第三十五話 失意の中で
風の正体はレミーだった。
その勢いでソアラの顔を引っかいた。
「うっ!!」
ドサ……
倒れるソアラ。しかし、立ち上がると逃げるように階段を駆け上がり、自分の部屋の方へ向かった。それをすかさずレミーが追いかけた。
吾郎は、呆気にとられ言葉を失っていた。そして、振り返ると放心状態のノアがいた。吾郎がこの有様だ。まだ子供の、それも思春期の一番多感な年頃の少女にこんな過酷な状況が受け入れられるはずもなかった。
ましてやノアにとってソアラは幼い頃から同じように成長してきた唯一無二の存在だ。そのショックは計り知れない。
「……お姉ちゃん……なんで? なんでなの……? 嘘だよね……? 私が甘え過ぎたから? ホントは迷惑だったの?……ぐすっ、ねぇお姉ちゃん……。私、どうすればいいの?」
「ノア……。ソアラは、お前の事を迷惑だなんて思っちゃいないよ。あんな嘘までついて破棄を強行しようとした理由が他にあるはずだ。……大丈夫! お前は何も心配する事はない」
「ううぅ……」
――ソアラの部屋にて
レミーがソアラの部屋に入ると、ソアラはベッドに倒れ込みうつ伏せになっていた。
「……ソアラ、あんな嘘までついて……そうまでして破棄を強行した理由……あるんでしょ?」
「お母さん……。私もうお父さんとノアに合わす顔がない……。一日考えて覚悟決めたのに。次にお父さんに会った時……、破棄を強行しようって。だって理由なんて話したところでお父さんはきっと私を破棄なんてしない……。お母さんだってお父さんの性格知ってるでしょ? だから強行するのが最善……そう思った。……けど、失敗しちゃった……」
「……」
「そのあとの私は最低……もうどうしたらいいか分かんなくて無茶苦茶……。でもお父さんの顔……、あんな酷い事言った私でさえ受け入れる、そんな顔だった。……思った。この人には適わないって……。結果として私はお父さんを傷つけただけ……。それだけじゃない。私は一番守らなきゃいけないノアまで傷つけてしまった……。もう最低だ……」
「“自分が犠牲になる事で家族が助かる”そんな事情があった……。そんなとこかしら……」
「え!?」
「そうでもなければ、そこまで分かってるあなたがあんな行動に出るとは思えないから……」
「……」
「そうね、私があなたの立場だったとしても、あなたと同じ選択をしたと思う。けどねソアラ、あんた子供よ。子供は困った時、親を頼ったっていいの。家族を守りたいって思ってくれた事、それは本当に嬉しいわ。だけど、ひとりじゃ抱えきれそうもない時、頼る事も勇気なのよ」
「……けど、私はヒューマライズ。家族を死なせる訳にはいかない……」
「……いい? ソアラ。あんたがお父さんやノアを死なせたくないって思うのと同じくらいお父さんやノアだってあんたに死んでほしくないって思ってるのよ!……それに私だって。……あなたは私にとっても娘だもの」
「お母さん。ふふっ……似てるね!……やっぱ適わないな」
「似てるって、ゴローちゃん?」
うなずくソアラ。
「……ううん、全然よ。私は、あの人の足元にも及ばないわ……。私は寧ろ……。さっ! 行くわよ! お父さんとノアの気持ちが分かったんなら、謝ってきなさい! 本当の気持ち……、伝えるべきよ」
「うん。私、何も分ってなかった。ありがとね、お母さん」
「なーに言ってんの。(“結果として傷つけた”か……。最低なのは私の方よ……)」
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