第三十話 星空と胸騒ぎと……
空を見上げると満点の星。
「ねー、お星様家で見るよりいっぱいだねぇ!」
「空気が澄んでるからなぁ! なあノア、これだけいっぱいでもお母さん見つけられるか?」
「うん、分かるよ! ほら、あそこにいる!! お姉ちゃんも分かるでしょ?」
「うん、ノアと一緒に毎日おやすみなさいしてるからね!」
「流石だな~、二人とも!」
「ねぇ、ノア。あの星がお母さんで、他の星たちは誰なのかな?」
「え? う~ん……。ねぇ、お父さん知ってる?」
「他の星たちも皆死んでしまった人たちだよ。皆、それぞれの家族をああやって空から見守ってるんだ」
「ふーん。だってさ」
「え? 死んだって……、お母さんも……?」
「うん。お母さん死んじゃったからお星様になったんだって」
「……ごめん、ノア」
下を向いて目を逸らしながら謝るソアラ。
「ん? なんで謝るの?」
「だって、私、お母さんが死んだなんて知らなくて。お母さんは初めからお星様なんだって思ってたから……」
この世界では、吾郎のように親が子に迷信じみた事を教えるという風習は一般的ではない。その為ヒューマライズの基本プログラムでは迷信を認識する事はできない。
その上、今までノアの母が家にいない理由も聞かされる機会も無かった為、何の疑問もなくノアの母を星だと思っていたのだ。
もっとも、ノアの場合も母親が死んだと認識はしているものの星になった事は信じているのだが。
「そうか……。そうだな、ソアラには今まで話す機会が無かったもんな。お母さんが星になったのは3年前の事だ。それまでは人間だったんだ」
「お姉ちゃん、ひょっとしてノアが寂しがると思ったの?」
「……ごめん」
「大丈夫だよ。ノアお母さんの顔あんまり覚えてないし。それに、今はお姉ちゃんがいるもん!」
「……ノア」
笑顔のノアを見て安堵の表情を見せるソアラ。
「おほん! えー、ノアさん、お父さんを忘れてないかい?」
「あ、忘れてた……」
「ガーン……!!」
「あはははっ! 嘘嘘、忘れてないって、お父さん!」
「ふふっ! あーあ、お父さん可哀そ~」
「フニャーー!!」
「っいででで!! こらレミー、人の頭の上で暴れるな!」
「“私も忘れるなーー!!”だって!」
「もちろん忘れてないって! レミーは姫様だもん! ね、お父さん!」
「ああ、立派なおてんば姫だ」
そう言いながら吾郎はレミーを頭から下ろした。
「さて、そろそろテントに戻るか?」
「あ、その前にお母さんにおやすみなさい言ってないよ」
「あ! そうだね! 今日は疲れていつの間にか寝ちゃってたから」
「よし! ではみんなで……」
「お母さん、おやすみなさい!!」
「にゃ~!」
「ふふっ! レミーも言ってくれたみたい!」
「……」
皆で挨拶を済ますと、突然ノアが黙り込んだ。
「ノア?」
「……お姉ちゃんずっといるよね?」
「え?」
そしてソアラに抱きつく。
「わっ! 突然どうしたの?」
「……ずっといて!!」
「ノア……」
突然のノアの態度に困惑するソアラに代わって吾郎が答えた。
「何当たり前の事言ってるんだノア! 二人ともお父さんの娘なんだから、いるに決まってるだろ?」
「ホント? ねえ、ホントにホント?」
「なんだ? 信じないのか、ノア。……そんな疑う子には……こうだ!! こちょこちょこちょこちょ……」
「アハハハハーー!! 分かった! アハハハ……分かったから……!」
「よーし、分かったようだからこの辺で見逃してやろう。さて、じゃあテントに戻るぞ」
「もう! お父さんのせいでノア目ぇ覚めちゃったよ……」
「ノア、ならお姉ちゃんが子守唄歌ってあげるよ!」
「お、お姉ちゃん……?」
「ふふふっ! 冗談冗談!」
「お! ソアラもお父さんのノリが分かってきたな?」
「へへっ!」
こうして一日が終わろうとしていた。
だがこの日は、吾郎にとって、幾つかの疑問が残る事となった。
レミーの身体能力に始まり、ソアラの意思のある発言……。そして、ノアの胸騒ぎでも感じたかのような行動。
数年後、これらの疑問の答えが出る。そして、家族はそれぞれ大きな決断をする事となる。
それぞれが守るべきものの為に……。
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