ」
「11年前、お前は研究所に戻った。だがソアラの話のとおりなら、お前も被害者だ。人殺しなんかじゃない!」
「いいえ、ゴローちゃん。あれは、私が立ち上げたプロジェクトだった。あの研究は私が始めた研究……。私が罪もない研究員たちを巻き込んだ。殺したも同然よ」
「そんな……、しかしそんな危険な研究、そこまでしてやる必要が……っ! いや……すまん」
吾郎は、言いかけた言葉を撤回した。命を懸けた研究に理由が無い訳がない。そう思ったからだ。
「……ゴローちゃん、この町に来たばかり頃の私の印象覚えてる?」
「え!?……研究熱心な人……そんな感じだった」
「気を遣わなくていいわ。正直に言って」
「……自分のやりたい事が中心で、それ以外に興味を示さない……冷たい人……。正直そう思った」
「そうよ……、私にはそれが当たり前だった。寧ろその考え方が世界の常識。この町の風習に私は、苛立ちすら感じていた」
「……」
「ヒューマライズという技術によって、大抵の欲が叶うこの時代に、他人に手を差し伸べるなんて……。そんな暇があったら自分の為に時間を使って、少しでも理想に近づきたいと思わないのか。そんな風に思ってた」
「……」
「でも、この町の人たちはいつも笑っていた。私にはそれが全く理解できなかったけど、それを解き明かす事こそ私がこの町に来た目的でもあった。ヒューマライズの使用を拒む者達の生活を観察し、データを集める事がね」
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