第三十四話 異変
ソアラの行方が分からないまま途方に暮れる吾郎とノア。帰還を信じ、自宅で待つ事にしたものの時間だけが虚しく過ぎていた。
何も解決できないまま一日が終わってしまうと思われたが、日付も変わろうとしていたその時、事態は動いた。
ガチャ……
「っ!!」
玄関の扉が開く音を聞いた二人は、急いで玄関に向かった。
そこにはソアラが立っていた。しかし、明らかにいつものソアラとは様子が違っている事に二人は気が付いていた。微弱ながら、殺気にも似た雰囲気がソアラから感じられたのだ。
「お姉……ちゃん? 嘘……だよね?」
受け入れがたい状況に膝から崩れ落ちるノア。
「ソアラ……、一体今まで何処に……」
吾郎がソアラに問い掛けるも、ソアラはその問い掛けには答えようとはしない。そして、ゆっくりと吾郎に近づき、力が抜けたように倒れ掛かった。
「おいっ!」
慌ててソアラを支える吾郎。しかしそれがソアラの狙いだった。吾郎の不意を突いて腕に噛みつこうとしたのだ。
「くっ!」
しかし吾郎は寸前でそれをかわし、ソアラを引き離した。なぜならその行動が意味する事は“破棄”だったからだ。
“破棄”……。それはヒューマライズにとって死を意味する概念である。
破棄されたヒューマライズはそれまでの記憶が消され、生産元に転送される。その後、機能上の異常がなければ再度売り出される。しかし異常が見つかればそこで廃棄物となる。
ヒューマライズ所持者は購入時に“破棄の取決め”と呼ばれる契約をしている。それは、ヒューマライズに破棄を宣告する時の引き金の様なものだ。
吾郎の場合は、“吾郎の血を100cc以上ソアラが飲む”これが満たされた時、破棄が成立するように契約している。そんな有り得ない事を破棄の条件にしているのは、吾郎がソアラを破棄するつもりがない決意の表れでもある。それでも取決めをしたのには理由はある。
ヒューマライズは、破棄の宣告をされる以外にも、主人が亡くなった場合も破棄される事となっている。しかし、破棄の取決めが成されていない場合、主人が亡くなっても破棄が発動しないのだ。
主人が亡くなった状態で破棄も成立していないのは、異常とみなされる。つまり、その時点で廃棄物として処理される対象になる。吾郎は、自分が死ぬまでソアラを破棄はしないが、自分の死後はせめて次の人生が歩めるように破棄の取決めをしたのだ。
「ソアラっ! お前……!」
「もう居たくないから……」
「え?」
「もうこんなとこに居たくないって言ってるの!! だから破棄してよ!! ねぇ! お願いだから!!」
酷く取り乱した様子で必死に吾郎に訴え掛けるソアラ。
「ソアラ、落ち着け!! 何があったんだ一体!? 理由を言ってくれ!!」
動揺しながらも理由を問う吾郎。
「……お願い……お願いだから……」
しかしソアラは答えようとはしない。力無くうなだれた様子で崩れ落ち、声も弱々しい。常に冷静だったソアラは見る影もない。しかし吾郎もまた、理由を聞く事くらいしか思い付かないほど混乱していた。
そんな中、吾郎の足元を勢いよく風が吹き抜けた。
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