第百八十二話 ジャネクサス・スタードレア―
放たれる攻撃。
そして……――
「……え? 私、生きてる?」
「あ……あ……」
生きていたレン。
そして、開いた口が塞がらず自らの目を疑うカルマ。……思わずその名を叫んだ。
「ロ……、ロキっ!!」
レンの前に現れ攻撃を受けたのは……、ロキだった。
「ロ……、ロキ……」
涙ぐむレン。
「……レン。カルマを連れてソフィアの待機空間にでも逃げろ」
「ロキ……! でも……っ」
「こいつの相手は俺にしかできない。さっさと行け。これ以上無駄な死人は出したくない」
「ロ……キ?……分かった。あなたを信じる」
「させんっ!!」
レンがカルマに近づく前に先手を打とうとするジャネクサス。しかし、ロキがその腕を掴み止める。
「き、貴様っ……!」
それを見たレンは、その隙にカルマを連れてソフィアの下に向かった。
「邪魔をしおってぇぇぇ!!! 小僧ぉぉぉ!!!」
どす黒く禍々しい気を掌に集めるジャネクサス。集められた力はブラックホールに匹敵する程の質量を秘めている。惑星の内側でその力をコントロールするその業は理を超越した域に達す。
「くたばれぇぇぇ!!!」
至近距離から放たれる攻撃。もはや不可避。
微動だにしないロキ。成す術は無い……。
だが、
「なっ!!!」
その強大な力はロキに触れた瞬間にまるで空気のように消え去った。
「き、貴様……何をしたっ!?」
「……“摂理の矛盾”」
「摂理の……矛盾……じゃと?」
「よって、お前の攻撃は俺には通じない」
「どういう事だ……?」
「俺は……お前だ。ジャネクサス」
「ふぁっはっは!!……何を言い出すかと思えは、戯言を。有り得んわ!」
「俺はお前の居た時代……この時代から800年後の世界から来た」
「っ!!……なぜ貴様がその事を……?」
「俺はお前だと言っただろう」
「……何が目的だ?」
「お前を“本来のお前”に戻す。……それが俺の役目」
「なん……だと?」
「“ミルシェの遺志”。本来、ヒューマライズに込められた願いだ。かつてはお前も……――」
「うるさいっ!! そんな物は幻想だ!」
「エトワール・レ・ミルシェ……、ヒューマライズの創始者。彼女は、人がいつか心を失ってしまう事を既に危惧していた。そして後世でヒューマライズが、人にその“心”を取り戻させる種となる事を願った。その種はやがて芽を出し、そして花開く。……ミルシェは花開いた先に、人を次のステージへ向わせようとしたんだ。異種を受け入れ、争い以外の方法で発展、進化する……。そう“真人類構想”それがミルシェの遺志だ」
「……お前が本当にわしだとすれば知っておろう。この先800年経とうが人は異種を受け入れる器は持てぬ。自らより有能な存在を恐れ、先手を打つようにして排除したがる。……逆に排除されようものならその理不尽に怒る。我慢などできない。……恐れや怒りという負の感情を増幅させてしまうという“弱さ”を克服できないのだよ。それは……人類の末裔とも言えるこのわしがっ! 人間とヒューマライズのハーフであるこのわしがっ! 仲間を……家族を……理不尽に殺戮されたわしがっ! 未来で……怒りのままに人類を滅ぼした、このわしが証明だ!!」
「……」
「……何があっても他を恨んだり憎んだりしてはダメだと願った父と母を……わしは裏切ってしまった。……だからわしは……、わしなど生まれて来ぬ未来を……争いの呪縛から逃れられなかった……“知”を持つにはあまりに未熟だった人類を終わらせる……。その為に過去に来たんじゃ!!」
「お前はよく耐えた。それ以前にも堪え難い仕打ちに何度も遇ったが、それでも父と母と共に仲間の先頭に立ち、よく守った。……父と母がこの先の800年後まで繋いだミルシェの遺志を守ったんだ。お前も。……思い出せ」
「……結局、未来は変えられんという事か……。ここで、カルマを討ち漏らし……未来に争いの火種を残してしまうだけ……。分かっておった。レヴェイが生まれた事が未来で争いが起こる原因ではない……。わしがこの時代で彼らに戦意を振りかざした事が未来でも争いが続く原因……。じゃが、完遂できれば未来は変わる。人もヒューマライズもいない未来に。わしらハーフも生まれてこない未来に。……もう、消えたかった。消したかったんじゃよ。あんな未来が来ると言う悲劇を……。絶滅という綺麗な形で……」
「まだ間に合う。お前だって諦めきれてなかったんじゃないか?……だから、ソフィアを生んだんじゃないのか? 人類でもヒューマライズでもない、……そう“真人類”の可能性として」
「……どうやらお前は、本当にわしのようじゃな。その真意はわししか知らぬ。……じゃがわしは、そのソフィアという一縷の希望さえも諦め道ずれにしようとした……。もう、手遅れじゃ」
「斑鳩が繋いでくれた。無駄にするな。最後の一本の糸だ」
「……その斑鳩を討ったのも、このわしじゃ!! あやつは、先に逝って待っておる。楽に死なせてやりたかったが……最後に酷い思いもさせた……。もう……何処まで行こうがわしの罪は許されるものではない。ここで目的を果たせねば、あやつは何の為に命を落とした!!」
「お前の過ちを彼女が断ち切った。……そして繋いだんだ。未来を。その命で」
――その瞬間、ジャネクサスの目から涙が溢れた。
「……あ……あ……斑鳩……、いがるがぁぁぁーーー!!! ずま゛ん……ずま゛んーーーー!!! あああぁぁぁーーー、わしは……わしはぁぁぁーーー!!!――」
それは、800年の時を超えて枯れ果てた泉に潤いが戻った瞬間だった。
ロキが消える……。
そして、ジャネクサスの気配が……変わる――
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