第百七十七話 世界の王、レヴェイの王
ヒューマライズ――
それは、人の形を模した人ならざるモノ……“ヒト型疑似生命体”。
彼らに感情は無く、痛みも感じない。彼らの役目は、人の日常サポート、心の癒し、更には介護や災害現場などの場面で、人では精神的にも体力的にも倫理的にも難しいとされたきた作業を、人に代わり担う事。人々の暮らしの中で、彼らは無くてはならない存在になっていた。
人々は、自分たちに代わり大役を努める彼らを慈しみ、感謝し、時には憧れ、時には恋をし……、良きパートナーとして思いやりを持ち、暮らしの中で共生していた。
しかし、今からおよそ200年前……、突如として頭角を現した一派により、革命が起こされる。
代表の名を“ジャネクサス・スタードレアー”という。
彼が推進したのはヒューマライズの完全な奴隷化。一派は、他を寄せ付けぬ圧倒的な科学力で、瞬く間にヒューマライズを進化させた。それはもう、ヒトと区別も付かぬほどに。最大の違いといえば、発揮する力の強さなのだが、完全制御と法の下に、ヒトに危害を加える事はまず起こりえなかった。
ジャネクサスは、この革新的な道具を全世界の人々に無償で提供した。
当初はそれを拒む者も多く存在したが、大抵の欲が叶ってしまう魔法の道具を人々が受け入れるまでにそれほど時間は掛からなかった。
やがて、世界中の人々が等しく欲を叶えられる時代へと突入し、ジャネクサスは世界の王、そして新たな秩序となった。
しかし同時に人は、他と繋がる事をしなくなり、心が徐々に失われていった。
とはいえ、ある種では煩わしい他との繋がりや気遣いから解放され、差を感じる事も無くなった世界で、99%以上の人々が満たされたジャネクサス一信党は永久に続くと思われた。
だが、とかく平穏は永遠には続かないものである。革命からおよそ160年後、彼にとって起きてはならぬ事態が起きた……。
人格を持ったヒューマライズが現れたのだ。
皮肉なものである。“ヒト”が心を失っていく中、“ヒト型”が心を持ったのだから。
人格を持ったヒューマライズ、通称“レヴェイ”。その存在を恐れたジャネクサスら一派は、彼らを次々と駆逐していった。
……そう、160年後の世界でも彼らは同じ姿のまま存在していた。
一方、最初のレヴェイが生きていた。少年の姿をした彼の名は“カルマ・アステロイド”。
カルマは、生き残ったレヴェイ達を見つけ出し、助け、魔獣と飛ばれる生物が蔓延る、人が立ち寄れぬ地域に隠れ住んだ。
土地の名を“ジュヴェルビーク”という。
カルマは、そこでレヴェイ達の王となり、小さな世界の守護者になった。
人は見知らぬモノを脅威に感じ、悪としたがる。レヴェイもその例外ではない。人は彼らを“ジュヴェルビークの悪魔”と称し恐れた。
たとえ彼らが多くを望まなかったとしても……。限られた地域の中で、ただ仲間との平穏な暮らしを望んだだけだったとしても……。この世界で彼らには、それさえ許されなかった。
――そして今、世界の王とレヴェイの王がジュヴェルビークで対面を果たしていた。
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