第二十四話 猫さん、はじめまして
ソアラが式神家にやってきて、一ヶ月程が経ったある日の事。
いつもなら幼稚園からバスで帰って来るはずのノアが、雨の中ずぶ濡れで帰ってきた。
その手には何やら布に包まれた物が抱えられていた。
「はぁはぁ……、ただいま……」
「ノア! ずぶ濡れじゃないか!? 走って帰ってきたのか!?」
「……お父さん。ノアより……この子……。死んじゃいそうなの……」
そう言うと両手で抱えていた布を開いた。すると中から瀕死の子猫が出てきた。
「猫!? どうして猫なんか持って……」
「幼稚園の門の前で倒れてて……。雨降ってきて……このままじゃ濡れて死んじゃうって思って連れてきたの! でもどうしよう? この子、息苦しそう……」
そこにソアラが歩み寄った。
「ノア、ちょっと見せて」
「え? うん」
「……うん。大丈夫、何とかなりそう」
猫が辛うじて生きている事を確認すると、ソアラは猫に手を当て意識を集中し始めた。すると次の瞬間、驚いた事にさっきまで虫の息だった猫が目を開いた。
「やったーー! 治ったーー! お姉ちゃんすごーい!!」
「う、嘘……。どうなってるんだ? ソアラ」
「気力を分けただけだよ。生活支援型のヒューマライズは、特殊救命能力が一通り備わっているの」
「そんな事もできるのか!?」
「うん。でも外傷が無くてよかったよ。外傷が酷いとこの能力だけでは助けられないから……」
「いやぁー、にしても驚いたよ~」
そんなやり取りをしていると、子猫がよたよたとソアラに擦り寄った。
「ねー! この子、お姉ちゃんが助けてくれたって事分かってるのかもしれないよ!」
しかし、猫の態度に戸惑うソアラ。どうやら動物に対する接し方はそれほど多くプログラムされていないらしく、特に動物に気に入られた時などの対応は苦手のようだ。
「えっと……、どうしよう?」
困惑し、苦笑いでノアに助けを求めるソアラ。
「お姉ちゃん、こうだよ! 猫はこうやって抱っこして、よしよしってするんだよ! この子も今日からうちの子になるんだから、可愛がってあげなきゃね!」
「おいおいノア。簡単に言ってるけど、生き物を飼うって事は責任重大な事なんだ。可愛がるだけじゃなくて、ちゃんと面倒も見なくちゃいけないんだぞ」
「うん! ノア、面倒見るって約束する! だからお願い! 猫飼わせて!」
「はぁー……、ホントだな? 約束だぞ!」
「うん! わーい、やったー!!」
「まったく……。そういう訳で新しい家族が増えた訳だが……、ソアラもノアと一緒に面倒見てやってくれな!」
「うん! 新しい家族……。じゃあ、挨拶からだね」
そう言うとソアラは猫に挨拶をし始めた。
「猫さん、はじめまして、私の名前はソアラです。今後ともよろしくお願いします」
それを見て、ノアが笑う。
「ぷははー!! お姉ちゃん、猫にそんなに丁寧に挨拶しても猫は言葉分かんないよー」
「え? そうなの?」
しかし時々みせるソアラの拍子抜けした行動は場を和ませる。だがそれを拍子抜けと思ってしまうのは人間が概念というものに捉われすぎている証拠でもある。
様々な知識がある事は確かに重要な事だが、同時にそれがあるが故に等しい目線での判断ができなくなってしまうのは人間の弱さである。
そんな事をノアにも伝えたかった吾郎は、敢えてソアラに乗った。
「いいや、ノア、笑ってもいられないぞー。確かにノアの言う通り猫は人間の言葉を理解できないかもしれないけど、今日から我が家の一員になる訳だ。挨拶くらいしとかなきゃな」
「え~?」
半笑いのノアを余所に吾郎も子猫に挨拶をし始める。
「猫ちゃん、こんにちは! 私の名前は式神吾郎。ノアとソアラのお父さんです。よろしくな!」
「あー、お父さんまでー! じゃあノアだって!」
何だか一人だけ仲間外れになった気分になって負けじと挨拶をしようとするノア。
「猫ちゃん、ノアはノアだよ……あれ? なんかおかしいや、ノアなのにノアって言っちゃった」
「ぷっ! あはははっ!」
「あーもー、お姉ちゃんひどーい!」
そんなやりとりをしながら二人は楽しそうにふざけあった。
「ってノアびしょ濡れのままだよ。風邪引いちゃうって」
「あーあー! もう、拭くからお風呂場おいで」
「はーい……」
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